経営リスクとしての「ソーシャル・ジャスティス」。3つの“落とし穴”とは

【経営のスペシャリストが解説する Social Justice③】経営戦略としてのソーシャル・ジャスティス、“守り”に失敗した事例から学べることとは?
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erhui1979 via Getty Images

本稿では、今まさに取り組みを始めておかねばならない「守り」としての視点からSocial Justiceを見ていく。

「ビジネスとSocial Justice」を取り巻く潮流として、大きく3点取り上げたい。

 

①企業に求められるESG指標の情報開示

第一に、近年の資本市場からの要求の高まりが挙げられる。

世界経済フォーラム(WEF)に目を向けると、2017年に国際ビジネス協議会(IBC)でSDGsへのコミットメントを公約し、ステークホルダー資本主義に関する議論を重ねた後、2020年9月に「ステークホルダー資本主義の測定(Measuring Stakeholder Capitalism)」と題した報告書を公表した。

下の図は、ESG情報の開示基準を示したもの。「ガバナンス」「地球」「人間」「繁栄」の4分野について、非財務情報を含む21のコア指標と34の拡張指標が定められ、61社が賛同した。日本からは三井住友トラストHDなどが本指標に基づいた開示を行っている。

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世界経済フォーラムが発表したステークホルダー資本主義指標
経済産業省資料より

特に、本テーマであるSocial Justiceに関連する指標を見てみると、日本企業にとっては先進的な内容が多く盛り込まれている。

「コア指標」では、性別ごとの従業員の割合などに加え、児童労働や強制労働の発生リスクを挙げている。「拡張指標」では、ジェンダーや人種における賃金格差の実態、従業員に対して「将来必要となるスキル」をトレーニングできているか、など多岐にわたる項目についての情報開示が求められている。

今後、日本企業でもこのような開示が増えてくると、横並びで比較され、対応を求められることが想定される。

 

②「SDGsウォッシュ」への厳しい視線

次に、「SDGs Washing(SDGsウォッシュ)」についても取り上げたい。

実態が伴わない、企業のSDGsに対する上辺だけの取り組みを「SDGsウォッシュ」といい、NGOや消費者、評価機関、政府などの目は厳しくなることが予想される。

背後には、SDGsに取り組んでいる、という事実だけでも一定の評価を獲得し得た「SDGs黎明期」の終焉がある。

一例を挙げると、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」のビジネスモデルの基準づくり。中でも、強い影響力を有するフィンランドの半官半民ファンドの「Sitra」が発表した基準では、単に循環型社会の実現ではなく、雇用など「社会インパクト」をどの程度定量的に測れているかも審査対象となっている。

COVID-19によるパンデミックによって、人権やSocial Justiceに関連する課題が深刻化したことも見逃せない。その際、大きく下記の5分類で整理されるSDGsウォッシュに留意することが必要となる。

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SDGs Washingの類型
モニターデロイト提供

③「守り」に失敗すると、大きな経営リスク

最後に、「守り」に失敗するとどうなるのか。下記の事例をみて頂きたい。

 

・Black Lives Matterの流れを受けて、大手グローバル企業が「美白製品」の取り下げを決定。また、権威のある大手ファッション雑誌は、黒人文化にインスパイアされた過去多数の白人によるクリエイティブが“文化の盗用”だとして大バッシングを受け、広告モデル/ショーモデルの人種比率についても異議を唱える声が多発した。

・宿泊施設マッチングサービスにおいて、パレスチナにおけるイスラエルの違法入植地の宿泊施設を掲載していたとして、イギリスで約2万人がアカウントを非アクティブにするとのボイコット運動が起こった。

・視覚障害者用のスクリーンリーダー(画面読み上げ)ソフトウェアを使用してもWebサイトやクーポン等を読み取ることができず、商品を注文することができなかったとして、視覚障がい者から訴訟が起こされて、企業側が敗訴した。

・ユーザー間の交流が発生するプラットフォーマーは、ヘイトスピーチ対策が不十分だとして、米国での市民団体の呼びかけが発端となり、主要広告主を含む400社以上が広告を停止したケースがある。

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Malte Mueller via Getty Images

「そんなことまで問われるのか」というのが、率直な意見かもしれない。

だが、「従業員」「顧客」「取引先」「コミュニティ」などのステークホルダーから見てもSocial Justiceが実現されていなければ、経営上の大きなリスクを抱えることになる。今後は、より厳しい「守り」が求められるのだ。

【文・加藤彰、田中遥 編集・中村かさね

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2022年、ビジネスの新潮流となりつつある「Social Justice(ソーシャル・ジャスティス)」。

資本主義が一つの転換点に立つ中で、存在感を増してきた「Social Justice」について、デロイト トーマツ グループ モニター デロイトの執筆陣による全5回の連載で紐解いていきます。

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第3回 経営リスクとしての「ソーシャル・ジャスティス」。3つの“落とし穴”とは

第4回 3つの事例でみる。DXにおける「ソーシャル・ジャスティス」はビジネスチャンスだ

第5回 “戦わない”ブランドは選ばれなくなる。「ソーシャル・ジャスティス」のその先へ……

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デロイト トーマツ グループ モニター デロイト