9月21日に放送予定だった、「サイエンスZERO:シリーズ原発事故(13)謎の放射性微粒子を追え!」の放送が急遽差し替えになり、NHKのウェブサイトからもその痕跡が抹消されているそうです(参照)。
ウェブ魚拓(削除される前のウェブサイトを保存したもの)によると、番組の詳細は以下の通りです。
福島第一原発の事故で大量に放出された放射性物質・セシウム。これまでは放射線量などをもとに調査されていたが、その実態の形態はよく分かっていなかった。しかし、電子顕微鏡を用いた巧みな調査で、セシウムは不溶性の球形粒子として存在するものも多いことが明らかになった。この粒子が肺に入ると、従来想定されていた水溶性粒子に比べて長くとどまるために、内部被ばくの影響が強くなるのではないかと危惧されている。
政府関係者から見れば、「川内原発の再稼働を控えて、脱原発の世論が再燃するのは好ましくない」ということなのでしょうが、NHK経営委員に「安倍カラー」の強い保守派のメンバーを任命した成果(参照)がここでも色濃く表れていると言えます。
最近では、読売新聞が政府の方針に100%従う完全な『日本版人民日報』になってしまっており(参照)、安倍政権の情報統制は、民主主義国家に許されている「世論誘導」の範囲を多いに逸脱していると言えます。
番組が放送されなくなってしまったので、この放射性微粒子について簡単に解説します。
筑波の気象研が福島第一原発から南西に172km離れた茨城県つくば市で事故直後に採取した球状の微粒子からウランを発見したという報道を覚えている人も多いと思います。実際には、ウランだけでなく、放射性セシウムや、燃料棒の被覆に使われているジルコニウムが検出されたのです(参照)。
これを受けて、東京電力は、当初の推定よりも炉心の溶融は早い時期に起こっていたという解析結果を発表しました(参照)。この解析によると、
・全電源喪失による水位の低下、炉心の露出
・消防車による注水による蒸気の発生
・蒸気とジルコニウムが反応してさらに熱を発生
・その熱により炉心の溶融が加速
という「ジルコニウム火災」が起こったために、核燃料の崩壊熱による溶融よりも遥かに早く炉心が溶融してしまったのです。
「ジルコニウム火災」は原子力事故の中でも最も過酷なもので、その際に生じる放射性微粒子(ホットパーティクル)は、風に乗って数百キロ流されることが知られています。事故当時、菅直人首相が「3000万人を避難させる必要があるかも知れない」と一番恐れていたのは、4号機のプールでのジルコニウム火災だったのです。
空中を漂うホットパーティクルは、呼吸によって人体に取り込まれ、肺の組織に付着します。肺の組織に付着したホットパーティクルは、外部被曝をもたらすことで知られるガンマ線だけでなく、近くにある細胞のDNAを破壊する力を持つベータ線を出します。
肺に取り込まれたホットパーティクルによる人体の影響は局所的であるため、外部被曝のように「何ミリシーベルトまでなら安全」ということはなく、「DNAの損傷を受けた細胞が癌化するかどうか」という確率論的な事象(分かりやすく言えば、ロシアンルーレットのような話)なのです。