相馬の震災復興のキーワードは「縁の下の力持ち」と「おもてなし」

東日本大震災における相馬市の震災後対応の速さは、立谷市長の有事の際の機転と、リーダーシップによるものだけではないと思います。

私は、横浜市立大学の医学部生です。今回縁があり、5月7、8日に行われました、福島県の相馬市主催「こどもと震災復興・国際シンポジウム」にスタッフとして参加させていただきました。聴講もすることができ、先生方の研究や相馬市市長のお話しで、福島県の復興について詳しく知ることになりました。シンポジウムは大きな問題も起きず、滞りなく無事に終わりました。

シンポジウムの中で、立谷秀清・相馬市長の功績を知りました。震災後の対応はほかの地域に比べてとても素早く、2015年6月18日の毎日新聞の、「宮城から福島へ 違い見えた復興過程」という記事によると、同じように被災した地域の中でも立谷市長のリーダーシップは際立ったもので、それに加えて民主的プロセスも両立しているとのことでした。なぜここまで、素晴らしい功績を築けたのか。このシンポジウムに参加することで、その理由が市役所の職員の方にあるとわかりました。

自分は、学生スタッフとして、市役所のスタッフの方たちの姿を間近で見る機会がありました。シンポジウム開会前、彼らは、発表者の方たちが食事や水分など、細かいことで不自由がないように配慮していました。特に2日目は、会場の外で郷土料理をふるまっていたのですが、忙しい発表者のために別途お弁当も用意しており、打ち合わせをしながらも食べられるように準備していました。

来賓の方たちは、日本人・海外の方たちと多様なため、両方に対応し滞りなくお席に案内できるよう、海外の方には英語を話せるスタッフが、日本の方には市役所の方が案内していました。学生スタッフは7日からの参加でしたが、シンポジウムを開催するためには、とても長い間の準備が必要であったことは、参加者の方たちの多様さ、サービスをみれば明らかでした。

また、相馬市はこういった国際シンポジウムの開催の経験がなく、この市町村の規模で主催することは例がありません。今までのノウハウがない中で、ここまでのスムーズな準備、進行ができたことに大変驚きました。大震災に学ぶ社会科学第2巻には、震災時用紙一枚に会議内容をまとめ、全職員で共有できるようにしていたと書かれています。そのノウハウなどが、今回のシンポジウムの際の、スタッフの方のスムーズな指示や対応につながっているのだと思いました。

個人的に最も印象的なことは、来賓の方が早めに帰る際、荷物が見当たらなくなったときのことです。職員の方が、来賓の方をお待たせしないために、走り一生懸命探していました。その方のおかげですぐに見つかり、来賓の方も不自由なく出発していかれました。

こういった市役所の方たちの振る舞い、働きこそが、日本の「おもてなし」であると思いました。この「おもてなし」の姿勢、他者への配慮の姿勢が、震災後の立谷市長のリーダーシップと民主的手法の一助となっていたと思います。また、彼らはまさに縁の下の力持ちです。発表する先生方にスポットライトが当たっていますが、発表する会場のセッティングや機器の調整、来場の方や先生方への細かな配慮は、当たり前のように感じられ、見過ごされているかもしれません。

今回の市役所の皆さんの働きを見た今、相馬の震災後対応の速さは、立谷市長の有事の際の機転と、リーダーシップによるものだけではないと思います。職員の方たちの正確な情報を伝え、下された決定に即座に対応することができる行動力と、組織力があってこその功績であると思いました。彼らの力はこれまでの、そしてこれからの復興に必要不可欠であると思います。熊本が被災している今、復興には、相馬市で行われた復興に向けての取り組みだけでなく、相馬市の職員の方たちの市長の指示に応えたノウハウを伝えることも大切だと思います。

このシンポジウムで見た「おもてなし」「縁の下の力持ち」の姿は、これから先も意識しなければいけないものだと思いました。これらのことは、知らなければ当たり前のように提供されてしまいます。自分が医師になり病院で働く際、一人で働くのではありません。患者さんに対する看護師さんなどチームのみんなの活躍に注目しがちでしょうが、病院のスタッフの方たちのように直接患者さんに接することのない人達が目に見えないところで活躍しています。彼らがいるからこそ、患者さんに専念して働くことができるのだと思います。

そのことを最も身近に感じられるのは、母です。洗濯物を出しておけば、清潔でいい香りにしてたたんでおいてくれる、食事を用意してくれるなど何も言わずにやってくれることがたくさんあると思います。実家で暮らしているときは当たり前のように感じられますが、これも縁の下の力持ちです。母がいるからこそ、学業に専念し今に至っていると思うのです。

今後目に見えないフォローに気が付くことができる人になるには、まず身の回りの小さいことを意識することから始まると思いました。これから先、自分が支えられることも、支えることもたくさんあると思います。すべてのことに感謝を忘れず、学び、自分自身の行動が誰かにとって意味のあるものになるよう頑張りたいと思いました。

(2016年6月21日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)

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