「すごく流行っている話題のお店」でこういうお客さま達を見かけることがあります。
男性3人組で、みなさんスーツ姿で、そんなにお腹もすいていなさそうなのに、そのお店のお勧めメニューを全部頼んで、さらにドリンクも出来る限りたくさんの種類のものを頼んで、テーブルの上をいっぱいにして、みんなが少しづつ飲んでみたり、料理も少しづつみんなで味を見て、意見を言い合ったりしています。
さらに店内やお料理を全部写真に撮って、なんとメニューまで写真に撮ったりしています。
わかりますか? 実は彼らは新しい飲食店舗を開発、開店する仕事をしていて、そういう話題のお店に誰よりも早く行って、「これはいける!」と思ったら全く同じようなスタイルのお店を違う地域で展開するという仕事をしているんです。
そしてこういう現象が起こります。
例えばパンケーキのお店が新しいとなったら、大急ぎでそれを研究してちょっと違う場所や少し安い価格帯で出すというお店が街にあふれます。そして一通りみんながそのパンケーキを経験してしまえば、ブームは終わり、パンケーキのお店はどんどん潰れていきます。
でも、いつも思うのは「一番最初に展開したオリジナル店」だけは潰れないんですよね。それってどうしてなんだろうとずっと考えていて、最近やっとわかってきました。
三鷹バルはご存知でしょうか?
いわゆるスペイン・バル・ブームの一番元となったお店なのですが、小さくて趣味が良い内装で、お客さまがいっぱいになっても、落ち着いた雰囲気のある素敵なお店なんです。
その三鷹バルが、最近「メニューが全部ビーガンになった」というのを料理通信で知り、さっそく行ってきました。
普通に考えてみて「じゅうぶん流行っているのに、毎日お客さまで満員なのに、メニューを一新する」ってかなり勇気のいることだと思うんです。
でも、三鷹バルは「全部ビーガンのスペイン・バル」というさらに新しいスタイルを打ち出していて、かつてよりももっと刺激的で面白いお店になっていました。
これはこういう意味だと思うんです。
一番最初に「オリジナルなアイディアのお店」を出すということは、その時の時代の流れや一番面白そうなことを「肌で感じて」それを「お店」という「作品」にしているんだと思うんです。
だとすると、開店当初のままのスタイルでずっと続けるのが経営者としても、納得がいかないんですよね。どうしても時代に合わせて変化していきたくなっちゃうんです。
でも、最初のスーツ3人組のような発想で「全くのモノマネ」で始めた場合は、あたりまえですが「新しく時代に合わせてお店を変化させる」という行為を思いつかないんです。だから、古くなって潰れてしまうんです。
すごくわかりやすい例で言えば、ビートルズがそうですよね。ビートルズ・フォロワーは山のように出てきたのですが、彼らは「ビートルズのモノマネ」で終わり、時代が変わると消えていきました。
でも、ビートルズ本人たちだけは常に変わり続けましたよね。それは、ビートルズ結成当時もその後もずっと「時代の風」を感じて、自分たちのアイディアで変わってきたからだと思います。
成功しているのに変わり続けるって大変だし冒険だけど、必要ですよね。
bar bossa 林 伸次
著書『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?』http://goo.gl/rz791t