都議会ヤジの問題で大はしゃぎする人たちが軽すぎて、頭痛が痛い。

自分は今回の騒ぎに当初から強い違和感を覚えていた。塩村議員や鈴木章浩議員、かばっていた東京都の自民党にではない。ヤジ問題で大騒ぎをしている人たちにだ。

6月18日に行われた東京都議会の一般質問で、みんなの党の塩村文夏議員が子育て支援等に関する質問中に性差別的なヤジを受けた。「早く結婚したほうがいいんじゃないか」と。このヤジ問題は大きく報じられ、23日になってようやく本人が名乗り出た。

自分は今回の騒ぎに当初から強い違和感を覚えていた。質問をした塩村議員やヤジを飛ばした鈴木章浩議員、それをかばっていたと非難されている東京都の自民党にではない。ヤジ問題で大騒ぎをしている人たちにだ。

「日本はいつの間に女性差別に対してこんなに厳しくなったんだろう?」と。

■「女性優遇」「逆差別」を許せない人たち。

自分は過去に「日本の不景気は女性差別が原因だ」という記事を5回も書いた。これは女性が雇用で冷遇されていることがいかに景気悪化に拍車をかけているか、という内容だが、記事を書くたびに賛同コメントと同じくらい誹謗中傷・罵詈雑言コメントも受けた。

最近でも女性活用のニュースが報じられると、同じような反論が多数発生する。

逆差別をするな。

女性優遇はおかしい。

女性が冷遇されるのは男女平等の結果。

女は家で子育てをしたいから仕事を辞める。

女は義務(多分、出産や子育て)を果たさずに権利を主張する。

女性の社会進出が少子化の原因。

よくある反論はざっとこんな所か。ウェブニュースのコメント欄、ツイッターやフェイスブックなどのSNSはこんな発言のオンパレードだ。

こういった反論を実際に受けてきた経験から、日本は性差別に寛容・鈍感な国だと認識していた。そこで今回の騒動が起きている。一体どちらが本当の姿なのだろうか。

結論を言ってしまえば、元から性差別について発言をしている人を別にすれば、佐村河内守氏や小保方さんの会見で大騒ぎしていた人とほとんどが同じ層が、良いネタが見つかったとはしゃいでいるようにしか見えない。

■怒り心頭な人に贈るQ&A

こんな事を書くと以下のような反論が来るかもしれないが、いずれもお祭り騒ぎを正義の行動と勘違いしているだけだ。

*性差別的なヤジをした議員はとんでもない奴だ!かばう奴も同罪だ!!

→確かにそうですね。今後もその調子で性差別撲滅に尽力してほしいと思います。勤務先の上司や社長が同じ発言をしたら是非今回と同じように厳しく追求して下さい。

*日本に女性差別なんて無い!だからこそ今回のように厳しい批判が起きたんだ!

→日本の企業では出産で半数以上の女性が仕事を辞めます。男女間で大きな賃金格差があります。女性管理職の割合はわずか10%程度、女性役員は1%程度です。これで女性差別が無いと言い張るのは統計で考えると天文学的に低い確率です。

*海外でも報じられて恥ずかしい!日本の首都でこんな事が起きるなんて日本の恥だ!!

→同感です。ただ、日本はこれまで繰り返し女性差別が酷いと海外から厳しく指摘されています。女性の社会進出は先進国中最低、世界全体で見ても低水準です。このような話は散々報じられています。差別発言を恥ずかしいと思うのなら差別的処遇も恥ずかしいと思うのが普通の感覚です。なぜ今までは興味が無かったのでしょうか。なぜ今回だけそんなに騒ぐのでしょうか。

*こんな発言をした議員が所属する自民党は女性差別的な体質だ!

→過去に「生む機械発言」をした大臣も自民党で、当時も安倍総理でした。確かにそういう面もあるかもしれませんが、今の自民党は党三役のうち二人が女性です。幹事長の石破氏は女性活用の推進に熱心な議員として知られています。他の政党や一般的な企業と比べた場合、特段に劣っている印象はありません(都の自民党がどうなのかは分かりませんが)。女性役員はゼロ、女性管理職の割合は一ケタという企業の方がよっぽど女性差別的な体質でしょう。そして日本の企業はほとんどがそんな状態です。で、あなたの勤務先はどうですか? 自民党より先に文句を言った方が良い状況じゃありませんか?

■正義感に溢れる人へのお願い。

自分が覚えた違和感は、日本は元々女性差別が横行している国なのに、なぜ今回だけそんなに大騒ぎしているのか?という事だ。

今回大騒ぎをしている人は、会社で女性というだけで昇進が遅れている社員がいたら社長に猛抗議すべきだ。そして妊娠した女性に退職圧力を掛ける上司にも同じく猛抗議すべきだ。なんでうちの会社は女性役員が居ないんですか?なんで女性管理職が1割しか居ないんですか?と毎日社長を問い詰めるべきだ。

それとこれとは話が違うというなら、場面によって使い分けるなんてずいぶん都合の良い正義感ですね、としか言いようがない。

■AKB48並みに話題になった都議会。

ヤフーのリアルタイム検索という機能を使うと、ツイッターとフェイスブックで現在どのワードがどれ位つぶやかれているかが分かる。

ここ数日の数字を見ると、「塩村」で検索すると1万~2万回、「都議会」で2万回~3.7万回だ。1日に2万~3万回という数字は他の大きなワードと比較すれば「AKB」と同じくらいだ(総選挙などのイベント時は除く)。都議会の問題は今の日本では瞬間的にAKB並みのホットトピックスになっているということだ。

この数字だけを見れば性差別的な発言を許さない人が多い、真っ当な国のような気もするが、上で書いた通りとてもそのような状況ではない。

■安全地帯から石を投げる行為。

ヤジを飛ばした議員がここまで非難される理由を多くの人は誤解している。鈴木議員のフェイスブックに罵詈雑言を書き込んで非難している当の本人ですらわかっていない。これは決して問題発言をしたからではない。今回のようなケースでは問題発言をした人をいくら叩こうが、批判する側には一切リスクがないからだ。

日本ではいくら叩いても良い人達がいる。政治家、公務員、なにか問題を起こした人(ささいな違法行為、問題発言など)だ。佐村河内守氏や小保方さんもこれに含まれる。「問題を起こした政治家」のように、2つの要素が重なるとマスコミもネットも文字通り「祭り」になる。

もし会社で上司や社長が今回のようなセクハラ発言をしたら、すべての社員が一斉に猛抗議をするだろうか。仕事をボイコットしたり辞表を叩きつけたりするだろうか。きっとかなりの人が腹を立てつつも何も言えないのではないか。それは上司や社長を批判することに「リスク」があるからだ。

ヤジを飛ばした鈴木議員が名乗り出ずに黙っていた事や嘘をついていた事はアンフェアだが、安全地帯に居るときだけ批判をする事も十分アンフェアだ。結局、こういった安全地帯からの批判は多くの人にとって女性差別が他人ごとであって「自分事(じぶんごと)」ではない証拠だ。

■総論賛成、各論反対の女性差別について。

女性差別は良くない。これは当たり前の話で反対する人は居ない。しかし、じゃあ差別されているような状況を無くすためにこういう事をやろう、と具体論に踏み込んだ途端に、上に列挙したような反対・批判が一斉に飛んでくる。

自分が「日本の不景気は女性差別が原因だ」を書いた理由は、ファイナンシャルプランナーとして普段の業務である住宅購入の相談の中で感じた事がきっかけだ。女性の雇用が安定し、それによって収入が安定して将来の見通しが立てば、多くの人が安心して家を買える。そうなれば住宅ローン減税で余計な税金を使う必要も無くなり、結果的に景気回復のプラスになる。これは「日本の不景気は女性差別が原因だ その4」で書いた事だ。

記事の中でも触れているように、女性の側が出産後に雇用は継続されるのか、将来の収入はいくらになるのか、これが決定的に住宅購入の判断や予算に影響を与える。そして住宅購入は最大の景気対策となる(だから莫大な予算で住宅ローン減税を行い、期限が来ても延長する)。

自分は不動産業者ではないのでお客様が家を買うかどうかで受け取る報酬は1円も変わらないが、買いたいと相談に来ている人には買っても大丈夫と答えたい。出来れば理想の家を買って欲しい。しかし様々なリスクを考えれば購入は辞めた方がいい、予算は下げたほうが良いとアドバイスをせざるを得ないケースもある。

その多くが女性の雇用が不安定な事が原因だ。だからこの記事は何の騒動も起きていない時にあくまで「自分ごと」のつもりで書いたものだ(そして上記の通り、共感のみならず誹謗中傷や罵詈雑言、根拠のない反論なども多数受けたが、それも覚悟の上だ)。

■「祭り」では何も変わらない。

今回の騒動を機に女性差別の問題に目覚める人がいるのならそれはそれで良い事だと思う。しかしそんなことにはならないだろう。佐村河内守氏や小保方さんの問題にもはや誰も興味を持っていないように、数ヶ月もすれば騒動があったことすら忘れられているに違いない。なぜなら多くの人が差別発言をした政治家を叩きたいだけで、女性差別に興味を持ったわけではないからだ。

いずれにせよ、今回これだけ騒ぎになっている以上鈴木議員は政治家を続ける事は難しいだろう。佐村河内守氏や小保方さんと同じように、メディアとネットによって血祭りにあげられて、政治生命を失う。それで今回の騒動は終わる。それ自体は自業自得で特に感想も意見もない。

謝罪会見ではカメラの向こう側でまだ怒っている都民や女性が多数居る状況で「今後は初心に戻って頑張りたい」と発言したり辞任をキッパリ否定するなど、全てがトンチンカンだ。今の時点で今後の話をすると、目の前の問題を軽視しているように見えてしまう。危機管理的には0点だ。アドバイスをしてくれる人がもう居ないのかもしれない。

■「祭り」の後で。

今回のヤジ問題で重要な点はヤジを飛ばした人が誰で、どのような処分を受けるかではない。鈴木議員を徹底的に批判して大騒ぎをした人たちが今後職場や日常生活で女性差別をとめる側になるかどうか、多くの部外者にとって本質的な問題はそこだ。

上で書いたように、AKBと同じ水準の興味関心が日常の女性差別に向けられて、多くの人が今のような勢いで声を上げれば、2・3か月で日本の女性差別は消えてなくなるに違いない。塩村議員が質問した子育て支援もアッという前に実現するだろう。

もっとも、こういった重大なニュースを「消化」せずにお祭り騒ぎで「消費」してしまう人ばかりではそんな事は起こりようもない。

もちろん、実際には上で書いたような上司を問い詰めるとか社長に猛抗議を出来る人はいないだろうし、そういう事をやれと煽りたいわけではない。各々が出来る範囲で出来ることをやれば良いだけだ。自分は幸いにも多くの人に記事を届ける場を与えられているので記事を書いた。地味な行動でしかないが、何もしないよりマシだろう。

ウェブやSNSで罵詈雑言を書いている人は、一旦冷静になって身近な所で何か出来ることは無いのか、自分ごととして今回の問題を考え直した方が良い。

そしてここまで噛み砕いて説明しても、差別発言をしてる奴をかばうのか? お前は自民党の支持者か? 金でも貰って沈静化を依頼されたのか? という誹謗中傷を受けるのがウェブの世界だ(こんな記事こんな記事を書く人間が自民党支持者のはずもなければ沈静化を依頼されることも無い)。それでもあえて自分がこういう記事を書くのは、リスクを取って「自分ごと」として今回の問題を受け止めているからだ。

メディア・住宅に関する記事は以下も参考にされたい。

■家は余ってるから買う必要がない、というのは本当?

■山手線駅近に6500万円の家を買いたいワケ

■年収2200万円でも、繰り上げ返済で破綻リスク?

■小保方さんの記者会見で号外が出る日本が平和すぎて、頭痛が痛い。

■ウクライナで米露衝突?と言われる中、佐村河内守氏の記者会見で大騒ぎしてる日本が平和過ぎて頭痛が痛い。

佐村河内氏の問題が起こって以降、不正が減ったとか犯罪が減ったという話は特に聞かない。それと同じように今後も女性活用の話が出るたびに逆差別だ、女性優遇だ、という反論が結局は消えることは無いだろうと思うと、頭痛が痛い。

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