研修は、経営から社員へのメッセージ

人材育成は、企業が自らの未来のために取り組む投資である。

仕事がら、企業の人事部や人材開発部門の方とよく話をします。

人材開発や社員教育における共通の悩みとしてよく耳にするのが「研修の最中はみんな熱心で、参加者アンケートの評価も高いが、研修の結果が現場の仕事に生かされていない」「現在行っている研修に効果があるのか、このまま毎年同じ内容で続ける意味があるのかどうかがわからない」ということ。

その背景には、もともと社員教育は企業の福利厚生の一環として位置付けられていることが多かった、ということがあるようです。しかし、効果がよくわからない福利厚生は、業績が思わしくなかったとき、真っ先に予算削減の候補に挙げられます。本当に研修は不要なのでしょうか?

その答えとなるような話を聞いてきたのでご紹介します。

成果を出すためには、研修そのものではなくその前後が大切

先日、ATD(Association for Talent Development)の主催する人材開発分野のカンファレンス「JAPAN SUMMIT」に参加してきました。基調講演は、トレーニングの測定および有効性に関する研究では第一人者でコンサルタントでもあるロバート・O・ブリンカホフ教授 。

同教授の講演によると、研修を受けただけで自身の行動を変え、成果を出すことができる人は、全体の20%にも満たないそうです。では残りの80%には研修を行う意味がないのかというとそうではなく、事前の学習や事後の実践機会など、研修前後の取り組み次第では行動変容を促すことができるとのこと。

そして、研修前後の環境を整えるためには、まずマネジャー層が研修と人材育成の有用性を理解し、納得していることが第一歩です。そして人材育成をコストではなく企業の投資としてとらえてみると、研修を企画していくためには「なぜ経営が人材育成に投資をするのか」その理由をしっかり踏まえなくてはなりません。

上記のような考えから、人材育成のトレンドとして、

1) 個別にEラーニングで学習

2) ワークショップで参加者が相互に刺激しあいながら、演習とアクションプラン作成

3) 個々に学んだことを職場で実践

4) SNSなどで実践の経過や成果を共有しあい

5) 再度ワークショップで振り返る

という「一定の期間をかけて、受講者が現場の課題に取り組む」スタイルの研修が増えてきているそうです。これは、現在私たちがお客様と一緒に作っている研修の流れとほぼ同じ!

実は2015年に台湾で行われたATDのアジアパシフィックカンファレンスに弊社の平井と2人で参加した際にもブリンカホフ教授のお話に非常に感銘を受け 、その後の仕事の指針となっています。とはいえ、自分たちのやっていることと海外の時流が一致しているということを知って、方向性が間違っていなかったと確信しました。

企業や事業の課題を解決する、投資としての研修

教授の基調講演を聞いて私が感じたのは、研修というのも、企画する人から受講する人へのメッセージなのだなということです。そもそも、「研修をやること」を前提において考えると、「研修をやること」自体に意義を感じてしまい、企業が置かれているその時々の実情に適っていない内容になってしまうことがあります。

ブリンカホフ教授のお話では「企業や事業の課題を解決していくための施策」として研修が位置付けられていました。この観点は、研修の成果が具体的に求められるようになっている昨今、企業の人材開発部門にとってとても大切な視点だと思います。

さらに、もし経営者やマネジメントに位置する人たちが、

「自分はこんな会社の将来像を描いている」

「それを具体的にするためには、こんなことが必要なんだ」

「一緒に未来を描くために、成長し、活躍してほしい」

ということを社員に伝えたいのであれば、研修を含めた人材育成の機会はとても有効な手段になると感じています。いつ、誰に対して、どんな方法で何を行うのか?ということ自体が、経営者から社員へのメッセージだからです。

逆に、もし社員が受講前に「いつもながら、何でやるのかわからないな」とか、受講後に「自分の仕事には何の影響もないな」という感想を抱くような研修を続けていくのであれば、社員が、「うちの経営者は社員の育成に関心を持っていない」「会社の未来と社員の成長・活躍を重ねて考えていない」と判断したとしても反論はできないということかもしれません。

人材育成は、人事部・人材開発部門のタスクなのではなく、福利厚生でも企業のコストでもなく、企業が自らの未来のために取り組む投資である。そう認識すれば、これからの育成方法や個々人のパフォーマンスも変わってくるはず。

そんなことも考えながら、お客様と一緒に課題に取り組んでいます。

Text by Furukawa

2016年12月5日 Sofia コラムより転載

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