ビジネスパーソンこそ「児童書」を読むべきです。

「大切なことは、すべて児童書が教えてくれた」
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はじめまして。

僕は「新書」というジャンルの書籍の編集をしています。新書とは、大体名刺3枚分くらいの大きさで、ページ数は200ページから300ページくらい。著者の方には、時事テーマや専門的な内容を、できるだけわかりやすく解説していただきます。

このブログでは、担当した本への個人的な思い、普段はなかなか書く機会のない編集後記のようなものが中心になると思います。これからよろしくお願いいたします。

先月はライフネット生命保険の創業者の出口治明さんの『教養は児童書で学べ』という本を担当しました。ライフネット生命は、日本生命出身の出口さんが2008年に開業したベンチャー企業。「インターネットで生命保険を扱う」という画期的な事業をはじめ、割安で分かりやすい保険料を売りに業績を伸ばしてきました。

経営者としてだけではなく、稀代の読書家としても著名な出口さん。本書では、

「大切なことは、すべて児童書が教えてくれた」

をテーマに、『はらぺこあおむし』『モモ』『エルマーのぼうけん』といった誰もが知っている10冊の児童書の名作を読み解いていただきました。

出口さんには、3本企画を持ってご相談に伺ったのですが、「これ、いいじゃないですか」と選んでいただいたのがこの企画です。

インタビューや書評で活躍されているライター・今泉愛子さんと一緒に、毎月2冊のテキストを事前に読み込んで、ライフネット生命の会長室(当時)でじっくりと「講義」していただきました。

扱う児童書はすべて出口さんの厳しいセレクトで、紹介した本は70冊にのぼります。

編集者という仕事をやってはいるものの、恥ずかしながら僕は読解力に乏しく、審美眼もありません。なので、出口さんの解説は目からウロコの連続でした。

二児の父親でもある僕にとって「児童書」とは、大人がじっくり読むものではなく、あくまで子どもに向けて声に出して読み聞かせるものでした。

妻が家事をしている間、子どもたちの寝かしつけを担当することが多く、その時は一冊か二冊の絵本が欠かせません。

(たまには、YouTubeにそのお仕事をお願いすることもありますが......)

ただ、この本を担当するまで、あくまで児童書(絵本)は、子どもの寝かしつけのツールであったように思います。

出口さんの絵本へのアプローチは、僕とまったく異なるものでした。

絵の構成や色使い、物語の構造、本が書かれるに至る歴史的背景、著者のバックボーン......一冊の絵本から、こんなに感じ、考えることがあるのかと驚かされるほどに深く読み込まれます。そして、縦横無尽に思索が展開していく。

まさに本を「堪能」する、「味わい尽くす」といった感じです。

これは僕にとっていちばんの驚きでした。そして、この本の楽しみ方、本との向かい合い方は、『教養は児童書で学べ』の骨格にもなっています。

この『教養は児童書で学べ』を校了(文章すべてのチェックを終えた段階)した後、子どもの寝かしつけで一冊の絵本を読みました。

その絵本は、『でんしゃにのったよ』(岡本雄司・作、福音館書店)という作品。私が書店さんで一目惚れして買ってきたものです。

ある男の子が、お母さんと一緒に東京の従兄弟の家に遊びに行く。ローカル線から乗り換えて、新幹線に乗って――という内容で、電車に乗るときのワクワク感がすべて詰まっている一冊です。

出口さんの「講義」のおかげで、絵のすみずみまで目が届き、いつもと違った読み方、そして読み聞かせ方ができました。

つい先日、子どもと一緒に東京駅から新横浜駅まで、新幹線のショートトリップに行ってきました。短い時間ですが、新幹線に乗るまで、そして乗ってからも僕は『でんしゃにのったよ』のことを思い出していました。

子どもは新幹線に夢中でしたが、同じように絵本のことを思い出してくれていた......はずです。

ビジネス書や自己啓発書をせわしなく速読するのもいいけれど、たまにはじっくり本と向き合い、楽しんでみてほしい。

そんな思いで担当した一冊です。書店さんなどでお見かけの際は、是非お手に取っていただけるとうれしいです。

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樋口健