タイプによって異なる対処法
最近企業の女性活躍推進の担当者と話していると、しばしば、女性社員の育成に対して管理職の理解を得るのが大変だ、という話が出てくる。
彼ら・彼女らの話を総合すると、管理職は、女性社員の育成という観点から概ね以下のようなタイプに大別される。
1.ジェンダーバイアス型(性別役割分業型/放置型/過度な配慮型)
2.WLB(ワーク・ライフ・バランス)無理解の均等型
3.WLB理解の均等型
ここでいう「ジェンダーバイアス型」とは、性別を理由として、女性社員に対して不利な育成を行う管理職を指す。
このタイプはさらに、①管理職の根強い性別役割分業意識から、職場でも女性を相対的に補助的役割に固定しようとする「性別役割分業型」、②管理職が女性社員をどう扱って良いかわからず、できるだけ関わらないようにする「放置型」、③管理職が女性社員を気遣うあまり、もしくはセクハラ等に過敏に反応するあまり、女性社員に厳しいことを言わない、困難な仕事を割り振らない等の過度な配慮をする「過度な配慮型」に分類される。
「ジェンダーバイアス型」の管理職はこれら①~③の複数のタイプに属する場合も多く、自身が女性に不利な育成を行っているという自覚が乏しいという特徴を持つ。このうち「性別役割分業型」と「過度な配慮型」については、むしろ女性社員の良き上司であると自認している傾向もみられる。
「WLB無理解の均等型」の管理職は、女性だからといって特別扱いする必要はないと考えており、性別にかかわらず均等に仕事を割り振り、意欲と成果等をもとに客観的に評価し、昇進させるといったタイプである。
「WLB無理解の均等型」の管理職のほうが、「ジェンダーバイアス型」に比べて、女性社員を育てられる可能性は高いと考えられる。
しかしながら、このタイプはWLB支援に対して無理解であることから、出産・育児といったライフイベントを迎えた後等、女性社員が仕事をセーブせざるを得ない時期に必要な支援を行わず、女性社員のモチベーションの低下さらには離職を誘発する懸念が大きい。
また、このタイプは、難しい仕事や昇進を躊躇する女性社員については、意欲が低いと判断しがちであり、その行動の背景に、性別役割分業の意識や環境があることにまでは思い至らないケースが多い。
このため、一度躊躇した女性社員に対して、自分がサポートするからと、やってみるように励ましたり、再度チャンスを与えたり、といった後押しをしない傾向がみられる。
最後の「WLB理解の均等型」は、WLB支援の必要性を理解しており、必要な配慮をしながら男女均等に仕事を割り振る管理職を指す。このような管理職は、女性社員の効果的な育成が最も期待できるタイプであり、本来、管理職のあるべき姿だといえる。昨今話題の「イクボス」(*1)も、おそらくこのタイプに分類されよう。
女性社員を育てるためには、「ジェンダーバイアス型」もしくは「WLB無理解の均等型」の管理職を、「WLB理解の均等型」に近づけていくことが重要なステップとなる。しかし、そのための対処法は、管理職のタイプによって異なってくるだろう。
「ジェンダーバイアス型」の管理職の、女性社員に対する「意識」を変えるためには相当長い時間を要すると懸念される。
もちろん、「意識」を変えるために地道な研修等を継続することも重要だが、当面は、「行動」だけでも先に変えてもらう必要がある。そのためには、管理職が男女で育成方法を違えている事実を、本人に対して客観的に示し、そのことによる悪影響について認識してもらうことが第一歩となる。
実力のある女性社員を育成した管理職に対して、評価を加点することも一考に値しよう。また、「性別役割分業型」に対してはトップダウンによる女性活躍推進の方針の明示が、「放置型」と「過度な配慮型」にはベストプラクティスの紹介や想定問答集の提供等が、とりわけ有効だと考えられる。
一方、「WLB無理解の均等型」については、WLB支援の必要性に対する納得さえ得られれば「WLB理解の均等型」に転換できることから、他のタイプよりも比較的早期に「女性社員を育てる」管理職に育つことが期待できる。
女性社員が意欲を低下させる背景要因や、WLB支援の必要性について、研修等を通じて情報をインプットすることが、このタイプの管理職への対処法のメインとなろう。ただし、このタイプには、長時間労働を是認する管理職が混在していることに留意する必要がある。その場合、働き方に対する意識を改革するためには、それなりの時間を必要とする可能性が高い。
女性社員を育てるためには、「女性社員を育てる」管理職を育てる必要がある。自社の管理職のタイプに応じて、戦略的に「WLB理解の均等型」管理職を育成していくことが、実効的な女性活躍推進を行ううえで不可欠なステップとなるだろう。
*1 「イクボスプロジェクト」を立ち上げたNPO法人ファザーリング・ジャパンによると、「イクボス」とは、「職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)」をいう。
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 主任研究員
(2014年9月4日「研究員の眼」より転載)
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