東大先端研ROCKET PROJECT・中邑賢龍先生ー「社会不適合」といわれる不登校の子どもたちは、世界を救う可能性を秘めている?

一番大切なのは、個人の認知の特性や性格特性を踏まえて、自分らしく生きるってことだね。世の中のルールに自分の性格を合わせていくとしんどいぞ、って伝えたい。

ユニークな少年たちは、世界を救う可能性を秘めている?

--ROCKET PROJECTとは、なんですか。

世の中には「ここを目指せ」って言われても満足しない人たちがいる。

たとえばね、アーティストであり研究員の鈴木康広くんが作品を磨くのを子どもに手伝わせたときにね、子どもが「どうですか」って聞くと「まだだ」って言うんだ。

また磨いて「まだですか」って聞いたら「なんで君はそんなことを聞く。君の磨きたいところまで磨け。」って言ったんだよ。

つまり

ROCKET PROJECTでは、これは絶対許さんと思って、不登校のユニークな子ども達を囲うみたいなことをやっています。(笑)ここで学んでいる少年たちが、日本を救う時代がくると思うと、ちょっと愉快じゃない?「あっちいけよー」って言われていた子どもたちがさ。

中邑賢龍(なかむらけんりゅう)さん:1956年生まれ。東京大学先端科学技術研究センター教授。日本財団と共同で、「ROCKET PROJECT」という不登校の異端児・異才児の子どもたちを対象に、世界中の超一流たちと学ぶプログラムを手がけている。https://rocket.tokyo/

--映画『シン・ゴジラ』で活躍するオタクたちみたいですね!

あいさつできるのが社会性と思われているけど、そうじゃない。みんなが生きているということ、みんなで生きているということを意識する力だと思うんだ。これを変態さを発揮する少年たちが持ったときに変わるよ、きっと。今、彼らの多くは社会に対する恨みしか持っていないからね。

--そうですよね...。排除して、端に追いやって、社会と切断してきたわけですね。

「世の中の当たり前」ができない人は、実はいっぱいいるんだよ。引きこもって学校に行ってないと就職もなかなかっていう人たちが、いっぱいいる。それに心の中では「俺このままでいいんだろうか」って思っている。周りの大人が「頑張れ、頑張れー」って言うじゃない。

でも「なに頑張ったらいいんだ」って聞いたら「それはお前が考えなきゃいけない」ってなるんだ。最後は自主性に期待なんて、そりゃ無理よ。やってこなかったんだからね。

--中邑先生が、こういったことに関心を持ったきっかけは、どんなことなんですか

そういう若者がたくさん相談に来たんだよ。好きなことをやろうとして、散々責められて心に傷を残していたり、情緒不安定になった人たちがいっぱいいる。追い詰められて首を吊ったり、電車に飛び込んだり、命を絶つ人も少なくなかった。

ある命を絶った人にね、「俺たちみたいな大人を育てちゃいけないよ、先生」って言われたんだよ。あまりにも悲しかったよね。みんなが生きがいを持って生きられるような教育をつくろうよ、なんでそこまで追い詰めるんだ、って思ったよ。

誰かの知識を信じているうちには発明はない。無駄こそがAIに負けない人を育てる。

--ROCKETでは、具体的にどんなことをしているんですか。

たとえば「最果て」を目指す旅をしたよ。朝8時に東京駅に子どもたちを集めて、6日以内に最北端の稚内、最南端の枕崎まで行ってこいって。1日使えるお金は1000円まで。特急、新幹線、飛行機はもちろん禁止。各駅停車で向かう。全ての通信機器、ゲーム、お菓子を没収して送り出すの。

--お菓子まで!!

うん。ROCKETでは、こうやって時間をかけて「ホンモノ」を経験するんだ。

たとえば「漁師さんの仕事を学ぶ」って言ったら、大抵暖かい季節に、みんなで地引網をしましょうってなる。でもROCKETだったら、行くなら1,2月だよね。それから船に乗らなくちゃ。(笑)

--私は中高とシュタイナー教育を受けていたんですけど、瀬戸内にある祝島という島まで行って、鯛の一本釣りをしました。早朝から夕方まで、深海までたった1本の糸をぶら下げて、鯛を釣るんです。

あら、なかなかやばいね。(笑)

--3、4時間くらいしないと、20メートルくらい先に鯛がひっかけたときの、微々たる感覚に気づけない。まず鯛が来たか、それから食べたか、逃げられたのか。

それがやっているうちに、わかるようになるんだよね!

--それがめちゃめちゃ嬉しいんです。でも、こういう言い方してしまえば、「それで?」ってなってしまいますよね。

そうそう。「それで?」じゃなくて、「ほぉ、そうか」って思える感性を育てなくちゃと思うんだ。

「なんの役にたつの?」って思ってしまうような無駄のなかにある、時間をかけてホンモノを経験することで、「自分で発見したこと」こそ、学びだと思うんだ。最北・最南端を目指す旅も、無目的な旅なんだ。ROCKETでは、インターネットで調べれば1分で終わることも、時間をかけてやってみる。

なぜなら人間の知識を信じているうちに発見はないし、発明はないからだ。そうじゃないとAIに負けると思っている。

みんなが目指す「目的」があるところにAIやスーパーコンピューターが投入されるから。目的に生きることしかしなくなった人間は必ず食われるぜって俺は思うんだ。

--この前、東京シューレというフリースクールに高校生たちが取材をして、「目指しているところはどんなことですか?」って聞いたんです。そしたら奥地さんは「ゴールなんてないよ」って言った。オリンピック目指すとか、自分で設定したかったら好きにしたらいいけど、ゴールはないよって。

それは素晴らしいね。なぜゴールを設定しなくちゃいけないのか。今はどこでもKPIが設定されていて、その中で生きていかなくちゃならない。でもその中でしか生きられないって相当しんどいよね。

--「言われた通り、きちんと階段を登れば大丈夫」そういう発達的な考え方が教育は強いなあと思います。

ただ僕は、この階段を登らせるっていう経験もすごく必要だと思っている。多様性を理解するには、苦労がいるからだよ。今の子どもたちは、レジリエンスが低下している。

何か起こったらすぐイライラするし、どうしたらいいか分からなくてパニックになる。それは安全安心の中で生きていて、無駄なことをしていないからだと思うんだ。

--「何のために立つのかよくわかんない」って思う気持ちをさっさと捨てて、そこに向き合う。

冬に、炭焼き小屋に修行に行かせたことがあるんだけどね、とりあえず行ってこいと送り込んで10日くらい経ってから「焼けたか?」って子どもに聞いたら「いや先生、まだ火もはいりません」って言われたんだよ。

「そりゃ、なにしてるんだ」って聞いたら「毎日雪かきです。雪が降る日は炭焼きしませんって言ってます」って言うんだよ。

それに「じいちゃん雪かきしたら、お酒のんでます。昨日は焼き鳥に連れて行ってもらいました」って。「楽しいか」って聞いたら「はい」って。「ならいいじゃん、もっといろ」と。結局帰ってきたのは24日後だったね。

--すごい・・・。

でも本当に素晴らしい炭を焼いてきた。でもこんな面倒なことは、親も時間がないし、先生もカリキュラムいっぱいで時間がなくて、今の社会ではなかなか許されなくなってる。ROCKETでやっていることは、彼らが暇だからこそできる。

しかも彼らには覚悟があるんだ。「俺たちはもう大学になんて行かない、好きなことをして生きていく」って言う。たくましくなってきたね。最初は挑発されて、泣いてばっかだったのに。(笑)

世の中のルールに自分を規定するのではなく、自分らしく生きること。

--「無駄な時間をすごす」ことって、異端児・異才児と呼ばれる子たちだけではない子どもたちにも必要だと思います。学校も、宿題も塾もあって、時間が限られているのは分かるのですが...。

変態さを発揮する子どもたちの無駄って、ほんとうの無駄だからね。(笑)

--誰もが大なり小なり、変態なところを持っていると思うので、それを隠さずに開いてみたら、やさしい社会にならないかなって思うんです。

それはその通りだ。でもふつうは、不安のほうが強いんじゃないかな。「ほかの人と違うことはできない」って言うだろ。僕は、変態たちが伸び伸びと生きることができる社会ができると、ごく一般的なみんなの生活も変わると思うんだ。

--なるほど。ただ社会全体として疲労感というか、パツパツな印象があります。不安さえ乗り越えちゃうような、無駄といわれるような没頭してしまう経験と出会ってしまうことが大事だと思います。

そうだねえ。一番大切なのは、個人の認知の特性や性格特性を踏まえて、自分らしく生きるってことだね。世の中のルールに自分の性格を合わせていくとしんどいぞ、って伝えたい。

自分らしく生きることができる社会がつくりたい、それが目的なわけよ。まぁできるさ。だって俺たちがやってるように生きたほうが、楽しく生きられるもの。(笑)

聴き手・石黒和己(いしぐろわこ):1994年愛知県生まれ、23歳。NPO法人青春基地代表理事。中高はシュタイナー学園で過ごし、慶應義塾大学総合政策学部を卒業、東京大学教育研究科修士過程。NPO法人青春基地では「想定外の未来をつくる」をコンセプトに、高校でのプロジェクト型学習の授業や、10代向けのウェブメディア「青春基地」を通じて、高校生たちの好奇心を触発中。http://seishun.style

注目記事