築地再生への道~市場問題PT報告書を読み解く①

築地跡地の民間売却という暗黙の前提から解き放たれると...

市場問題プロジェクトチーム(以下「市場問題PT」といいます)の第10回会合が、6月5日に開催されました。ここで第1次報告書案(以下「報告書」といいます)の内容がほぼ固まり、6月13日には都知事に手交されることになっています。この報告書には「築地再生への道」が記されています。しかし、報告書は153ページにも及ぶ長大なもので、難解な部分もあります。そこで、この報告書のポイントを読み解き、「築地再生への道」を明らかにしたいと思います。

1. 築地跡地の売却収入で豊洲新市場の借金を賄うのか

東京都の市場当局は、これまで神田市場の例を引きながら、「築地市場跡地の売却収入で豊洲市場設置費用に充当する」と説明してきました。第2回「市場のあり方戦略本部」の資料(※1)では、「築地の売却収入で豊洲市場の借金は全て賄え、当面は事業継続も可能」としています。

この「神田市場の例」とは何でしょうか。

秋葉原UDXビルの1階に、「神田青果市場跡地」と書かれた石盤があります。この石盤には、1928年(昭和3年)~1989年(平成元年)の間、ここに日本一の青果市場「神田青果市場」があったことが記されています(※2)。神田青果市場は移転し、大田市場となっています。この神田市場の移転が前例だと言うのです。

第2回「市場のあり方戦略本部」の資料(※3)では、「神田市場跡地は約3700億円で売却し、他市場の建設・整備財源として活用」、「市場の跡地は民間企業に売却(再開発)し、『秋葉原クロスフィールド』を建設」と説明されています。

2. 神田市場跡地「売却」のカラクリ

しかし、実は、神田市場跡地を民間企業に売却した価格は、約400億円でした。3700億円ではないのです。どういうことでしょうか。市場問題PT報告書は、そのカラクリを明らかにしています。

約3700億円は民間企業に実際に売却した価格ではなく、神田市場廃止に伴って昭和63年度から平成4年までの5年間に、「神田市場売却資金」として一般会計(都民の税金)から市場会計に移された金額でした。

東京都は、市場会計から土地を引き継いだ際に、一般会計が支払った約3700億円については、近傍の地価水準や、対象地の形状・面積(広さ)などを踏まえ、算出を行ったと説明しています。したがって、都庁内での付け替えであり、売買契約したわけではないのです。民間企業からの実際の売却収入約400億円を考慮しても、差額の約3300億円は都民の税金が繰り入れられているのです。これが「売却」のカラクリです。

実際の売却経過をみると、次のようになっています。

神田市場跡地(約2万7千㎡)は、一般会計が市場会計から引き継ぎ、秋葉原にITセンターを作る構想により産業労働局に所管が移されました。その後、土地区画整理事業に伴う換地処分を経て、2002年(平成14年)にユーディーエックス特定目的会社(UDXは、NTT都市開発(株)、鹿島建設(株)の出資による特定目的会社)及びダイビル株式会社に、約400億円(売却面積は約1万6千㎡)で売却したのです。残りの土地は、未だに東京都が所有しています。

3. 市場跡地は都民の共有財産~築地売却は必要条件ではない

市場跡地は都民の共有財産であり、市場として使用しないのであれば、どのような使用または処分が最適なのかを東京都の街づくりの観点から判断しなければならないのです。

市場問題PT報告書(※4)は、次のように結論付けています。

○市場当局は、これまで神田市場の例を引きながら、「築地市場跡地の売却収入で豊洲市場設置費用に充当する」と説明してきた。しかし、神田市場の例では、東京都から民間への「売却収入」は400億円である。財務局への引渡しに際しては、東京都財産価格審議会の審議を経ておらず、売買契約も存在しない。よって、神田市場跡地の売却収入3700億円は、都庁内部の会計処理によって市場に移し替えられた金額と言うべきである。

○神田市場の例からは、築地市場跡地を民間に売却する際の価格がいくらかということと、一般会計(都民の税金)から市場会計にいくら移転させるかということとは結びついておらず、別個の処理であることが分かる。

○それと同様に、築地市場跡地や豊洲市場跡地を民間に売却する際の価格がいくらになるかということと、築地市場や豊洲市場を使用しないことに伴って一般会計から市場会計にいくら移転させるかということも結びつかず、別個の処理である。市場用地の処分は、一般会計から市場会計にいくら移転させたかとは関係なく、東京都の街づくりの観点から別個に構想され、判断されることである。

○中央卸売市場の敷地は、都民の財産であって、卸売市場という公の施設が設置されている限りにおいて、中央卸売市場の管轄下に置かれているにすぎない。中央卸売市場としての機能が廃止された場合、市場跡地は、都民の財産として有効利用されるべきものである。

つまり、これまでは、豊洲移転のためには、築地跡地を民間に売却しなければいけないという暗黙の前提がありました。しかし、神田市場跡地の例を詳細に検討すると、「売却」のカラクリが浮かび上がり、その前提は間違っていたことが明らかになりました。築地跡地の民間売却は必要条件ではないのです。

築地跡地の民間売却という暗黙の前提から解き放たれると、市場跡地は都民の共有財産という視点から、「築地跡地の最も有効な活用策は、築地市場として活用することである」(※5)という発想が出てくるのです。(続く)

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