小笠原諸島の西之島周辺海域で、調査船による西之島火山活動の学術研究を、海洋研究開発機構と東京大学地震研究所、京都大学大学院理学研究科が2月末に実施した。西之島は2013年11月に噴火してから活発に活動して、面積が2.55平方㎞、最高標高137m(今年3月1日の国土地理院の無人航空機による撮影)に達し、今も溶岩が流出して成長を続けている。接近しての観測は極めて危険なため、主に航空機や衛星による観測が行われてきた。船による本格的な学術調査は13年11月の噴火以来初めてで、微小津波観測装置や地震計を海底に設置したほか、海底地形を測定するなど成果を上げた。3月27日に発表した。
調査は海洋研究開発機構の深海調査研究船「かいれい」で、京都大学の藤浩明(とう ひろあき)准教授ら計8人の研究者が乗り込んで実施した。西之島火山の斜面崩落に伴う微小津波観測のために、海底微差圧計を装備した海底長期電磁場観測装置(SFEMS)と火山噴火に関係する微小地震活動観測のための海底地震計(OBS)各1台を西之島の中心から10㎞の水深2000mの海底に、OBS4台を西之島の中心から7㎞の水深1500mの海底に設置した。
また、西之島から6km以上外側の海域で2月26日と27日の2日間、周辺の地形調査、空気振動(空振)観測と目視の観察、映像を撮影し、時間とともに大きく変わる噴火の様子を継続観測し、航空機観測では得られないデータを取得した。船上で明瞭な波形の空振を捉え、映像と対応づけることができた。この調査で、東京大学地震研究所が西之島から東へ130km離れた父島で続けている空振の観測と今回の6km圏での観測結果を比較することで、父島での観測から西之島の活動を常時把握する道筋がついたという。
西之島から風下6㎞を航行した後には、船体に付着した火山灰を採取した。結晶を含む新鮮な噴出物で、西之島の火山活動の貴重な鉱物学的な試料となった。大きな爆発の際、火口周辺では火山弾が見られたが、飛距離は火砕丘の内側にとどまり、周辺海域に浮遊物は見られなかった。さらに、船舶に搭載されたマルチビーム音響測深機を使って詳細な海底地形調査を実施した。08年の海上保安庁の測量地形から顕著な変化はなく、6km圏外までは溶岩流が届いていないことや海底噴出口が新たに形成されていないことを確かめた。
SFEMSは山体崩壊や海底地滑りに伴って起きる微小津波を検出する最新の装置で、火山による津波発生の仕組みを解明するのが狙い。現時点ではリアルタイム観測はできないが、長期にわたって観測を継続する。海底地震計のOBS5台は気象庁の観測船が今年6月か10月ごろ、浮上させて回収する。SFEMSは来年以降に回収して、データを解析する。
調査の主席研究者の藤浩明京都大学准教授は「世界的にみても火山活動に伴う津波が観測された実例は少なく、まして今回のように離島や海底の火山の場合、観測網が近傍にないため、実態はほとんどわかっていない。SFEMSとOBSの回収後にデータを解析し、火山性津波の発生の仕組みを明らかにしていきたい」とコメントした。また、海洋研究開発機構の杉岡裕子(すぎおか ひろこ)主任研究員は「西之島に近づいて観測でき、いろいろなことがわかった。船からの観測を整えて、これからも続ける意義はある」と話している。
関連リンク
・海洋研究開発機構 プレスリリース
・京都大学 プレスリリース
・国土地理院 プレスリリース
サイエンスポータルの過去の関連記事
・2014年2月24日ニュース「西之島"新島"の立体図公開」