難民・移民政策は本当にその国の「内政問題」?

難民政策も移民政策も決してある一国の「内政問題」として自己完結するものでなく、国際問題であり外交問題なのです。

最近、米国大統領のトランプ氏と会談した英国のメイ首相や日本の安倍総理から、「難民・移民政策は各国の内政問題なのでコメントは控える」という趣旨の発言がなされました。(ただし、英国のメイ首相はその後、国内外からの厳しい批判を受けて、昨今の米国大統領令には賛同しないと表明しています。)

確かに、各国の完全なる内政問題について他国の国家元首が口を挟むのは「内政不干渉」の原則に反します。しかも特に、EU離脱問題でワラをもすがる思いのメイ首相や、安保・経済分野での協力を引き出すためにトランプ氏に最大限の媚びを売る必要がある安倍総理にとっては、短視眼的な「国益追求」という意味では「理に叶った」発言と言えなくもないでしょう。

しかし、難民・移民政策は本当にその国の「内政問題」なのでしょうか?それぞれ簡単に検討してみましょう。

1.難民政策は内政問題?

そもそも難民とは、母国における内政が機能不全に陥っていることが一因となって、母国で深刻な人権侵害に遭っている(または遭う危険のある)人のことです。よって、母国以外の国に受け入れられる必要があります。

その受け入れられる方法が(以前のブログでも説明した通り)主に二つあって、一つが自力で庇護申請する方法と、もう一つが第三国定住経由で迎え入れてもらう方法です。

2015年末の段階で庇護申請している人の数は世界で320万人でした。この人たちを難民かどうか認定するのは、基本的に各国政府に委ねられていますが、難民の定義自体は「1951年の難民の地位に関する条約」で決められています。

もしある国がこの条約上の定義を非常に狭く解釈して、本来難民である人を難民と認定しないで母国に送り返してしまったら、その人は迫害される危険がありますのでまた別の国に逃れて庇護申請するでしょう。

つまり、ある国が難民を難民として認めない行為は、他の国にその難民を押し付ける結果に繋がるのです。(ちなみに、日本で難民不認定となった人が、他国に庇護申請をして難民認定されるケースは珍しくありません。)

また第三国定住については、UNHCRによれば世界中の難民(2015年末時点で約1610万人)のうち10%にあたる160万人が、速やかに第三国に受け入れられる必要があるとされています。この160万人は、ある意味国際社会で宙ぶらりんの形で「プール」されている難民の数と言え、世界各国が分担して受け入れなくてはなりません。

このうち、これまでは毎年8万~10万人前後をアメリカが様々な形で受け入れていましたが、トランプ氏はこれを5万人に減らすとしています。そうすると、減らされた分をどこか他の国が肩代わりして受け入れる必要が出てきます。

従って、庇護の観点からも第三国定住の観点からも、一国の難民政策は、他国の難民政策に少なからず影響を与えることになります。

また国際政治でいう「リアルポリティーク」の観点で言うと、冷戦時代、「難民の保護」は西側諸国により共産主義を批判するための外交ツールとして使われていました。1951年という冷戦が深まりつつあった年に採択された難民条約内の難民の定義に「政治的意見により迫害を受けるおそれがある者」というフレーズがあるのは、正にそのためです。

最初に述べた通り、難民とは母国政府による保護を受けられない人ですので、ある国がある人を「難民と認める」ということは、その難民の母国の統治機能を間接的に批判することになります。

更に言うと、昨年オーストラリア政府と米国政府(オバマ政権下)の間で、オーストラリア政府がナウルとパプアニューギニアに設けた収容所に長期間とどめ置かれ、人権侵害が大きな問題となっている庇護申請者と、米国がコスタリカに設けている収容所にいる庇護申請者を、お互いの国が交換して受け入れようという仮約束ができていたという報道があります。

これは「難民交換約束(refugee swap deal)」と呼ばれ、難民保護の規範的観点からは大いに問題視されていますが、いずれにせよ、難民保護政策そのものが二国間の外交政策になった最たる例と言えるでしょう。

このように、難民政策は決して内政問題ではなく、国際問題であり外交問題なのです。

2.移民政策は内政問題?

移民政策については難民とは違い、(その国と一切の繋がりのない)移民を受け入れる法的な義務はどの国にもありません。また「移民」については国際的に合意された定義すらありません。けれども、どのような移民をどの国から何人受け入れるのかは、移民の出身国の社会や経済に大きな影響を与えます。

例えば10年以上前ですが、英国が医師や看護師などをジンバブエから多数移民として受け入れた結果、ジンバブエにおける医療従事者が不足しかけたということがありました。これは、あたかも「イギリス人の命の方がジンバブエ人の命よりも大事」かのようなことになり、重大な倫理問題を突きつけることになりました。そこで、英国等では「医療従事者の国際的採用に関する倫理規定」を設けて、移民受け入れが母国の社会に悪影響を与えないようにしてるのです。

このように、ある国による移民受け入れは、受け入れ側だけでなく移民の出身国にも大きな影響を与えます。そこで、最近は30を超えるグローバル規模・地域規模での国家間の協議プロセスが設けられ、移民の母国、経由国、受け入れ国の政府が、定期的に集まって政策協議と調整をおこなっています。

昨年9月に国連本部で開催された大規模な「移民・難民に関するサミット」はそのような協議プロセスの最たる例と言えるでしょう。もし移民政策が完全に「内政問題」なのであれば、各国首脳が集結して国連の場で移民・難民問題を協議するはずがありません。

このように、難民政策も移民政策も決してある一国の「内政問題」として自己完結するものでなく、国際問題であり外交問題なのです。

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