南三陸町でASC認証の取得伝達式が行なわれました

2016年5月18日、宮城県南三陸町にて、海の環境に配慮した養殖の証である「ASC(水産養殖管理協議会)認証」の取得伝達式が執り行なわれました。

2016年5月18日、宮城県南三陸町にて、海の環境に配慮した養殖の証である「ASC(水産養殖管理協議会)認証」の取得伝達式が執り行なわれました。これは2016年3月30日に宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉出張所が管轄するマガキ養殖が国内初のASC認証を取得したことを受け、ASC本部より担当者を招き認証状を授与するもので、佐藤南三陸町長をはじめ、活動支援者ら来賓、およびかき生産部会員60名あまりが出席する盛会となりました。

被災後の決断とゼロからの挑戦

2011年3月の東日本大震災により全損した養殖施設をいかに再建するか。

被災後、漁協戸倉出張所とかき生産部会は、連日におよぶ話し合いを経て大きな決断を下しました。

  • これまで各組合員37名に割り当てられてきた養殖区画を一度白紙にする
  • 1000台あった養殖施設を300台まで削減する
  • 自営で養殖を行なっていた37名の組合員が、全員共同で経営管理に取り組む

この決断は、ただひとえに、品質や生産効率の良い養殖を行うためのものでした。

養殖の密度を下げ、海の環境を改善し、効率のよい管理を行なえば、収獲量は減っても、成長の早い大ぶりで高い品質のカキを生産することができるからです。

実際、震災前は、戸倉ではより多くの収入を求めるあまり、いつしか海の生産能力をこえる密度の養殖施設が作られ、結果としてカキの成長や品質が著しく低下していました。

しかし、まさにゼロからのスタートとなったこの再建は、各自の経験や知識、技術を磨きカキを育ててきた生産者にとって、まさに苦渋の決断だったと言います。

世界が認める海の恵みを

WWFジャパンは、2011年から南三陸町で「暮らしと自然の復興プロジェクト」を開始。

他団体とも協同で取り組んだ「つながり・ぬくもりプロジェクト」を通じ、避難所や再建された漁協戸倉出張所に太陽光発電パネルを設置する一方、持続可能な水産業支援として、志津川湾の環境調査や認証取得のための改善プロジェクトを展開しました。

また、WWFがサンゴ礁の保全に取り組む沖縄からもゲストを招き、地域の子どもたちに海や漁業を伝える環境教育のサポートも実施。

地元関係者と話し合いながら、人と海の絆を取り戻す取り組みを進めてきました。

そして、その一環として、戸倉のカキ養殖についてASCの認証取得を進める話が持ち上がりました。

2011年当時、設立後まだ間もないASCが認証した養殖場は、世界中どこを探しても存在せず、国内でもその普及の可能性は不透明でした。

しかし、戸倉の関係者の皆さんは、国内だけでなく、世界的にも認められるこの国際認証の取得に向けて、新たな一歩を踏み出したのです。

実現した日本初の認証取得

ASCはその後、順調に広がりを見せ、2012年にはベトナムのティラピア養殖場が世界初の認証を取得。

2014年には日本でもイオンがノルウェー産サーモンの発売を開始したほか、現在では国内の30を越える企業がASC認証の取り扱い資格を有しています。

他地域、他魚種の養殖関係者からもASCに対する問い合わせは増えており、この5年で、ASCが認証する海の環境に配慮した認証ラベルに対する日本国内での関心は、確実に高まってきました。

そして、2016年3月30日、ついに戸倉のカキ養殖がASC認証を取得。日本の養殖業としては、国内初となるASC認証が、被災地の海から誕生したのです。

それは、単に震災前に状況を戻すだけではない、未来に向けた人と海とのかかわりを築く、新たな復興の一つの形でした。

しかし、認証を取得した漁協戸倉出張所は、認証取得はゴールではない、と言います。

認証を活かしつつ、海の環境を保全し、高品質で付加価値の高いカキを作っていく、それこそが、目指すべき真のゴールであり、挑戦だからです。

すでに地元のカキを取り扱う関係者が中心となってASCカキの普及や利活用を進める「南三陸 海さ、ございんプロジェクト」が立ち上がっており、その実現に向けた取り組みが動き始めています。

ASCからのメッセージ

ASCの認証取得を記念し、2016年3月30日に南三陸町で開催された伝達式では、オランダから訪日したASC開発普及室ディレクターのジョン・ホワイト氏より、かき生産部会の後藤清広氏に認証状が手渡されました。

これに際し、ホワイト氏は戸倉の生産者に次のような言葉を贈りました。

「震災は尊い生命や生活手段など多くのものを奪いましたが、南三陸の人々の心意気まで奪うことはできませんでした。

どんな困難があっても、希望を捨てず、より良い未来に向けた強い意志を持ち続ける限り、明るい未来を切り開くことができる。

そのことを示された皆さんに、ASCは敬意を表します」

そして、「今回の認証取得を皮切りに、日本の責任ある養殖水産物の生産と消費が普及することをますます期待します」と今後の日本の養殖業に対する期待を述べました。

また、佐藤仁南三陸町長からは、「ASC認証の普及のために、行政としても漁業者や関連機関との連携を推進する」という言葉があり、WWFジャパンの筒井隆司事務局長からも、震災を乗り越え、未来へと変革を成し遂げた偉業として、今回の認証取得が語り継がれることを祝した謝辞が贈られました。

認証の取得という一つのステップを越え、新たなスタートを切った戸倉のカキ養殖。

それは、世界屈指の養殖水産物の生産国である日本にとっても、大きな意味を持つものとなります。

WWFジャパンでは今後も、認証の更新審査に必要な情報や資金について、生産者や地域がより主体的になった体制作りに向けて支援を行なうとともに、他地域や他魚種への水平展開を図りたいと考えています。

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