夫婦の8割が共働き。フィンランドで見つけた「楽ちん家事育児」8つの法則

フィンランド人の妻として、二児の息子たちの母として生活してきた実感をお伝えしたい。

男女平等の国として名高いフィンランド。この国に暮らす子育て世代はどんな暮らしをしているのだろうか。フィンランド人男性と結婚後、現地に移住し2人の子供を育てるフリーライター・靴家さちこさんが紐解く、フィンランドの家事・育児事情とは?

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フィンランド企業ノキアの日本支社に勤めていた当時、日本に来て初めて専業主婦を経験したフィンランド人の駐在員妻が口々に言う「日本のお母さんは偉い」「あんなにたくさんおかずを用意するなんてできない」という言葉から、フィンランド人女性の家事労働は、日本人女性のそれと比べてやや大雑把であることが伺えた。

後に結婚して夫の国フィンランドに住むことを決めたとき、私は「男女平等」の国に移り住むことを意識した。

フィンランドに住むということは、私も当然のごとく仕事と家事育児を両立し、それと引き換えに家事の様々な手間から解放されるらしい。それが私にとってラッキーなことなのか、日本人としてのアイデンティティーを失う喪失感につながるのか。当時の私の心の中は期待と不安が入り混じっていた。

あれから13年。実際にフィンランド人の妻として、二児の息子たちの母として生活してきた実感をお伝えしたい。

男女平等な家事育児のあり方

結論から言うと、夫婦の8割が共働きのフィンランド社会では、「働きながら家のことまで全部こなすなんて無理」という共通理解があり、女性の生き方は日本より楽である。以下にその合理的な具体例を挙げてみよう。

1.朝食の用意は早起きが得意な方がやればいい。

用意といっても、サンドイッチにのせる野菜を切って用意し、トーストは各自が焼いてマーガリンを塗ってハムやチーズと野菜をのせて食べるだけなので誰にでもできる。

こんなにシンプルな朝食だと、子供たちも就学したら自分でできる。うちでは、早起きでコーヒーは自分で淹れたい夫が朝食係になった。

シンプルなオープンサンドイッチの朝ごはん。健康的なおやつとしても、寝る前に小腹がすいた時のお夜食にも、フィンランド人の一日に何度でも登場するメニュー

2.料理も得意な方がすればいい

基本はワンプレート料理。ゆえにフィンランドで一番売れているお皿のサイズは、日本人が好んで買うサイズのものより一回り大きい。料理は、熱々の鍋やフライパンごとテーブルに並べて、各自食べられる分だけ取り分けるので、盛り付けも要らない。洗い物も少なくて済む。

3.忙しい平日、料理は出来合いを買ってくる

出来合いのものをオーブンや電子レンジで温めるか、フライパンで調理する。好みの調味料や野菜、チーズやクリームを足せば、オリジナルの味が出る。

出来合いのキャセロール料理。ふたを取ってオーブンに入れるだけ

それでも物足りなければ、夫でも妻でも料理が好きな方が週末に腕をふるう。うちでは、夫は出来合いのものでいい派で、料理好きな私は材料から揃えてきちんと作る派だ。

スーパーのデリカッセン。マリネ液につけられて後は焼くだけの肉料理や、燻製の魚料理。主食のジャガイモやサラダと一緒に食す

4.食器洗いは食洗器の仕事

ヨーロッパの食洗機は大きいので、朝から使用済みの食器を入れ続けて、夜に洗剤を入れてスイッチを押し、翌朝乾いたものを取り出す。

大きな食洗器にどんどん入れるだけのお皿洗い。手洗いはフライパンやまな板などの大きめの調理器具ぐらい

この1日1回だけの作業でも「いつも私(僕)がさせられている」と喧嘩する夫婦や、「そのお皿はこっちに入れて!」とダメ出しし合う夫婦もいるようだが、調理も片付けも早く済めば、その分子供たちの世話や他のことにも手が回る。食洗器は、フィンランドで私が手に入れた家政婦だ。

IKEAのショールームでおしゃれなキッチン家具とセットで販売されている食洗器

5.洗濯は週に1回

それが実現できるように服や下着は一人5組ぐらいは確保している。縦ドラム式の洗濯機の洗浄力は強いので、ブルーベリーやラズベリーを食べた後のべちゃべちゃのベビー服を、下洗い無しでもシミ一つ無く洗い上げる。

洗浄に少し時間がかかるのと、日本で買ってきた繊細な服が痛むのは玉に瑕だが、パワフルな洗濯機は強い味方だ。ちなみに洗濯は室内干しが基本で、時間も選ばない。夜に干しておいた服は、翌朝には着られる。

容量8㎏はある洗濯機は一週間に1〜2度回せば十分

6.下着など細々した洗濯物は畳まない

畳まなくても十分に服が収まる収納スペースがあるし、見えないところまでエネルギーを使う意味が無いからだ。これは夫からの提案で、実践しているフィンランド家庭も多いが、私は畳まずにはいられない。その代わりに私の不在中、もしくは具合が悪い時に夫が適当にやってしまっても文句は言わない。

洗濯バサミ要らずの物干し。外干しができるのは十分日照が得られる夏の間だけ

7.掃除は2週間に1回。ペットがいる家は週に1回、掃除機をかける

フィンランド人は室内では靴を脱ぐ習慣があるのでこれぐらいでも良い(散らかったときに片付けはしている)。しかし、一旦掃除するとなると徴兵期間中に鍛えられたフィンランド人男性には、より高い完成度が求められるので手強い。中には一人掃除に没頭するマニアの男性もいる。

8.遠足のお弁当は、学校がサンドイッチとジュースを用意してくれる

軽食を持参する日もあったが、サンドイッチぐらいなので、私はお弁当作りのために早起きをしたことがない。キャラ弁も作れない。遠足のたびに、「日本のお母さん」をしていない自分に気がつくのだが、帰宅してから楽しそうにその日の出来事を話してくれる息子たちの顔を見ていると、まぁいいかと思う。

男性の家事育児への参加意識の高さ

夫と分担しながら実感した事だが、この楽な家事育児の背景には、男性の家事・参加意識が大きい。妻も夫の家事を当然のことと期待するし、そこに加えて実母までも「ちゃんと(妻の)手伝いをしているんでしょうねぇ」とチェックを入れてくるので、参加は不可欠だ。

男性は、いざ自分もやるとなったら「なんとかもっと簡単にすませることができないものか」と知恵を絞り、「そんなのめんどくさいやめてしまえ」と廃止案を打ち出すことも多い。

保育や家事に対する葛藤も

これまでにも多くのフィンランド人女性にインタビューもしてきたが、バリバリに働いてサッパリしているイメージの彼女達の心中は実は様々だ。実際は「まだ小さい時だけでも家に居てあげたら子供のためには良さそうだけど、自分が持たないから」と多少の差はあれ、家庭で保育が出来ないことに自責の念を持つ女性も多い。

料理に関しても「本当は平日でも、もっとちゃんとした料理を食べさせたい」と申し訳なさそうな人もいる。もう子供が成人してしまったお母さんで「子どもが難しい年齢の時に仕事を休んで家にいればよかった」と嘆く人もいて、伝統的な母親像とのギャップに少なからず葛藤がある人もいるようだ。

しかし彼女たちは、60~70年代に、仕事もしながら家事の手抜きを許されなかった自分たちの母親たちの世代の余裕の無さを見て育った。平日に手料理を作り、休日にも友人を呼んでおもてなししていた親世代のライフスタイルを批判的にみており、「あんなに料理に凝ったり、掃除ばかりしていたくはない」とふり返り、同じようにはできないことに罪悪感を持つ人もいる。

自分たちの母親では達成することができなかった自分達の仕事の業績やポジションも誇りに思っている。仕事も家事もこなし、きちんとした妻であり子供の母でもありたい。それらの願望を、彼女たちは「全てを手に入れることは不可能」という一言で、現実を乗り切っているようだ。全部の役割をこなすことは、責任ではなく「欲」なのだ。

里帰りすると怠け者極まりない気分になる

筆者は年に一度の里帰りで、母の手伝いをしながら、料理の盛り付けがへたくそで、桃が上手に剥けない自分と向き合う。さらに姉が早朝に起きだしてゴミ出しと洗濯と子供たちのお弁当の用意をいっぺんにこなしている姿を見ると、怠け者極まりない気分でいっぱいになる。

そんな時には、フィンランドではお店でサービスしてもらえないから自分で工夫するプレゼント包装や、ケーキは自分で焼くことや、子ども達の教科書のカバー張りなど、フィンランドに住んでいるからこそ身に付けた新しい特技を思い出して立ち直る。

日本の「食育」、その責任は母親の肩にのしかかっている

フィンランドと比べて、日本では「食育」も大事で、その責任は主に母親の肩にのしかかっていると感じる。

フィンランド人の親たちも、大まかな栄養学は頭に入れてはいるものの、無理せず出来合いをアレンジするなどして料理しているので「こんなに一生懸命作ったのに!」とキレることはない。「味わってみて」「もう一口だけ」と促すことはあるが、もし食べなくてもそう熱くはならない。

個人主義の国なので、食の好き嫌いも尊重されるからだ。これに関しては楽なのも良いけれど、やはり日本の子供たちの方が好き嫌いなくよく食べるし、試そうという前向きな姿勢もうかがえるので、考えさせられる。

食文化が豊かな日本では、夕飯のメニューを決める時やその調理方法について、子ども達の注文も多いように感じる。お母さん達はみんなの願いを叶えようと耳を傾け、調理していて偉いと思う。その一方できれいな食器が並ぶ食卓は、毎日でなくても良い、とも思う。食後に、夫が食器洗いをしてくれないと恨むなら、食洗器を買った方が家庭の平和のためだ。

しかし日本の場合、大きな食洗器を置くスペースがない。洗濯の回数を減らそうにも、クローゼットや引き出しには一人5セットの服が入る余地はない。フィンランドとは居住環境が異なるが、これがなんとかなれば楽になるのではないだろうか。

日本も、みんなが幸せで「楽なやり方」を

いまの日本のお母さんたち(もしくは同等の家事育児を担う人たち)を見ていると、もう十分にやってますよ、美味しいお料理を毎日作っていますよ。だからめんどくさいこと、時代に逆行している古い伝統はやめても良いんですよ——と、ついエールを送りたくなる。

日本在住の女性たちから夫の家事育児への貢献度を愚痴る声を聞くと、「夫よ、お前も私と同じ苦労をせよ」と迫って夫婦関係を悪くするぐらいなら「ねぇ、一緒に楽をしようよ」と提案する方が断然良いのに、と思う。

家庭の中だけじゃなく、地域や社会や学校でもみんなの無理無駄を積極的に見直して、知恵を出し合って——みんなにとってもっと幸せで「楽なやり方」を目指していただきたい。

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