こんにちは、女性活用ジャーナリスト/研究者の中野円佳です。私は今年4月にチェンジウェーブという会社に転職したのですが、そのきっかけとなったのは、新聞記者として取材に行った「新世代エイジョカレッジ」というプログラムでした。今回から数回にわたり、日本の営業職女性の課題と、このプログラムで見えてきた可能性についてレポートしたいと思います。
「新世代エイジョカレッジ」というのは、リクルートホールディングス、サントリーホールディングス、日産自動車、IBM、キリン、三井住友銀行、KDDIの7社が合同で2014年に実施した取り組みです。30歳前後の営業職女性を集めて、半年かけて「営業職で女性が更に活躍するための提言」をまとめるというもの。この研修の設計と講師をしていたのがチェンジウェーブでした。今年度も同じ7社で2015年版エイジョカレッジがスタートしており、9月8日に最終プレゼンを控えています。
記者時代、女性向けの自己啓発系セミナー、育休を取った人向けの社内研修などは山のように見てきたのですが、このプログラムは一味違いました。何が違ったかというと、本気度が違う。普通、「キャリア設計を描いてみる」「ロールモデルに話を聞いてみる」「グループディスカッションを通じて解決策を考える」というような研修は長くて1日、短ければ1~2時間だと思います。なんとなく新しい情報を仕入れて、交流して、明日からの行動の変化にちょっとつながればいい、というものが多いのではないでしょうか。それはそれで意味があるとは思います。
ところが、このプログラムは半年。しかも、最終プレゼンは各社の営業担当役員などが実際に聞きにくる立てつけになっていました。「研修」「セミナー」ではなく、本当に経営者たちに訴えかけるリアルな場なのです。最初は「なんで集められたんだろう」「営業で毎日忙しいのに」という様子だった参加者たち。私自身も実は他の記者に取材の代打を頼まれて、あまり期待をせずに眺めていただけでした。
ところが、第一回の1泊2日の合宿で、営業で役員になった先輩女性の話を聞いたり、それぞれが営業を続けることに対する不安を吐き出したりした後の、2日目の終盤。最後に各グループで「今後の半年で取り組むテーマを発表する」というセッションがありました。ここで空気が一変します。合宿の最終段階では、普通は「2日間がんばったね!」「はーい、お疲れ様でした」という満足感を得たいところなのですが、講師の佐々木裕子(チェンジウェーブ代表)が、取材しているこちらまで背筋が伸びる勢いで質問をはじめます。
たとえば「女性管理職目標3割を目指します」というチームに対して。管理職の定義は?なぜ3割?1割や2割じゃいけないの?3割になるとどう変わるの?今なぜそうなっていないの?パフォーマンスに差があるの?それはなぜ?本当にそう?・・・。それまでワイワイとやっていた参加者も静まりかえります。
後日取材に行くと、佐々木裕子は「だって最後は経営提言をするんです。ちゃんちゃらおかしいんですけど、という提案をされても困る。せっかくなんだから、経営陣をぎゃふんと言わせたいじゃないですか」と言っていました。
その後、合宿で叩きのめされた参加者たちは、本来の業務をそれぞれの会社でこなしながら、並々ならぬ時間を割き、経営提言の作成に向かっていきます。その途中段階も取材に行きました。異なる会社に所属する中で時間を合わせるのも、価値観や前提を合わせるのも苦労する参加者たち。最初は打ち合わせのファシリテーターもままならず「大丈夫かな」と思う面もありましたが、結果的には非常に完成度の高いロジカルな発表にこぎつけていきます。
そのプロセスについてはまた後日書こうと思うのですが、彼女たちがそこまでできたのは、やはりこのプログラムの「本気度」が伝わったからだと思います。役員が聞きに来るという受け皿がしっかりあることにより、気が引き締まる。そしてそれ以上に、「自分たちの中の不安」に向き合うことから出てきた課題への提言を作る中で、うまくいけば自分たちの提言を本当に通してもらえるかもしれないのです。だから本気になる。
昨今様々に女性活躍推進が図られる中で、この枠組みには非常に可能性があると思いました。漠然とした不安を抱えている女性自身が、問題を整理して、ロジカルに解決策を提示していくことにより、描けなかったキャリアを描けるようになる。そして、女性たちのリアルがいまいち分かっていない経営側に、リアルな現状と課題が伝わり、本当に解決に動いてもらえる可能性がある。
女性活躍推進はこの両輪を動かすことがカギかもしれない。その後、半年経って私はチェンジウェーブに転職することになるのですが、次回以降はエイジョカレッジのその後、今年の動きについて事務局内部からの視点も含めてレポートしたいと思います。