見ただけでその手触りまで推測できるのは、実際に見たり触れたりした記憶のたまものであることが、生理学研究所の研究者たちのサルを使った研究で確かめられた。物を見てその材質まで見分ける人工知能(AI)の開発にも役立つ成果だ、と研究チームは言っている。
自然科学研究機構 生理学研究所の郷田直一(ゴウダ ナオカズ)助教と小松英彦(コマツ ヒデヒコ)教授らは、金属、セラミック、ガラス、石、樹皮、木、皮革、布、毛でできた9種類、36本の棒を用意した。このうちセラミック、ガラス、布などは人間には身近でもサルには馴染みがないため、柔らかいか硬いか、あるいは重さの違いも見ただけでは分からないと考えられる。
この36本の棒をサルに見せ、触れさせる学習を2カ月間、続け、学習の前後で脳活動にどのような変化が生まれるかを、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって調べた。この結果、見たり触れたりする経験を積むことで、視覚野の中の下側頭皮質後部の脳活動は、似通った手触りの素材で同じような反応パターンを示すことが分かった。
脳には視覚、聴覚、触覚などそれぞれの感覚に特化した情報処理領域(感覚野)がある。視覚野は、視覚の情報処理を司る脳部位で、下側頭皮質は色や形、顔など物体認識に重要な役割を果たすことが知られている。繰り返し見ることにより、見た目の違いを区別する。こうした経験を積むことで視覚野の機能は変化するが、触覚や聴覚など他の感覚の経験には影響されない、というのがこれまでの見方だった。
研究グループは、今回の結果から、単純に「見る」だけの場合と比べ、「見て触れる」といった複数の感覚刺激を同時に経験することが、視覚野の活動に影響を与えている、と結論づけている。
関連リンク
・生理学研究所プレスリリース「『見て触れる』経験が『見る』仕組みを変える -脳の『視覚野』が手触りの経験によって変化することを発見 -」
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