その名も「我々の世界を変革する」!国連新目標が「大風呂敷」を広げる理由

ああ、またキレイゴトか、できもしないことを...という声が聞こえてきそうですが、ちょっと待って下さい。今回のSDGsの意味するところは、今までとは少し違うのです。

知っていましたか?9月25日(今週の金曜日)、世界が今後15年間で目指すべき新しい目標を決めるということを。この日、世界のほぼすべての国の首脳や主要閣僚がニューヨークの国連本部に集まり、一つの文書を採択します。その文書の名前は「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ」。この中に、今後15年間で世界が目指すべき17の目標、169のターゲットを定めた「持続可能な開発目標」(SDGs)が入っています。

SDGsは、地球規模の課題ほぼすべてを網羅する壮大な目標ですが、そのキモは、2030年までに、(1)世界から貧困をなくす、(2)世界を「持続可能」にする目途をつける、の<フタコト>で表せます。

そういうと、ああ、また国連の「貧困削減」のキレイゴトか、できもしないことを...という声が聞こえてきそうです。しかし、ちょっと待って下さい。今回のSDGsの意味するところは、今までとは少し違うのです。

◯「我々の世界を変革する」と世界の首脳が言い切るワケ

9月25日に採択される文書の標題をもう一度、書きます。「私たちの世界を変革する」(Transforming Our World)。世界の首脳や主要閣僚が採択する文書としては、ずいぶん不穏なタイトルです。なぜこんなタイトルになったのか、何かワケがあるに違いありません。

ひとつは、私たちの世界が抱えている問題が相当深刻で、「変革」をしないと、世界が生き残れないからです。

何が深刻か=私たちが生きる日本に引き寄せて、身近な問題を一つ挙げるとすれば、気候変動があります。9月に関東地方を襲った台風20号水害、昨年8月に広島市北部を襲った突然の集中豪雨による土石流...日本は、過酷な自然災害に毎年のように襲われるようになりました。「今日とおなじ明日はない」不安定な世界は、私たちの頭上にすでに到来しています。

世界が直面する、もう一つの中長期的な問題として挙げられるのが、人口の大変動です。世界人口は増え続けますが、2050年以降、アジアの人口は減少期に入ります。人口減少期に、人口増大期と同じ経済モデルを続けることはできません。「変革」は不可避なのです。

一方、人口が継続して増大するのがアフリカです。現在のアフリカの人口は、中国やインド一国とおなじ12億人程度とされています。これが急速に増え、2050年にはアフリカの人口は25億人となります。この人口増に経済が追い付かなければ、多くの若者たちが職にあぶれ、ただでさえ脆弱な社会・経済システムが破たんすることになってしまいます。こちらも、社会、経済、政治すべての強靱性や回復力を高めるための「変革」が不可避です。

私たちが生きる世界はすでに「今日とおなじ明日はない」不安定な世界に移行しています。「持続可能な世界への変革」は、キレイゴトなどではなく、世界を生き延びさせるために不可避の選択なのです。

◯世界が「貧困の終結」にこだわるワケ

世界の首脳が集まり、世界が目指すべき目標を制定したのは、今回が初めてではありません。今から15年前の2000年、国連は「ミレニアム特別総会」を開催し、「ミレニアム宣言」を採択しました。2015年までに世界の(極度の)貧困を半減することを謳った「ミレニアム開発目標」(MDGs)ができたのはこの時です。

MDGsの下で、国際社会は頑張りました。2015年、マラリアで死ぬ人は1990年当時の半分以下に減少。エイズ治療薬にアクセスしている人は2000年当時の50倍の1500万人に増大。学校に行ける子供たち、安全な水にアクセスできる人々の人口も格段に増えました。国連が「一日1.25ドル以下で生きる人々」と定義した、「極度の貧困」の下で生きる人々の人口は半減し、国連も世界銀行も「世界全体で見れば、MDGsは達成された」と主張しています。

ところが、私たちの目に映るのは、全く別の風景です。2014年、象徴的な出来事が二つ起こりました。西アフリカのギニア、シェラレオネ、リベリアの3カ国で「エボラ出血熱」の史上最悪の流行が起こりました。それほど保健システムが整っているわけでもない周辺国が制圧できたこの病気が、この3カ国だけで拡大したのは、この3か国が「エア・ポケット」になっていたからです。

もう一つの出来事が、シリアとイラクにまたがって勃興した「イスラミック・ステート」(アッダウラ・アル=イスラーミーヤ、IS)です。欧米を含め、世界各地から多くの若者が、極端な排他主義と暴力を掲げるこの集団に合流している、と報道されています。その理由として取りざたされるのが、失業し、自己実現の道を閉ざされた圧倒的多数の若者の存在です。世界中で広がる貧富格差の中で、多くの人々が感じている<疎外感>。格差拡大の中で、多くの人々の感じる「幸福度」が下がったことが、「IS」の勃興などともつながっています。

新しい目標、SDGsは、MDGsと同じように「貧困の解消」を掲げていますが、そのアプローチは大きく異なります。SDGsでは、まず「あらゆる形態・規模の貧困をなくし、すべての人が尊厳と平等、健康な環境の中で自己実現を図れるようにする」と宣言。「誰も取り残さない」アプローチでその実現を図ることを主張しています。MDGsでは、「貧困を半減する」ために、やりやすい、効率よくできるところからやる、という手法がとられました。しかし、その手法では、貧困の「残りの半分」にアプローチすることはできません。そこで提唱されているアプローチは、「最後の人を最初に」。一番厳しい状況に置かれている人々に、まず最初にアプローチする手法です。SDGsは、「エボラ」や「IS」という「失敗」を踏まえて、貧困解消の新しいアプローチを提唱しているのです。

◯過渡期の世界を生き延び、新しい世界をめざす

2000年に制定されたMDGsは、「ミレニアム」という名を冠した通り、貧困をなくし、いわば「理想社会」を目指す、という側面を持った目標でした。SDGsも、MDGsが掲げた理想は共有しています。しかし、そのアプローチは、かなり異なっています。「今日とおなじ明日はない」不安定な世界、過渡期の世界をどう生き延び、新たな「持続可能な世界」への変革を実現して、将来世代へと引き渡していくか。SDGsは、「実施手段」においてその不完全性を露呈しつつも、その道を切り開くための「バトン」としての意味合いを持っています。9月25日に、国連から託される、世界を生き延びさせるための「バトン」。これをどう受け取るか、試されるのは私たちです。

動く→動かす

事務局長 稲場 雅紀

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