日韓比較(7):医療保険制度-その2 保険料率―固定資産に対して異なる政策を実施している日韓の医療保険制度:研究員の眼

韓国は今後高齢化の進行により医療保険の財政がさらに悪化することが予想されており、より早い段階で財源確保のための対策を実施することが要求されている。

今回は日韓における公的医療保険の保険料率について比較してみたい。

まず、日本における雇用者の保険料率は、標準報酬月額に対して協会けんぽが10%(労使折半、2015年度基準)、大手企業が独自で運営する組合管掌健康保険が平均8.343%(事業主4.558%、雇用者3.785%、2012年度2月末基準、保険者数は2014年3月現在1,419)、船員保険が10.65%(事業主6.10%、雇用者4.55%、2014年度3月基準)になっている。

また、共済組合の場合は、国家公務員共済組合が平均 8.20%(2013年度)、地方公務員共済組合が平均9.36%(2013年度)、私立学校教職員共済が7.39%(2015年度)を適用している。

一方、地域加入者の保険料は「世帯所得」、「加入する人の数」、「40歳~64歳の人の数」が反映され、①基礎(医療)分保険料(国民健康保険財政の基礎財源)、②支援金分保険料(後期高齢者医療制度への支援金)、③介護分保険料(40~64歳の方の介護保険料)を合計した金額が年間保険料として決定される。

しかしながら、国民健康保険は、各市町村がそれぞれ運営しており、保険料の計算方法も異なるので、同じ所得の世帯でも市町村によって保険料額が異なる。

上記の①基礎分、②支援金分、③介護分の保険料を計算する際に、4方式(所得割(*1)、均等割(*2)、資産割(*3)、平等割(*4))を適用するか、3方式(所得割、均等割、平等割)を適用するか、あるいはそれ以外を適用するかにより保険料に差が発生する。

最近は2方式(所得割や均等割)や3方式(所得割、均等割、平等割)を採用する市町村が増えており、まだ4方式を適用している市町村の場合も、国民健康保険の運営が市町村から都道府県に移される2018年度までには資産割を廃止し3方式としようとする動きが広がっている。

特に、固定資産税額に応じて保険料を計算する資産割を廃止する市町村が目立っているが、その理由としては、収益を生んでいない固定資産への賦課に対する抵抗感が強いこと、固定資産税との重複課税との捉え方が強いこと、所得が無い人にも賦課されることにより、低所得者層の負担が大きいこと、後期高齢者医療制度や介護保険制度の保険料等には資産割がなく、他の保険料との不均衡感が発生すること、国民健康保険の広域化に対応すること等が挙げられる。

日本が組合ごとに異なる保険料率を適用していることに比べて、韓国の保険料率は2000年に行われた医療保険組合の統合政策により、職場加入の場合すべての人々に同じ保険料率が適用されている。

2006年に4.48%であった国民健康保険の保険料率は2015年には6.07%まで引き上げられているが、日本と比べると韓国の保険料率が相対的に低いことが分かる。

韓国の公的医療保険制度は「国民健康保険制度」に一元化されているが、健康保険の保険料算定方式は職場加入者と地域加入者によって異なる。

職場加入者の場合は勤労所得だけが保険料に反映されることに比べて、地域加入者の保険料は、世帯単位で徴収され、所得(75等級)、財産(*5)(50等級)、自動車(7等級、使用年数と排気量を基準)、生活水準及び経済活動参加率(*6)(30等級)などが反映される(*7)。

職場加入者に比べて地域加入者の保険料算定方式がこのように複雑な理由としては、過去に自営業者を中心とする地域加入者の所得が十分に把握されていない(所得捕捉率が低い)ことに起因する。

さらに、地域加入者の保険料算定方式は世帯の年間課税所得が500万ウォン(50万円)(*8)を超えるか超えないかによって異なる。

つまり、年間課税所得が500万ウォン以下の地域加入者は、 評価所得(生活水準及び経済活動参加率を考慮した推定所得)、財産、自動車のそれぞれの該当点数(2015年現在1点は178ウォン)に対する保険料を算定してから、それを合算して最終的な保険料を決める。

一方、年間課税所得が500万ウォン以上の地域加入者は、所得(評価所得ではない実際の所得)、財産、自動車のそれぞれの該当点数に対する保険料を算定してから、それを合算して最終的な保険料を決めることになっている。

点数の分布は、所得が380点(年間課税所得500万ウォン超過~600万ウォン以下)から11,625点(同4億9900万ウォン超過)、財産が22点(100万ウォン超過~450万ウォン以下)から1,475点(30億ウォン超過)、自動車が4~217点になっており、所得の比重がかなり高く設定されている。

本稿では日韓における医療保険の保険料率について調べてみた。

保険料率は韓国に比べて日本が高く、その分給付水準も高い。ここで一つ注目したのは、保険料率を算定する際に日本では資産割が段々なくなっていることに比べて、韓国では日本より幅広く、固定資産に対する保険料が適用されている点である。

すでに言及した通りに日本では資産割の二重課税、低所得者層の負担の大きさ、他の保険料との衡平性などが問題点として指摘され、資産割を廃止している市町村が増加している。

現在の日本のシステム上ではたとえ、億ションや高級外車を保有していても所得が少なければ、家や車も保有せずパートやアルバイトで働いて、家賃負担等をしている人より少ない保険料を納めることも可能である(*9)。

高齢者の増加による保険料率の上昇で国民の負担が毎年増加していることや国民の間に所得格差が広がっている現状を考えると、財産や実質の生活水準に余裕がある所得階層がより税金や保険料を負担する仕組みを構築することが望ましく、本文で紹介した韓国の制度は日本の保険料算定方式を改善するのに参考になると思われる。

一方、国民健康保険の「低負担、低給付、低診療報酬」を原則にしている韓国の場合は、より財源を確保し、給付を拡大する必要がある。実際、韓国国民の多くが国民健康保険の低い給付水準が原因で、民間の医療保険制度に加入している。

韓国が公的医療保険の給付水準を改善するためには保険料率の引き上げにより財源を確保することが何より大事である。

しかしながら保険料率引き上げに対する国民の拒否感が強く、政治家の場合も選挙での勝利を優先的に考えており、保険料率引き上げよる財源の確保がなかなか難しい状況である。

韓国は今後高齢化の進行により医療保険の財政がさらに悪化することが予想されており、より早い段階で財源確保のための対策を実施することが要求されている。

韓国より先に少子高齢化を経験し、高齢者に対する医療制度を実施してきた日本の事例から韓国の政策プランナーが学ぶところは多いだろう。

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(*1) 加入者の所得に応じて負担する保険料。

(*2) 所得の有無にかかわらず加入者一人ひとりが均等に負担する保険料。

(*3) 固定資産を持っている場合、その年にかかった固定資産税に対してかかってくる保険料。

(*4) 所得の有無にかかわらず一世帯が負担する保険料。

(*5) 住宅、土地、航空機、船舶、チョンセ金(チョンセとは、最初に家を借りる時にまとまった保証金を家主に預ける代わりに月々の家賃が免除されるシステム)。

(*6) 加入者の性、年齢、財産、自動車税を基準に計算。

(*7) それぞれの等級に設定されている点数を合計し、単価を掛け保険料を決定する。

(*8) 為替レート 1 ウォン=0.10 円(2015 年10月2日現在)

(*9) 自動車税は排気量だけを基準にしており、自動車の価格差がいくらあっても同じ税金を納めることになっており、さらに自動車の所有有無や所有している自動車の価格が保険料に影響を与えることもない。

(2015年10月5日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 准主任研究員

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