私が家族と実家のある大阪に帰省した時の話です。
当時、娘たちはまだ幼かったため、難波や梅田などの繁華街には行くことなく、最寄り駅の周辺で遊んでいました。
家族4人だけで隣駅にあるボーリング場に行こうということになり、ひと駅分の切符を4枚買って、みんなに渡し、自動改札口に向かいました。
何の迷いもなく切符を通し、改札を抜けた私は「は!」と我に返りました。
「やばい。あの3人、自動改札口を通った事ない」
振り向くと、やはり3人はモタモタと自動改札口と格闘中でした。
私はすぐさま長女であるチハナに、
「ほら、チハナ!切符をそこに入れて!扉がパタンと開いたら通る!あ、切符忘れないで取って!」
と言うと、チハナは改札口をグルグル回りながら、切符の行方を探っていました。その横を、妹のモモカは見よう見真似で見事に改札口を抜けて来ました。
そして、肝心の夫はというと、改札口に切符を入れるや否、「ぴよっ」と言うカワイイ音色を立てていました。
きっと3人が改札口でもたついている間に、3枚の切符がごっちゃになり、子供用の切符を通してしまったのでしょう(真顔
ホームに到着すると、夫はキレイに整列している日本人に感動し、「ドアが来る場所」にキチンと電車が停車することに歓声を上げました。
電車が来て乗車すると、
初めての「日本の電車」に、娘たちはもちろん、夫も大いにテンションを上げていました。
しかし、彼らの高鳴る胸も、ものの数分で強制終了。
夫は「モウ降りるノ?数分しか乗ってないヨ?」と、目をしばたかせていました。
私は「そうか、もっと電車に乗っていたかったのか......」と、思いましたが、実はそういう意味ではなかった事が、帰り道で発覚。
「落ち着け、夫よ。ここから家までは軽く3キロはある。ここから40~50分もかけて歩いて帰ると言うのかね?」
夫は私を見下ろしながら、鼻息荒く、捲し立てました。
「たかだか2分間、電車に乗るだけで、ひとり120円かかるんですヨ?高すぎマス!3キロくらい簡単に歩けマス!」
夫は頑として意見を曲げません。
「考えてみて下サイ!ワタシたちの町からひと駅といえば、イングランド(約45km)もしくはエジンバラ(約120km)まで行けマス!それくらい移動できるなら電車に乗ってもいいデス!」
スコットランドの自宅は、片田舎にも関わらず、なぜか特急電車が停車します。
田舎ゆえに、駅から駅への距離がハンパなく長く、それが当たり前の夫にとって、「一駅2分、120円」は許しがたかったのでしょう。
私たちは大阪のとある駅前で「電車!」「歩き!」と散々すったもんだを繰り広げました。
最終的に、私が両親からお金をもらっているということを夫に告げ、やっと電車で帰宅することが許されました。
夫が少しでもロンドンの地下鉄(チューブ)に慣れ親しんでいてくれたなら、こんな意味不明なケンカもせずに済んだのにな......と、元都会人の私は思ったものです。
その数日後、ひとり京都旅行に出掛けた夫。
一般的な「新快速」(新大阪から京都まで・運賃500円程度)には目もくれず、京都までのたった一駅を約1500円支払って憧れの新幹線に乗ったとのことです――
(終わり)
★コラム著者の4コマコミックエッセイ
「日本人嫁、英国に住んだらツッコまざるをえなかった 」絶賛発売中!!
★マンガ版もあります!「ホリースコットランド絵日記」 最新話はすくすくパラダイスぷらすへGO!