トランプ大統領を誕生させたと言われるデータ解析による選挙コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ」を巡って、大きな動きがあった。
By rulenumberone2 (CC BY 2.0)
同社の元スタッフが、実名、写真付きで米ニューヨーク・タイムズ、英オブザーバーに証言。研究目的と称して、フェイスブックアプリからユーザーのユーザーの友人関係や「いいね」の履歴などを取得し、選挙に流用していた、と明らかにしたのだ。
その取材の機先を制するかのように、週末に突然、フェイスブックは「ケンブリッジ・アナリティカ」や関係者のアカウント停止を公表する。
この騒動を受けて、米マサチューセッツ州の司法長官は両社に対して説明を要求。英情報コミッショナーも、個人データの違法取得・使用の可能性があるとして調査を行っていくとの声明を発表した。
●元スタッフの証言
「ケンブリッジ・アナリティカ」は、ユーザーのフェイスブックなどの行動履歴データをもとに、マイクロターゲティングを行うことで知られる選挙コンサルティング会社。
2013年設立で、2016年の英国のEU離脱を問う国民投票では離脱派、同年の米大統領選では、当初は共和党のテッド・クルーズ氏、のちにドナルド・トランプ氏の陣営のコンサルティング。
英国民投票、米大統領選と相次いで勝利をおさめたことから、その存在がクローズアップされた。
「ケンブリッジ・アナリティカ」の設立には、トランプ氏の支援者で保守系政治運動の資金提供者として知られる米ヘッジファンド「ルネッサンス・テクノロジーズ」の共同CEOロバート・マーサー氏が1500万ドル(15億円)を提供。
さらに、トランプ陣営の選対本部長、当選後はトランプ政権の首席戦略官兼大統領上級顧問(2017年8月更迭)として最側近とも言われたスティーブン・バノン氏も、同社の副社長を務めていた。
ただ、同社が解析のもとになる膨大なユーザーデータを、どのように入手していたのかについて、疑問の声が上がっていた。
米ニューヨーク・タイムズと英オブザーバーが17日、元スタッフで、データ解析のシステム開発で中心的な役割を担ったというクリストファー・ワイリー氏が、その手法について、内部資料とともに証言した、と報じた。
それらの報道によると、内部資料には、5000万人を超すフェイスブックのユーザーのデータが含まれている、という。
そして、これらユーザーデータは、ケンブリッジ大学の研究者で、「ケンブリッジ・アナリティカ」と提携関係にあったアレクサンドル・コーガン氏が開発したフェイスブック用のパーソナリティ診断アプリ「thisisyourdigitallife」を通じて取得されていた、という。
データ取得は、「学術調査」という名目で行われており、またこの際、ユーザー本人のデータだけでなく、フェイスブック上の「友達」のデータも取得していた、という。
この内部資料は、英情報コミッショナーと英国家犯罪対策庁サイバー犯罪チームなどに提出済みだという。
●フェイスブックが機先を制する
タイムズとオブザーバーの報道が配信された前日の16日金曜日、この件を先んじて公開したのが、フェイスブック自身だった。
フェイスブックの副社長兼副法律顧問、ポール・グレイワール氏は、この件に関して、「ケンブリッジ・アナリティカ」及びその親会社「ストラテジック・コミュニケーション・ラボラトリーズ(SCL)」、さらにアプリを開発したコーガン氏と、今回証言したワイリー氏のフェイスブックアカウントを停止した、と表明した。
フェイスブックは、コーガン氏のアプリを、ダウンロードしたユーザーは27万人だった、と明らかにしている。
そして、ダウンロードしたユーザーは、プロフィールに登録している所在地や「いいね」をしたコンテンツなどのデータへのアクセスを了承していた、という。また、ユーザーの「友達」のデータについても、本人が了承している範囲でアクセスが可能になっていた、と認めた。
だが、このデータを第三者である「ケンブリッジ・アナリティカ」やワイリー氏に提供した点が、フェイスブックの規約に違反した、と主張。
今回の件が、セキュリティの不備などによる「データ漏洩」ではない、と述べている。
また、この規約違反は、すでに2015年に明らかになっており、フェイスブックはこの時点でコーガン氏のアプリを削除。「ケンブリッジ・アナリティカ」、コーガン氏、ワイリー氏にユーザーデータの削除証明を求め、いずれもそれに応じた、としている。
だが今回、そのデータが実際には残っていることが明らかになったため、アカウント停止に踏み切った、と言い、さらに法的手段も検討する、としている。
●注目を集めてきた「ケンブリッジ・アナリティカ」
フェイスブックの声明で、規約違反が2015年に明らかになった、としている。
この年の12月、英ガーディアンが、当時はテッド・クルーズ陣営のコンサルティングを行っていた「ケンブリッジ・アナリティカ」の実態を報じている。
それによると、ユーザーデータ取得には、アマゾンのクラウドソーシングサービス「メカニカル・ターク」が使われ、「研究目的」という名目で、アンケートに答えるとともに、アプリのダウンロードを指示されていた、という。
フェイクブックの説明通りだと、アプリをダウンロードし、データ提供をしたユーザーは27万人。ワイリー氏の内部資料にある5000万人分以上のユーザーデータとは、乖離がある。
だが、2015年のガーディアンの報道によると、2014年時点で、フェイスブックのユーザーは1人当たり平均340人の「友達」がいたという。
アプリをダウンロードしたユーザー1人当たり340人分の「友達」のデータまで提供していたとすれば、全体で5000万人分以上という規模は、理解できる数字だ。
「ケンブリッジ・アナリティカ」の実態については、その後も、調査報道メディア「インターセプト」や、英国のEU離脱国民投票に焦点をあてたオブザーバー、さらにニューヨーク・タイムズなどによって、繰り返し報道されてきている。
今回のニューヨーク・タイムズ、オブザーバーの報道のインパクトは、システム開発に中心的な役割を担ったという元スタッフが、内部資料とともに実名、写真付きで告発に動いた、という点だ。
報道を受けて、マサチューセッツ州の司法長官、モーラ・ヒーリー氏は17日、ツイッターでこう述べている。
マサチューセッツの住民は、フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカから直ちに説明を受ける権利がある。我々は調査を開始する。
また、英情報コミッショナーのエリザベス・デンハム氏も17日、声明を発表した。
我々は、フェイスブックのデータが違法に取得され使用された可能性がある状況について、調査を進めている。
個人データが不正に取得・使用されたり、第三者に無断で譲渡されたことが認定されれば、英国のデータ保護法違反に問われる可能性がある。
ただ、ケンブリッジ・アナリティカは、フェイスブックのデータとは無関係、との立場を取っている。
同社CEOのアレキサンダー・ニックス氏は2月27日に、英国下院でフェイクニュース問題の調査に取り組むデジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会の公聴会で証言に立った。
これに合わせてニックス氏は、同特別委のダミアン・コリンズ委員長宛の同月23日付の書簡でこう述べている。
1月23日の貴委員会で、フェイスブックの「いいね」とパーソナリティ情報が、先立っての米大統領選で、有権者へのターゲティングに使用された旨の言及がありました。ケンブリッジ・アナリティカは、これまでも常々明らかにしてきたところですが、大統領選において、パーソナリティにもとづくモデリング、もしくは"サイコグラフィックス(心理学的属性)"を使用したことは一切ありませんし、フェイスブックの「いいね」の情報にアクセスしたこともありません。
今回のアカウント停止をめぐる報道でも、改めてフェイスブックのデータへの関与を否定している。
●フェイスブックのデータからわかること
フェイスブックのデータから、何がわかるのか?
コーガン氏と同じケンブリッジ大学で、フェイスブックの「いいね」をもとにした研究を先行させていたマイケル・コシンスキー氏らのチームは、2013年4月、米国科学アカデミー紀要(PNAS)でその成果を発表している。
それによると「いいね」の解析により、コーカサス系(白人)かアフリカ系(黒人)は95%、男女は93%、民主党支持か共和党支持かは85%、キリスト教徒かイスラム教徒かは82%、さらにゲイ(88%)、レズビアン(75%)も高い精度で、それぞれ特定することができた、としている。
このほかにもやや精度は下がるが、、喫煙(73%)、飲酒(70%)、薬物使用(65%)からパートナーの有無(67%)まで特定可能としている。
オブザーバーによると、ケンブリッジ・アナリティカのシステム開発を担当したワイリー氏は、このコシンスキー氏らの研究に触発されたようだ。
ワイリー氏はコシンスキー氏らのデータベースを使わせてもらえるよう交渉したが、不調に終わる。そこで、同じケンブリッジ大のコーガン氏が、同様のデータベースを独自に構築することを提案したのだ、という。
コーガン氏はロシア政府からの助成金を受けていた、とも指摘されている。
データが不正な手段によって取得されたかどうか、とは別に、フェイスブックのデータからは、これだけのことが判別できるという事実は、理解しておきたい。
そして、ユーザーは日々、そんなデータをフェイスブックに提供しているのだ。
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(2018年3月18日「新聞紙学的」より転載)