野生復帰したシベリアトラが2頭の仔トラの母親に!

トラの保護のために協力が欠かせないのは、地域の人々だけではありません。日本の消費者の協力も期待されています。

2012年2月、極東ロシアの沿海地方で衰弱したメスの仔トラが保護されました。その後、この仔トラは、野生復帰のためのリハビリを受け、2013年5月にユダヤ自治州のバスタック自然保護区に放されました。それから4年近く経った2015年12月7日、このメスのシベリアトラが、2頭の仔トラを連れている姿が自動撮影カメラに捉えられたのです。この2頭は、アムール川より北側で誕生が確認された、今世紀最初の仔トラとなりました。今後、バスタック自然保護区がトラの保護を強化できるよう、WWFは必要な備品を提供するとともに、地域の人々の協力を得ながら支援を実施していきます。

仔トラの野生復帰と追跡調査

極東ロシアに生息するトラの亜種シベリアトラ(アムールトラ)は個体数が523頭~540頭と推定されており、IUCN(世界自然保護連合)のレッドリストで絶滅危惧亜種に指定されています。

そして、絶滅が心配されるシベリアトラにとって、冬は1年の中で最も厳しい季節です。

2012年2月、沿海地方のボリソフスコイ狩猟区で低体温症になっている1頭のメスの仔トラが保護されました。

この仔トラは何らかの理由で母トラと別れてしまい、生命の危機にあったため、獣医の治療を受けることになりました。

その後、野生復帰のためのリハビリを受け、約1年後の2013年5月、沿海地方の北西に位置するユダヤ自治州のバスタック自然保護区に放されました。

無事に野生復帰した、この仔トラはゾルシュカ(ロシア語でシンデレラの意)と名付けられ、自然保護区のスタッフはその後も追跡調査を実施。

首輪に付けた発信機や雪上の足跡による情報を収集し、さらに2014年半ばからは自動撮影カメラを用いて、1,000枚を超えるゾルシュカの写真を撮影してきました。

また、この保護区で撮影された写真の中には、ザヴェントニーと名付けられたオスのトラも写っており、ゾルシュカとペアになることが期待されていました。

野生復帰したトラが母トラに!

そして、2015年12月7日、1年半に及ぶ自動撮影カメラによる調査の末、決定的な写真が収められました。ゾルシュカが2頭の仔トラを連れていたのです!

この2頭は、アムール川より北側で誕生が確認された、今世紀最初の仔トラたちとなりました。

なぜなら、アムール川の北岸および西岸では、すでに大半の地域でシベリアトラが姿を消しており、今回2頭の仔トラが確認された地域も、これまではオスのトラしか生存が確認されていなかったためです。

40年ぶりともいわれる、今回の繁殖の確認は、アムール川北岸でトラの個体数の回復が始まったことを裏付ける出来事といえるでしょう。

そして、バスタック自然保護区で仔トラの生息が確認されたことは、ユダヤ自治州政府をはじめ、この地域にかかわるさまざまな関係者が、トラの保護に取り組まなければならないことを意味します。

今後の保護の取り組みについて、バスタック自然保護区のアレクサンダー・カリニン代表は、次のように述べています。

「我々にとって最も重要なのは、このトラの親子の保護を確実に実施することです。そのためには、保護区の北部でのパトロールを強化しなければなりません」

保護区のこうした取り組みを後押しするために、アムールトラセンターが調査用の四輪駆動車を用意し、WWFは冬用テントと衛星電話を提供しました。

WWFロシアのアムール支部で生物多様性保全プログラムのコーディネーターを務めるパベル・フォメンコは、トラの親子の保護について次のようにコメントしています。

「(個体数の少ないシベリアトラについて)仔トラ1頭1頭を保護することは、WWFがこれまでも取り組んできたことです。

沿海地方南部でアムールヒョウの子どもが保護された時もWWFは支援を行ないました。

今回のバスタック自然保護区でも、トラの親子の保護を確実に実施するために、WWFは同様に支援を実施します」

保護に欠かせない地域住民の協力

しかし、トラの保護には、設備や機器だけでなく、人の力が欠かせません。

さらに、保護の取り組みはWWFだけで実施できるものではなく、さまざまな関係者、とりわけ地域の人々の協力があって、はじめて効果的なものとなります。

こうした取り組みについて、フォメンコは次のように述べています。

「今世紀初となるアムール川北岸での仔トラの誕生が、自然保護団体だけでなくユダヤ自治州に住む全ての人々に喜んでもらえることを望んでいます。

トラの主要生息地から離れた保護区で、仔トラたちが無事に育つ環境を整えるためには、地域の人々の協力が欠かせません。

彼らの協力を得ることではじめて、私たちはこの取り組みを成功に導くことができるのです」

日本の消費者としての協力

トラの保護のために協力が欠かせないなのは、地域の人々だけではありません。現地のWWFからは、日本の消費者の協力も期待されています。

それは、日本が輸入している建材や家具の一部が極東ロシアの森林を伐採して作られており、日本の消費者がトラの生息環境の破壊の一端を担っている可能性があるからです。

もちろん、極東ロシア産の全ての木材が破壊的な伐採により生産されている訳ではありません。

中には、持続可能な森林管理により生産されたことを示す「FSC認証」を得た木材もあります。

しかし一方で、違法伐採や破壊的な商業伐採により生産された木材が極東ロシアから中国に輸出・加工された後、日本市場に流通している可能性もあるのです。

こうしたトラの生息環境を脅かす製品を購入しないためには、日本の消費者がFSC認証材を選択することが重要です。

WWFではこれからも、日本とロシアの両事務所が協力して、現地でトラの保護に取り組むとともに、日本の企業や消費者に対してFSC認証材の調達・購買を働きかけていきます。

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