先日、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)で、子どもの入場料を無料にする企画が発表され、話題となりました。
これは、開業15周年を記念した夏休み期間限定の企画で、2府4県の関西在住の小学生(4~11歳)以下の子どもが対象。通常4980円かかる入場料が、大人1人につき子ども1人分が無料となるのですから、関西在住の親御さんにとって"ウハウハ"な企画と言えますね。何とも太っ腹。
USJでは、これまでも様々な企画で話題を集めてきました。この夏には、漫画雑誌「ジャンプ」とコラボし、『ドラゴンボール』や『DEATH NOTE』がアトラクション化。そして、これからは、AKB48グループが毎日ライブを行う企画がスタートしますし、人気ゲーム「ドラゴンクエスト」とのコラボも発表されています。筆者が初めてUSJを訪れたのは2004年。当時の代表的なアトラクション「スパイダーマン」にすっかりハマってしまった記憶があります(遠い目)。
■長く低迷期が続いていたUSJの浮上のきっかけは
次々とヒット作を打ち出すUSJ。なぜ、こんなにも話題を作り続けることができるのでしょうか。そもそも、USJは開業して数年は多くの来場者が訪れブームとなったのですが、その後、低迷期が長く続いていました。そんなUSJは、あることがきっかけにして、今の人気を手に入れたのです。
USJの浮上のきっかけとなったのは、「消費者目線」です。
この「消費者目線」を軸にしたことで、新規事業成功率が劇的にアップ。これまで30%だった新しいアトラクションやイベントなどのプロジェクト成功率が、最近5年間は平均97%となったのです。
その立役者の一人が森岡毅さんです。2010年に同社に入ると、素晴らしいアイデアを次々と投入。当時、窮地にあった業績を見事V字回復させたのです。2012年より、チーフ・マーケティング・オフィサー、執行委員、マーケティング本部長として同社で活躍中。
■企業では意外と難しい「消費者目線」でのサービス作り
消費者目線とはその言葉通り、USJのゲストが喜ぶ企画を提供するといったもの。今回でいうと無料企画や「ジャンプ」とのコラボ企画でしょう。消費者目線だなんて、「何を当たり前のことを」と思うかもしれませんが、実は企業に入ってサービスを作ろうとすると、これが意外と難しいのです。
「会社という組織が消費者視点で一致団結することは、自然状態では困難だと私は考えます。大きな組織になればなるほどそれは難しい。その理由は、会社というたくさんの人が集まっている集団では、会社の利害と個人の利害が必ずしも一致しない」と、世の中の組織について、森岡さんは自著『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』で分析しています。
個人の利害と言えば、面白くてやりがいのある仕事をすることで得られる達成感や、スキルアップや給与アップがあるでしょう。会社の利害のために働くことは理想ではありますが、なかなかそれらがシンクロすることは簡単ではありません。
さらに、個人の利害と会社の利害の間には、部署の利害というものが存在します。部署それぞれに予算や目標、リソースがあります。仮に自分が思う「消費者目線」のサービスを実行しようとしても、所属部署が社内で評価されていないと、社内で合意を得るために相当な時間がかかってしまいますよね。また、かたちになるまでには、色んな人の意見が混ざり、当初考えていた内容と様変わりしてしまうことも。そうなると「消費者目線」から少しずつズレていってしまうのです。
「個人間や部門間のパワーバランスを反映して、消費者価値としてのベストよりも"玉虫色"な妥協案に近づいていくことになります。そして従業員は、社内の利害の調整ばかりに多くの時間を割かれることになります。消費者価値にとって何が良いのかということを必死に考えるべき"外向き"の時間や労力が、どんどん"内向き"の社内政治に使われていくようになりがちです」(同書より)
どこか心当たりある人もいるのではないでしょうか。大きな組織になればなるほど、社内政治に巻き込まれがち。すると、最初のアイデアであった「お客様目線」は、どっかにいってしまうことも。
■ポイントは「カレーすき焼き」を作らないこと
森岡さんは、この「玉虫色の妥協案」に問題を感じており、そうならないようこだわっています。同書で、「カレーライス」と「すき焼き」を例にして「玉虫色の妥協案」を説明しています。
例えば、会社内には「カレーライス」が良いという人がいます。一方で、「すき焼き」が良いという人もいます。会社でよく見かける意見がわれるシーンですね。そんな時の解決案として出て来るのが、「皆の意見」という誰も傷つかない「玉虫色の妥協案」です。つまり、「カレーすき焼き」という、誰が喜ぶのかよくわからないものが仕上がってしまうのです。
中には、「カレーすき焼き」を好む人もいるかもしれませんが、それは少数派。そして、このような「玉虫色の妥協案」は決して消費者目線と言えませんよね。
「誰がなんと言おうと、たとえ社長が"すき焼きが良い"と言っても、カレーライスで説得しなくてはいけません。消費者のベストであるカレーライスで押し通す。それができなければ会社を勝たせることができない」とは、森岡さん。
消費者目線で考えた時、カレーライスが正しい場合はそれで通すのが森岡さん流なのです。
現在、同社では、森岡さんのいるマーケティング部が消費者の求めているものを分析。何を作るかの、方向性をしっかりと決めます。エンターテイメント部・技術部がつくるアトラクションやイベントに対して、それが消費者にとって良いのか悪いのかチェック。消費者目線からズレていないかを常に確認しているのです。そこには、「玉虫色の妥協案」はなく、最初に決められた案をしっかり通すようにしているのです。
このように徹底的に消費者目線で考えて制作することで、喉から手が出そうな魅力的な新アトラクションやイベントを誕生させることができるのです。
大切なことは、マーケティングで分析した「カレーライス」の情報で進めること。間違っても、途中で「すき焼き」を足して、カレーすき焼きにしないことなのです。
筆者としては、「カレーすき焼き」を一度食べて見たい気はしつつも、サービスを作る上ではこの「カレーすき焼き」は、消費者を無視した中途半端な妥協案となってしまうのです。大変参考になりました。