薬が残るというのは、処方された薬をきちんと飲み終わらずに余らせてしまうことだと思っていませんか。
実は薬は患者サイドだけでなく、病院でも残るのです。
バイアル製剤と呼ばれる薬があります。
薬瓶のなかに粉末状の薬があらかじめ入っていて、投与するときに生理食塩水などを加えて溶かして使います。
抗がん剤などで多く使われているようですが、投与量は患者の体重によって違います。
そのため、溶かした薬をすべて使うことは少なく、一部がバイアル(瓶)の中に残ります。
慶應大学の岩本隆特任教授によれば、2011年7月から2012年6月にバイアル製剤として提供された抗がん剤の市場規模は5259億円でした。
この時に、病院内で溶かしたけれど使われず、残薬となって廃棄された抗がん剤の額は保守的に見積もって410億円。
同様の抗がん剤の市場規模は2016年では9745億円と分子標的薬などの開発もあって急激に大きくなっています。
例えば2016年の抗がん剤のオプジーボの市場規模は1189億円。しかし、7.9%が廃棄されていると見積もられています。
同様に抗がん剤のアバスチンは市場規模が1110億円。廃棄率は8.9%と想定されています。
この2つの抗がん剤の残薬だけでおよそ200億円になります。
その他の抗がん剤注射の残薬を合わせると700-800億円になると岩本教授は推計しています。
さらに画像診断用の造影剤の残薬がおよそ100億円、そのほかの薬剤の残薬を合わせると病院内の残薬は1000億円近くなると推計されます。
この大半を国や保険者、そして患者が負担していることになります。
そして抗がん剤の市場規模は2023年に1兆5438億円にも拡大するという予測があります。
現在、多くの病院では、残薬を含めたバイアル単位で保険請求されていると思われます。
本来は使用した量を保険請求すべきなのですが、病院はバイアル単位で購入しているので、使用量分だけを請求すると、残薬分は病院の持ち出しになってしまいます。
オプジーボの場合、これが36,000円にもなります。
バイアル製剤を使用した時に、CSTDと呼ばれる器具を使用すれば、6時間以内ならば残薬を他の患者に使用することがアメリカでは認められています。
高額な抗がん剤の使用を特定の病院に集中し、使用量を保険請求するという原則を徹底し、残薬の有効利用を進めていくことで、数百億円の医療費負担を削減することができます。
そしてCSTDの使用は、看護師をはじめ医療従事者が抗がん剤などに曝露することも防ぎます。
瓶の底に残る薬の話ですが、大きな金額の話です。
(2017年6月1日「衆議院議員 河野太郎公式サイト」より転載)