■ 日中両方へのリップサービス
領土問題は、夫婦げんかのようなもので、他人が口を出してもロクなことにはならない。アメリカにとっての尖閣問題もそのようなものだ。無人島を巡って日中は争っているが、アメリカの本音は巻き込まれたくないというものだ。
だたし、巻き込まれない限りにおいて、アメリカは尖閣問題で利益を上げようとする頭もある。日本と中国双方に、いい顔をすることでそれぞれから利益を得られるためだ。
この点については、香港誌で閔之才さんが指摘している。※ 「アメリカは、尖閣問題で両国から利益を得ようソロバンを弾いている」ことを指摘するものだ。
閔さんは「米国はリップサービスで日中双方を満足させた」と書いている。アメリカには尖閣諸島について「3つの原則」を保っている。これは
1 尖閣諸島は日米安保の適用範囲
2 米国は日中の領土係争には関与しない
3 日中が冷静に処理することを望む
である。1で日本人を喜ばせ、2で中国人を喜ばせ、3でアメリカを巻き込まないようにするというものだ。
日中はともに、アメリカの掌の上で踊らされているということだ。実際に、アメリカの安全保障サイドによる発言「日米安保の範囲内」が、しばしば日本でニュースとなっていることを思い起こしてもらうと、納得できるだろう。
だが、アメリカの本音は、何の利益もない無人島問題に巻き込まれることは真っ平御免というものである。この点は、アメリカで影響力のある政治学者、レインさんが「中国(そして日本)にとって尖閣諸島の問題は高い戦略的、象徴的価値があるが、米国にとっては、本質的に戦略的価値はない」と明快に述べている。
当事国は必死だが、他国からみて大した問題ではない。そういうことだ。日中は尖閣諸島は自国のものだと主張している。国民国家にとって領土は神聖である。島を失えば、その政府は倒れる。本来はナショナリズムを抑えるべき日中政府も、領土問題では一歩も引けないわけだ。
しかし、他国から見ればどうでもよい。尖閣諸島は無人島である。尖閣諸島がどうなろうと、米国には何の影響もない。下手な介入をして、日中どちらかに30年50年100年恨まれるとなるとたまったものではない。
米国の尖閣諸島についての発言は、リップ・サービス程度に割り引かなければならない。安全保障サイドや保守誌は、たまにある米国の「日米安保の範囲内」を言質だと主張する。だが、米国は日中双方から利益を得ようとしているだけの話だということだ。
さらに言えば、日中政府も尖閣には実利はないことを承知している。尖閣諸島はナショナリズムに絡むシンボルに過ぎない。日本国民、中国国民のアイデンティティに絡むので日本政府、中国政府は妥協できないが、島やEEZには経済的実利はない。
だから、日中政府は睨み合いながらの現状放置を選択している。島を取られると戦争をしてでも取り返さなければならない。そうしないと政府は持たない。だが、取ったところで利用価値もない。互いに自分のものと主張する段階に留めるのが、現実的な知恵だということだ。
つまり、日中政府がやっているのは出来レースであり、米国もそれに乗っかっているといった程度である。
尖閣問題についてのニュースでは、感情的になるかもしれないが、多少は突き放して考えて見るべきだろう。
※ 閔之才「美国:一『魚』釣両国」『鏡報』426(香港,鏡報文化企業有限公司,2013.1)pp.16-19.
※※ レイン,クリストファー「パックス・アメリカーナの終焉後に来るべき世界像」『外交』(時事通信,2014.1)pp.20-25