読書は、人生の「答え合わせ」。ホストクラブ経営者が、部下に読書を勧める理由

ホストは競争がすべての仕事。でもそれだけでいいのか?
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手塚マキさん
ハフポスト日本版編集部

「村上春樹さんの『ノルウェイの森』の主人公・ワタナベは、ホストになったら良いホストになると思いますよ」 

名著を独自の視点で読み解くのは、カリスマホストであり歌舞伎町を代表する経営者・手塚マキさんだ。ホストクラブを経営するほか、バー、寿司店、美容サロン、デイサービス(通所介護)など数十件を運営するグループの会長を務める。

自身も読書好きであり、ホストたちこそもっと読書をしてほしいと、歌舞伎町に書店をオープン。今、歌舞伎町のホストたちに“読書” を広げようとしている。

ハフポスト日本版のネット番組「ハフトーク(NewsX)」に出演した手塚さん。なぜ今、ホストに読書を薦めるのか?読書術を通して見える独自の“仕事観”について語ってもらった。

本は内省するための最高のツール

「もともとすごく読書家だったというわけではなく、文学に詳しいわけでもありません」と語る手塚さんは、大人になってから改めて読書をする中で、読書の魅力をより感じるようになったという。

《ある時から、読書ってそれまでの自分の人生の“答え合わせ”をする感じだなと思うようになったんです。本と自分の人生を重ね合わせて、あの時の自分の行動は正解だったなとか、やっぱりあれは良くなかったから反省しようとか。読書は、自分の人生を内省するのに最高のツールだなと思うようになりました。》

読書を内省するためのツールと捉える手塚さんは、読む時の年齢や、自分がそれまでどう生きてきたかによって、「もっと自由な、人それぞれの“読書術”があって良いんじゃないか」という。

ホストとして長らく女性相手に接客してきた手塚さんも、自分なりの読書術を持っている。例えば、村上春樹著書の『ノルウェーの森』。主人公のワタナベが、大学時代に関わりのあった女性たちとの関係を中心に、青春時代を回想する恋愛物語だ。

手塚さんは、ワタナベの生き方こそ「これからを生きる男のお手本」だと読み解く。

《主人公のワタナベは、ガンガン攻めるタイプではなく受け身の男です。ワタナベの周りには複数の女性が登場しますが、彼は決して自分本位にアプローチするのではなく、女性ひとりにひとりに合ったタイミングでそっと寄り添う。つまり、自分の時間軸だけで考えるのではなくて、相手の時間軸を考えて行動しています。ホストも同じです。自分の時間軸で女性をコントロールするのではなくて、相手の時間軸を見計らいながら気に入ってもらえるように行動する。主人公のワタナベは、きっと良いホストになりますよ(笑)》

ワタナベの生き方は、ホストだけでなく「これからの時代に相応しい男性の態度なのではないか」と手塚さんは言う。

《一昔前の男性が女性をコントロールするような生き方ではなく、女性の中にきちんと主体性を認めて、女性を尊重するような生き方で、素晴らしいですよね。》

手塚さんは、ホストとは関係のない本であっても、主人公と自分の人生や仕事、社会への問題意識を重ね、深く考え、様々な物事に転用して考える。この物事を深く考える時間は、今の時代にこそ必要な時間だと語る。

《インターネットが普及し、情報が溢れかえる中では、物事を深く考える時間はすごく少なくなってきていると感じています。SNSやテレビを見ていたら、1時間はなんとなく過ぎてしまいます。同じ1時間、集中して読書をすると、その1時間は物事を深く考える時間になります。外からの情報を遮断して集中できるのは読書の良さであり、自分の中で物事を深く考えるには、やっぱり読書がベストだと思います。》 

軽薄な人間になるな。

手塚さんは、部下であるホストたちにこそ、こうして読書を通じて物事を深く考える時間を持ってほしいと語る。

《ホストって刹那的な生き物で、俗世からちょっと離れているのがいいところでもあるんですよね。お客さんは、そこに来て軽薄な話をすることで息抜きをして、普段の生活に戻っていく。ホストクラブは、いわば息抜きの場所です。でも、そこを“日常”とする人たちはーーつまり僕の部下であるホストたちはーー、何も考えずに軽薄な時間だけを過ごしていると、軽薄な大人になってしまうと感じています。そうならないためには、じっくりと物事を深く考える時間が必要です。だからこそ、ホストには読書をしてほしいんです。》

また、読書を通じて、色々な生き方があることも知ってほしいという。

《ホストは常に競争して生きています。だからもしも、競争だけが全てではない社会に出た時に、「競争しなくていいよ」と言われても、どうやって生きたらいいのかわからない。ホストでいる以上、競争するなというのは現実的ではないですが、読書を通じて様々な生き方を提示することで、「競争をして生きていくことだけが、全てなのか?」という疑問だけは、投げ続けていきたいと思っています。》

それでも、後輩や部下たちはなかなか読書をしないという。そこで手塚さんが思い付いたのが、ホストたちが集まって短歌を詠む「歌会(うたかい)」の開催だ。短歌の講師を招き、ホストたちに短歌を詠んでもらった後、講師の先生からアドバイスをもらう。

《本は読まなくても、短歌だったら詠んでくれるかなと思ったのがきっかけです。ホストは普段から言葉を扱っていて、お客さんとも短文のメッセージでやりとりをしているので、短歌を詠ませたら上手だろうなと。実際に詠ませてみたら、やっぱり上手でしたね(笑)。日頃からホストとして、目の前のお客さんの機微を見ているからか、一瞬を切り取る力があるんだなと思いました。まずは短歌でも良いので、じっくりと考える時間を持ってくれたら嬉しいですね。》

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手塚マキさん
ハフポスト日本版編集部

自分のスキルは特別だよ、と部下に伝えたい。

手塚さんがこうしてホストたちに読書や短歌作りを促すのは、「世間からのホストに対するイメージアップにもつながりそうですね」と問いかけると、「世間からの評価がモチベーションになることはあまりないんです」」と言う。

《基本的に何かやる時は、世間がどうというよりも、仲間なんですよね。仲間に褒められたいとか、仲間と一緒にもっと楽しく過ごしていくにはどうしたらいいかを、いつも考えています。若い頃は、自分の手の届かないところにまで影響力を持ちたいと思った時もありますが、自分は何のために生きているのかと考えた時に、身近にいる友達や仲間、後輩、部下のためになることをしたいと思いました。それがつまり、自分のためなんですよね。みんな「社会」とか「世間」とか壮大に考えすぎずに、自分の手の届く範囲の人のことを考える方が全体がうまくいくと思いますけどね。》 

後輩や部下のため。それは、手塚さんが寿司店や介護事業など、ホスト以外の業種を手掛ける目的でもある。ホストのセカンドキャリアについても考えているという手塚さん。一度でも「仲間」になった後輩たちの人生を豊かにする手助けをしたいのだという。

《ホストって自分はホストしか出来ないと思っている人も結構いるんですよね。でも、ホストとしてのトークのスキルや、お客さんひとりひとりに合ったサービスを提供するというスキルは、他の業種でも必ず活かせます。いきなり他の業種をやるとなると難しいですが、ホストの延長として、少しづつで良いので他の業種を副業的にやっていってほしい。実際に現場に出て働いてみることで、ホストのスキルは他の業種にも応用できる素晴らしいスキルなんだってことを実感してほしいんです。》

そんな手塚さんは、自身の読書術で13の名著を読み解く「裏・読書」を2019年4月に刊行。「良い本って誰が決めたの?」というキャッチコピーのもと、夏目漱石『こころ』は「男のマウンティングに巻き込まれるな」と読み解き、太宰治の『走れメロス』は「メロスになれない僕らの待つ力」と読み解くなど、意外な視点で斬っていく。

人それぞれの読書術で、人生を内省し、物事を深く考える時間を持つ。これは、ホストに限らず、多くの人にとっても必要な時間だろう。自分だけの読書術を見つけてみるのも面白いかもしれない。

 【文:湯浅裕子 @hirokoyuasa/ 編集:南 麻理江 @scmariesc

 手塚マキさんが名著を独自の見方で読み解いた新刊『裏・読書』420日、「ハフポストブックス」から刊行されました。全国の書店、ネット書店で販売されています。

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