編集者を解雇したフェイスブック、アルゴリズムがデマをピックアップする

ニューヨーク・タイムズ・マガジンによれば、デマ満載の政治的なまとめサイトは、左右問わず、すでにフェイスブック・ページなどに溢れかえっているという。

フェイスブックが人気の話題を紹介する「トレンディング・トピックス」のコンテンツ選別を巡って、再び騒動が持ち上がった。

騒動は5月にもあり、この時は、人間の編集者が「意図的に保守派メディアを排除していた」との疑惑が取り沙汰され、CEOのマーク・ザッカーバーグさんが保守派の論客たちへの説明に追われる事態となった。

この時の"偏向"疑惑を受けて8月末、人間の編集者を一斉解雇。アルゴリズム主導での出直しをした。

だがその直後、「フォックス・ニュースが人気キャスターを解雇」というまったくのデマを、「トレンディング」に取り上げてしまったのだ。

フェイスブックは「メディアではない」との立場をとり続ける。

だが、ほぼ2人に1人はフェイスブックでニュースを見る、という現実もある。むしろメディアのような事実確認のチームが必要ではないか、との指摘も出ている。

●金曜日の夕方、26人を解雇する

フェイスブックは8月26日の金曜日、「トレンディング」のアップデートについてのリリースを公表した(※ただ、「トレンディング」は英語圏のみのサービスなので、日本ではそもそも馴染みがない)。

それによると、これまでは人間の編集者の手がかかっていた「ニュースのキーワード+ニュースの説明」という表示形式をやめ、キーワードとそのニュースを投稿・共有しているユーザーの数、という人手のかからない形式にしたという。

さらに、ニュースの中身については、キーワードにマウスオーバーかクリックすることで、記事の見出しとスニペットを表示する仕組みにしている。

これにより、アルゴリズム主導になり、編集者は不要となったが、なお表示される話題のチェックに人間が関与している、とリリースは述べている。

そして、この日の午後4時、「トレンディング」の編集チームには、一斉に解雇が告げられ、5時までに退去するよう申し渡された、とクオーツが伝えている。解雇されたのはキュレーター19人とコピーエディター7人の合わせて26人だったという。

●「人気キャスターを解雇」

デマが「トレンディング」入りしたのは、その2日後、28日の日曜日から翌29日月曜日にかけてだったという。

「メーガン・ケリー」のキーワードで、リンク先のニュースの見出しは「速報:フォックス・ニュース、メーガン・ケリーの裏切りを暴露、ヒラリー支持で解雇」。

メーガン・ケリーさんは保守派のニュースチャンネル「フォックス・ニュース」の看板キャスターで、解雇された事実はなく、全くのデマだった

このデマが掲載されていたのは、右派のまとめサイト。デマ自体も、他の同じようなまとめサイトから転載してきたものだった。

メーガン・ケリーさんは昨夏来、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプさんとの確執が知られる。一方、フォックス・ニュースのもう一人の人気キャスター、ビル・オライリーさんはトランプさん支持

来年、契約更改を迎えるこの2人の人気キャスターの、どちらかがフォックスを去るのでは、とのヴァニティー・フェアの観測記事を引き合いに、仕立てられたのが、問題のデマだ。

「裏切り」などの言葉遣いからも、トランプ支持派による嫌がらせであることが伺える。

●デマの方がうける

ニューヨーク・タイムズ・マガジンによれば、このようなデマ満載の政治的なまとめサイトは、左右問わず、すでにフェイスブック・ページなどに溢れかえっているという。

しかも、大きなものでは100万人単位の読者を持ち、数万ドルの収益をあげているところもあるようだ。

ファクトチェックの専門家で、現在はバズフィード・カナダ創刊編集長のクレイグ・シルバーマンさんの調査では、間違ったうわさ話やデマ情報は、事実よりも早く広まり、フェイスブックでより多くのエンゲージメントを獲得することがわかっている、という。

●フェイスブックにできること

"偏向"批判を受け、アルゴリズム重視で中立性をアピールしようとした矢先の、デマニュースの掲示。

「トレンディング」のリニューアルに合わせて、選定ガイドラインもアップデートしたというが、あまり役に立っていないことが明らかになってしまった。

何とも間の悪い展開ではある。

では、フェイスブックにできることは何なのか?

ファクトチェックの専門家である、ポインターのアレクシオス・マンツザルリスさんは、新たに10人ほどのファクトチェックのチームを編成すべきだと提言する

人手によって、今回のようなデマニュースをはじき、さらにデマニュースの発信源になっているようなサイト自体を除外していくべきだという。

フェイスブックはすでに昨年初めから、デマと思われるコンテンツについて、ユーザーがフラグを立てる仕組みを導入した

だが、どうもそれはうまく機能していない。

一般ユーザーに任せるより、専門家チームの目で確認していく方が確実、ということだ。

バズフィード・カナダのシルバーマンさんは、デマも排除できるような、アルゴリズムの改良をするか、おとなしく負けを認めて、「トレンディング」そのものを閉鎖するしかない、と指摘する

フェイスブックのザッカーバーグさんは、最近も、こう発言しているようだ

私たちはテクノロジー企業であり、メディア企業ではない。

だが、米国の成人の44%がフェイスブックでニュースを見ている現状では、その自己認識の問題とは別に、ファクトチェックを含めた編集機能は持たざるを得ないだろう。

●デマの検証と拡散防止を両立させる

デマの検証は、思わぬ副作用を伴う。

"デマであること"自体が話題を呼び、結果的にデマの発信元にトラフィックをもらたしてしまうためだ。

デザイナーのアヴィヴ・オヴァディアさんが、「ファースト・ドラフト・ニュース」で検証と拡散防止を両立させる方法を提案している

"nofollow"の活用だ。

のように、検証のためにリンクを張ったとしても、そのリンクをグーグルなどの検索エンジンがクロールしないようにする指定だ。

これで少なくとも、デマが炎上することで検索サイトなどでのランキングが上がり、結果的にトラフィックを獲得する、という状況は回避できる、と指摘する。

一つの対策ではある。

※この記事の中の、デマコンテンツへのリンクには、"nofollow"指定をしてみた。

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※ダン・ギルモア著『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』全文公開中

(2016年9月4日「新聞紙学的」より転載)

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