「18歳選挙権」で救われない若者には何が必要か?

世界のほとんどの国が導入している「18歳選挙権」で満足するのではなく、どうやって若者の意見を真剣に政治に取り入れていけるのか。

昨年6月、公職選挙法が改正され、選挙権年齢が引き下げられた。今年7月に予定されている参議院議員選挙より、18歳、19歳も投票ができるようになった。これは現在の男女20歳以上に選挙権が与えられた1946年から、じつに70年ぶりの選挙権引き下げとなり、歴史的な出来事といえる。

若者を「救えない」18歳選挙権

一方で、18歳、19歳の人口(約240万人)が有権者全体に占める割合は約2%であり、有権者全体のバランスを大きく変えるものではない。日本の選挙は、数において圧倒的に多い高齢層が、投票率でも若年層を凌駕しており、高齢者優遇の政策になりがちな「シルバーデモクラシー」となっていると指摘されている。このことが社会構造の転換や財政的な持続可能性を妨げている一因と考えれられている。

またこの話は若者だけの利益に限った話ではない。現行の公的年金制度では、その増え続ける高齢者を現役世代が支えなければならない。1950年時点では12.0人の生産年齢人口で1.0人の高齢者を支えていたが、これが2010年時点で2.8人、2060年の予想人口比率では1.3人にまで減少する。今後社会保障制度を持続させるためにも将来世代のことを重視しなければいけない時が来ている。

しかし、現状の選挙制度では、高齢者の意見が重視されることになる。もちろん理想としては一人一人が国のことを考えて投票することだが、現実的には自分が最優先だろう。高齢者は当然すぐに結果(利益)が出る政策を求める。これを責めることはできない。

2014年の衆議院議員選挙を例にとると、60代の投票数(有権者数×投票率)は1,313万票である一方、20代は414万票にとどまり、投票数では20代は60代の3分の1となっている。(※1)

少子化が進む日本では年齢が下がるほど人口が少ない構造になっており、18歳、19歳が投票に参加し、若年世代としては非常に高い投票率(仮に60代と同じ約60%とする)になったとしても、投票数は60代の約4割にとどまる。依然として政治家にとっては、若者よりも高齢者の声を優先した方が「得」である状況に変わりはない。

選挙権年齢が下がることは、投票数以外にも若者の政治的関心を高めることや、社会が若者の動向に注目することなど、副次的な影響もある。しかし、根本的に選挙に与えるインパクトが限定的であるため、18歳選挙権が日本の社会構造をドラスティックに変えるとは言い難い。

被選挙権年齢の引き下げも検討すべき時

それでは、若者の意見がより社会へ反映されるようになるためには、どのような取り組みが必要なのだろうか。ここでは選挙制度改革を考えてみる。

まず、被選挙権年齢を引き下げることにより、より若い世代が議員として活動できるようになる。現在の被選挙権年齢は、衆議院議員、地方議会議員、市区町村長は25歳、参議院議員ならびに都道府県知事は30歳となっている。これを20歳や18歳に引き下げるというものだ(「何歳が適切か」という議論はここでは置いておく)。

こうすることにより、より直接的に若者の声が政治に反映されるようになる。同時に、同世代が出馬するとなれば、若者の政治的意識もより高まっていくだろう。

これに対する反論としてよくあるのは、社会的経験も積んでいない若い世代が、政治ができるのか、ひどい政治家が生まれたらどうするのか、という意見だ。たしかに、政治は多くの人の人生を左右するものであるから、いい加減な人や能力の欠ける人においそれと任せるわけにはいかない。

しかし、18歳や20歳であれば、必ず政治家にふさわしい素質を備えていないと言えるのだろうか。逆にいうと、年齢要件を満たしていても、政治家にふさわしくない(が当選している)人はいないと言えるだろうか。また、衆議院議員は25歳からで参議院議員は30歳からという「5歳」の差に合理的な理由があるだろうか。

被選挙権年齢は、その年齢以上であれば「立候補できる」ということであって、選ぶのは有権者である。能力が満たないと思うのであれば選ばなければよい。若い人の声をより積極的に吸い上げていくためには、被選挙権年齢の引き下げは検討すべき時期に来ていると考えられる。

高すぎる供託金が若者を政治から締め出す

被選挙権年齢の引き下げと併せて検討した方が良いのは、立候補時に必要となる供託金の引き下げ(または廃止)である。

立候補時に必要となる供託金は選挙によって30万円~600万円と様々で、国会議員への立候補は300万円(選挙区)か600万円(比例)となっている。20代後半の平均年収が340万円とされる現在、供託金は立候補の大きな足かせとなっている場合も少なくないのではないか。

諸外国と比べても日本の供託金制度は非常に高額である。主な国を例に挙げると、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアなどには供託金制度はなく、イギリス下院500ポンド(約8万5千円)、カナダ国政選挙1,000カナダドル(約8万4千円)、韓国国政選挙1,500万ウォン(約150万円)などである。

供託金の額を下げたり、そもそも無くしたりすれば、売名目的の立候補者が増え、選挙が混乱するという意見がある。それはある程度正しいとしても、上記の各国の例を見れば引き下げる余地はあるだろうし、立候補の際に一定人数の推薦人(署名)を集めることで供託金の代わりにすることなども考えられ、必ずしも供託金という形式にこだわらなくてもよいだろう。

そのほか、地域ではなく年齢ごとの「世代」によって当選者数を割り当てる「世代別選挙区」や、選挙権年齢に満たない子ども(乳幼児も含む)の分を親が代理で投票する「ドメイン投票方式」など、若年層の意見をより確実に政治に反映させようとする様々な方法が提案されている。

世界のほとんどの国が導入している「18歳選挙権」で満足するのではなく、どうやって若者の意見を真剣に政治に取り入れていけるのか、ようやく日本はスタート地点に立ったと言えるのではないだろうか。

※出典:

1 第31回~第47回衆議院議員総選挙年齢別投票率調(総務省)

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(2016年1月25日「Platnews」より転載)

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