ラシク・インタビューvol.75
NPO法人ファザーリング・ジャパン代表 安藤 哲也さん
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「イクメン」という言葉が聞かれるようになって早や数年。
女性活躍推進法の影響もあって、男性の育休取得やより積極的な育児参加も叫ばれている一方、自分が思い描いていた「イクメン」の理想と現実のギャップに悩んでいる「イクメン・ブルー」の男性も少なくないのだとか。
「Fathering(父親であることを楽しもう)」の浸透・理解を事業とするNPO法人ファザーリングジャパン代表の安藤哲也さんは著書、『「パパは大変」が「面白い! 」に変わる本』 (扶桑社)を執筆したきっかけの一つとして「イクメンという言葉が普及する中で、パパ一人一人の状況は働き方やパートナー、生まれ育った環境も異なっていて、うまくやっている人も、ちょっとモヤモヤしている人もいる。そのへんの交通整理がそろそろ必要と感じました」とイクメンの多様化を語っています。
現在、講演や執筆活動を数多く手がけている安藤さんに、これからのイクメンとは?そのために女性ができるアプローチは?など夫婦で楽しく子育てをするためのヒントを伺いました。
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ママの笑顔に必要なのは、パートナーとその社会システム
編集部:今、急激に世の中が変わっている感じがありますよね。
身の回りにも育休を取得した男友達がちらほらいて、男性側の意識の変化を感じています。
安藤哲也さん(以下、敬称略 安藤):男女雇用機会均等法が施行されて30年、女性活躍推進法がスタートしたり、昨年の電通の事件もあって、長時間労働の是正、過労死撲滅という流れもあり、去年今年あたりは確実にエポックイヤーですね。
36協定の法律が変わったり、来年度に色々な動きが出てくるであろうという中で、法律が変わるから、じゃなくて、わが社から変えていこうと覚悟する会社がこれから生き残っていくだろうし、就職先として学生からも選ばれるだろうし、ワーキングペアレンツも働きやすくなるんじゃないかと思います。
編集部:安藤さんもかつてはものすごい激務だったと著書の中でも仰っていましたね。
ご家族や子育てに向き合うために意識を改革した立場から見て、「こいつは意識が変わらないだろうな」と思う男性のタイプってありますか?逆にどんなタイプでも変わる可能性があるものでしょうか。
安藤:自分で変えられる人と、変えられない人に分かれますね。
多くの人は自分で意識を変えられるはずなんだけど、今のような不確実な社会だと、余計に変わることに不安を持っているんですよね。
まあ、変えられない人も、①妻に逃げられる、②親が倒れる、③子どもの非行、④自分が大病する。これらで変わるケースは見てきました。
でもこれじゃ、犠牲者が出ているわけだから、もっと予防しようよってことだと思うんです。自分がラクになるには身近な人とまず信頼関係を作ることです。パパだったらママと子どもですね。パパが笑ってない家庭って、たいていママも子育てがしんどくなっているから悪循環に陥っている。
そこはちょっと視点を変えて、お互いを責めるのではなく感謝し合いながら、「僕らそれなりに頑張ってるよ」「ママがいるから僕も仕事ができるよ」って言ってみて欲しい。そうすればママの気持ちも満たされて、「大変だけど、二人で手を取り合ってやっていこう」ってパパを信頼してくれると思うのです。そうすればパパだって、家に居場所や役割ができて家庭生活が楽しくなるはず。
子育てで一番大事なのは、「ママが幸せであること」です。子どもが成長して自立していくために一番必要なのはママの笑顔、ママの肯定感が高くて、自分の選んだ道を間違っていないって信じていることなんだよ、ってパパたちには伝えています。
つまり、ママを幸せにするのは実は子どもではなくて、ママの人生を応援できるパートナーと社会システムしかないんです。ママが幸せだから子どもは未来に希望を持って育っていく。子どもの成長を願わないパパはいないと思うので、そのことは理解して意識と行動を変えていってほしいですね。
子どもが「母性社会」から「父性社会」へ出ていくためには、多くの大人と触れ合うことが大事
編集長 宮崎:我が家は今年長男が小学生になったんですが、保育園って手厚かったんだなって思うんです。
「子育て=お世話」ではなくなっていくし、やんちゃなこともし始める小学校だからこそママだけではなくて、パパもしっかり関わって一緒に変化を見ていくことがすごく大事なんじゃないかと実感しています。
安藤:学校もそれぞれですね。理想の学校なんて希望を持たず、どんどんパパも学校など地域のコミュニティへコミットして自分の目で判断し、何か変えた方がいいと思うことがあったら声を上げていくことですね。
子どもの育ちにおいて、パパの存在は大きい。子どもが成長するときに一番大事なことって「葛藤する」ってことだと僕は考えます。
ママの指示、ママが勧めることしかしない子どもって社会に出ても通用するんだろうかと思います。
パパとママの教育方針が違った場合、子どもはどっちが本当なんだろう?って考え始めるし、子どもがお母さんと学校の先生しか見ていないよりは、パパやその他にも、地域のおじさん的存在がいる方が新たな考えに出会えますよね。
これからの不確実性の時代には、自分の知的柔軟性でいかに乗り切るかっていうことが重要だから、どれだけ多くの大人に関わっているか、群れの中でもまれているかはすごく大事なんですよ。
ファザーリングジャパンで毎年開催している父子合宿では、「自分の子どもばかりみない」「パパ友の子どもと遊ぼう。絵本を読もう」などのルールがあります。
よその子、よその親と触れ合うのはとても新鮮だし、「このパパはここまでやらせてくれるのか」とか「こういうことでこのおじさんは怒るんだな」とか、よその家のルールを識るって子どもにとってはとても大事で、これが群れを育てる父性のチカラだと思うんです。
良い悪いではなく、ママだけでコミュニティを作るとどうしても子どもを「守って」しまう母性社会になってしまいますから、子どもが外に出ていくチカラが弱まってしまうと思うんです。
パパたちを改革するのに必要な三つの「感」
編集部:「冒頭でも今は過渡期であると仰っていますが、今後、日本の社会ってよくなると思われますか?
安藤:僕は「イクメンの不可逆性」と呼んでいますが、社会情勢からみても、かつての昭和のような亭主関白型が増殖することはないと思います。
ただ、男性の育児や家庭への関わり方だって多様化なんだから、ロールモデルを求めるのではなくて、自分らしい父親像を自分で作っていくしかないと思うんです。
そのためには独りよがりじゃなく、パートナーと、会社と、自分の住んでいる地域の人たちと手を取り合ってやっていくしかないんだけれど、多くの男性は育児でも仕事でも「自分のやり方が一番いいんだ!」って思いがちなので、そこの柔軟さ、多様性を認め合うことこそが生き延びるコツなんだってことに気が付くかどうかは分かれ目になるでしょうね。
僕たちがパパを改革するのに、三つの「感」というやり方があります。
まずは「危機感」を持たせるのです。子育ては期間限定なんだよとか、夫婦の老後のこととか、このままだとよくないぞ、という危機感をセミナーとかでたっぷり持たせる。
これはまずいなと思ったら、それを回避するアクションを教えます。子どもに絵本を読むとか、一日一回子どもを笑わせるとか、妻の話を10分じっくり聴くとか。「2カ月以内に違うことを3つやってみて達成感を持ってください」と提案します。
短い期間に同じ気持ちを3回味わうとそれは「快感」になる。
快感を味わうと、人間は「価値観」が変わるんです。
編集部:快感を3回っていうのはママからのアプローチでもできそうですよね。
安藤:ママから褒められるっていうのも「快感」に繋がるでしょうね。
だからパパが洗った皿をその場で洗い直しちゃダメですよ(笑)
日本の社会はそんな急激には変わるものではないと思いますが、父親の育児については今は缶詰のふたが3分の1空いている状態で、これからジリジリ空いていく感じはあります。
これがパカっとあいたらファザーリングジャパンは解散しますよ。先日、10周年のパーティを開催しましたが、みんなに「20周年はないからな」と言いました。そこが僕の目的ですし、いつまでも僕の本が読まれているようではダメなんですよ。(笑)
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男性の育児参加を呼び掛けた第1人者とも言える安藤さん。
言葉の一つ一つに説得力とユーモアがあり、普段なかなか聞くことができない
男性側の意見や視点に唸らされっぱなしのインタビューでした。
変化の年である今、より多くの意見に触れて、私も「缶詰のふたが空く」様子を
追っていきたいなと強く感じました。
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【安藤 哲也さんプロフィール】
NPO法人ファザーリング・ジャパン ファウンダー/代表理事
1962年生。出版社、IT企業など9回の転職を経て、2006年に父親支援のNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。「笑っている父親を増やしたい」と講演や企業向けセミナー、絵本読み聞かせなどで全国を歩く。最近は、管理職養成事業の「イクボス」で企業・自治体での研修も多い。厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」顧問、にっぽん子育て応援団 共同代表等も務める。3児の父親。
最新刊『「パパは大変」が「面白い!」に変わる本』(扶桑社)ほか、
『パパの極意~仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『できるリーダーはなぜメールが短いのか』(青春出版社)など著書多数。
文・インタビュー:真貝 友香
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