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2018年04月19日 16時36分 JST | 更新 2018年04月21日 19時03分 JST

テレ朝社員のセクハラ告発。問題なのは取材手法ではなく、セクハラする側だ。

「身を守るために録音をしたことを責めることは酷です」

テレビ朝日本社(左)と、記者会見するテレビ朝日・篠塚浩報道局長
時事通信社,HuffPost Japan
テレビ朝日本社(左)と、記者会見するテレビ朝日・篠塚浩報道局長

女性社員が福田淳一財務事務次官から「セクハラ行為を受けていた」とテレビ朝日が4月19日未明、記者会見で明らかにした

同社の篠塚浩・報道局長は、「セクハラの情報があったにもかかわらず、適切な対応ができずに深く反省している」とする一方、週刊誌に音声データを渡したことについて「報道機関として不適切な行為だった」とした。

テレビ朝日のセクハラ被害公表に先立って、日本新聞労働組合連合(新聞労連)はこんな声明を出している。

今回の件を含め、記者が取材先からセクハラ被害を受けたと訴え出た場合、会社は記者の人権や働く環境を守るため、速やかに毅然とした対応を取るべきだ。「事を荒立てるな」「適当にうまくやれ」など記者に忍耐を強いる指示や黙認は、セクハラを容認しているのと同じであり、到底許されない。

セクハラ被害に遭った記者が上司の理解を得られず、第三者に音源を渡して解決を図ることは、本当に「不適切」と言い切れるのだろうか。

ハフポスト日本版は日本新聞労働組合連合(新聞労連)の小林基秀・中央執行委員長に話を聞いた。

 

■「身を守るための録音、責めるのは酷」

そもそも、記者が取材の際に音声を録音するにあたってはどんなルールがあるのか。

小林氏は、記者の取材について「特に1対1の取材は、互いの信頼関係により成り立っています」とした上で、「了解なしの録音は、その信頼関係を記者側が壊すことになります」と指摘する。

《発言の正確性を期すために、了解を得て録音をすることはよくあります。それはまさに、「オンレコ」での取材を了解してもらったことにほかなりません》

《一方、1対1の取材の場合は、「オフレコ」前提で、その記者限りの前提、つまり「ここだけの話」で話す内容も多いと思います。録音をするなら、取材を受けた側は、一言一句そのままに記事にされる可能性があるので、発言内容が控えめになることもあり得ます》

《背景説明として、オフレコ前提で話した部分も録音では収録されるわけですから、発言する方は慎重になります》

取材される側にとって、気づかないうちに録音されることは大きなリスクになる。

《故意だけでなく過失により、録音が第三者に漏れる恐れもあります。録音の有無により話す内容が変わるのに、黙って録音することは、ルール破りそのものです》

ただし、今回のような場合、話は別だ。小林氏も「今回は財務省の官僚トップという強大な権力を持った人物からのセクシャルハラスメント被害を受けたとされる特殊な状況下です」と指摘する。

《もし、口頭で被害を財務省に訴えたとしても、相手側から「名誉棄損だ」「証拠を出せ」と言われかねない状況です。身を守るために録音をしたことを責めるのは酷です》

週刊新潮がセクハラ発言疑惑を報道した直後、福田氏は事実を否定し、麻生財務相も調査はしない考えを示した。しかし、週刊新潮は音声データを公開。事態は大きく進展した。

小林氏は、こう語る。

《音声データの公表がなければ、財務省が動かなかったことは明白です。音声データが出た後も、財務省は「被害者は名乗り出よ」という、セクハラ被害者の保護という国際的な常識に反する対応をしています》

《被害に遭われた女性社員は、財務省担当を1年以上されていたようなので、こうした財務省の体質を感じていて、自分を守るため、また権力者による人権侵害を告発するために、他の手法がないとして、やむにやまれず録音をしたのではないかと推察します》

■「やむにやまれず取った行動」

テレビ朝日側が発表したように、記者がセクハラ被害を録音したものを第三者に提供することは「不適切」と言えるのか。

まず、取材音声を第三者に渡すことについて、小林氏は「一般論では妥当ではありません」という。その理由はこうだ。

《取材源の秘匿にもとるからです。その記者から取材を受けたことを他者に知られたくないケースもあるでしょうし、そこで何を話したかを他者に知られたくないケースもあるでしょう》

《取材を受けた人が、その記者限りの前提で話した内容もあるかもしれません。それを破った結果、最悪の事態になったのが、オウム真理教による坂本弁護士一家殺人事件です》

一方で、小林氏はセクハラ被害に遭ったと告発した女性社員の行動について「彼女に残されていた選択肢はこれしかなかった、やむにやまれず取った行動だと考えます」と理解を示した。

その上で、テレビ朝日の一連の対応の問題点をこう指摘する。

《女性社員が会社の上司にセクハラ被害を訴えた際に、会社が財務省に抗議していれば、彼女が第三者に録音を提供する必要もなかったのではないでしょうか》

《彼女の行動を批判することは、結果的にセクハラ被害を訴えにくくすると思います》

■「報道は難しい」? テレ朝の説明に疑問

テレビ朝日は、セクハラ被害を受けたと告発した社員の上司が「放送すると本人が特定され、2次被害が心配されることから報道は難しい」と対応した。この対応に問題はなかったかのだろうか。

これについても小林氏は「それぞれの案件を報道するかしないかは、各報道機関が自主的に判断すること」とした上で、「報道しない場合でも、なぜその時点で会社は財務省に抗議しなかったのか」と疑問を呈した。

《その時点で会社が彼女を守るための毅然たるアクションを取っていれば、前述のように、彼女が第三者に録音を提供する必要はなかったかもしれません》

《昨年、地元町長から女性記者が性的な被害に遭った件で、岩手日報社は町長に抗議し、記者を守る姿勢を示しました。同社の対応に私は敬意を表します。私たち自身も今年1月の特別決議の中で触れています》

■「セクハラを受け流す記者が優秀」 残る古い認識

新聞労連は18日の声明の中で「多くの女性記者は、取材先と自社との関係悪化を恐れ、セクハラ発言を受け流したり、腰や肩に回された手を黙って本人の膝に戻したりすることを余儀なくされてきた」と指摘している。

メディア側も記者個人に、旧来の取材手法を強いたり、黙認している面はないのだろうか。

「この点は私たちも猛省しなければならない」とした上で、こう指摘する。

《「セクハラ発言をさらっと受け流して情報を取ってくる記者が優秀な記者」という考えは、多かれ少なかれ、新聞社内に残っていたと思います。その考えに「セクハラは人権侵害」という認識は欠如しています》

《誤った認識は今すぐ改めなければいけない時であり、女性社員に失望される会社は、ただでさえ新聞業界をめぐる環境が厳しくなる中で、生き残れないと思います》

一方で、1対1で職場外で面会したり、食事を伴う取材は、記者の取材手法の1つとして何ら特別なものではないという。

《例えば、省内の不正を知った官僚が、公僕としての良心として記者に情報提供することはあるでしょうし、それは「国民の知る権利」に応えるものです》

《その場合、取材相手を守るためにも、役所外で1対1で会うことは必要です。さらに、取材先が記者を信用すればこそ、自らのリスクを取って情報提供をしようと思うのでしょうから、信頼関係の構築は不可欠です。その過程で、一対一でじっくり話すことは必要ですし、飲食を伴うことも否定されるものではないと考えます》

■そもそもは、立場を利用したセクハラが問題

小林氏は「問題があるのは、セクハラに及ぶ側だ」と改めて指摘していた。

《私も後輩記者に、「取材の基本はサシ(1対1)だ。サシで会う努力をしなさい」とアドバイスしてきました。サシだからこそ、本音を聞き出せることも多く、それにより深みのある記事を書くことや、スクープを取ることも可能になります》

《1対1の取材の方が、複数での取材よりセクハラ被害に遭いやすいのは事実でしょうが、それにより「女性記者を配属するな」となったら本末転倒です。あくまで問題は、力関係において、有利な立場にあることを利用してセクハラに及ぶ側です》