戦後日本の最大の社会的成果のひとつは、世界有数の長寿社会を実現したことだろう。
戦後の50歳程度の平均寿命が2015年には83.7歳になった。
戦後の急速な平均寿命の伸びは、乳児死亡率(*1) の低下が大きく寄与しており、1947年の76.7から2014年には2.1まで激減している。今後は高齢者の主な死因である「悪性新生物」(がん)が減少することで、更なる平均寿命の延伸が期待できそうだ。
平均寿命の伸びをみると、人間は一体どこまで長寿になるのかと思われるが、先日、『人間の寿命は115歳が上限』とする研究結果が発表された(*2) 。
生命の上限である長寿記録が更新され続けることはなさそうだが、2060年時点の「出生から65歳までの生存率」をみると、男性91.0%、女性95.7%となり、「65歳時の平均余命」は男性22.3年、女性27.7年になると推計されている。
これから訪れる長寿社会は、だれもが90年を生きる時代になることを意味しているのだ。
長寿時代の「長生きリスク」は健康面や経済面などいろいろあるが、より普遍的な課題は大多数の人が経験する加齢により起こる身体の衰えではないだろうか。
目が見えづらく耳が聞こえづらくなれば老眼鏡や補聴器が必要になるように、質の高い日常生活を営むためにはさまざまな自助具や高齢生活をサポートする加齢を補償する技術を活用することが必要だ。
また、最近では高齢ドライバーによる重大事故が多発しており、年をとっても車を手放せない高齢者のために安全運転の技術開発も急務だ。
今後は加齢を前提とした技術開発がますます重要になるだろう。
年を重ねると加齢性難聴になる人も増えるが、補聴器を使う人は少ない。日本の難聴者率(自己申告)は11.3%、補聴器使用率は13.5%と、欧米の使用率30~40%に比べると普及はまだ進んでいない(*3) 。
補聴器は周波数帯別の音圧を調整したり、外部の騒音を制御するなど、個人の聴力の特性に合わせて音環境を補償する。
外部からの刺激が少なくなることで認知症発症の可能性が高まることも指摘されており、加齢に伴う聴力低下を矯正することは、生活の質を高める上でもきわめて有効だろう。
最近、海外メディアが日本の高齢化の話題を取り上げる機会が増えている。それは日本が高齢化の課題先進国として世界中から注目されているからだろう。
長寿国日本は、多くの高齢者が必要とする加齢対応技術に関する多様なニーズを有している。
高齢先進国であり科学技術大国でもある日本には、介護や医療などと同時に、高齢者の生活の質(QOL)全般の向上を図るうえで不可欠な加齢対応技術に関するハード・ソフトの開発イノベーションが期待される。
【関連レポート】
(*1) 出生1000人に対する生後1年未満の死亡者数
(*2) アルバート・アインシュタイン医科大学(アメリカ・ニューヨーク)
(*3) 日本補聴器工業会調査「Japan Trak 2015」(2015年3月)
(2016年11月22日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員