裁判員制度「市民からの提言2018」<提言⑪>守秘義務を緩和すること

裁判員制度の守秘義務は、裁判員の自由な討論を保障することと事件関係者のプライバシーを保護するために設けられています。

裁判員制度は5月21日でスタートから丸9年となり、制度開始10年目を迎えます。裁判員ネットでは、これまでに345人の市民モニターとともに650件の裁判員裁判モニタリングや裁判員経験者へのヒアリングも実施し、裁判員裁判の現場の声を集める活動を行ってきました。この「市民からの提言」は、裁判員制度の現場を見た市民からの提案です。裁判制度の現状と課題を整理し、具体的に変えるべきと考える点をまとめました。

今回は提言⑪を紹介します。

<提言⑪>

守秘義務を緩和すること

1 現状と課題

⑴ 現在の守秘義務の範囲

裁判員制度の守秘義務は、裁判員の自由な討論を保障することと事件関係者のプライバシーを保護するために設けられています。

公開の法廷で行われたこと、裁判員として参加した感想などを述べることは守秘義務の範囲外です。しかし、評議の内容は守秘義務の対象となります。そのため評議の「感想」を述べることはできても、それを具体的に説明すると守秘義務違反になる危険があります。

現在は、評議の際に多数決であったか全員一致であったかや多数決の数、どのような順序で評議したかなどは守秘義務の対象となります。また、意見を述べた人が特定されない場合でも、どのような意見が出たかを言うことは守秘義務違反になります。評議の内容は、守秘義務によっていわば「ブラックボックス」になっているといえます。裁判員が自由に意見を言えたか、裁判官の誘導がなかったかなどの評議のあり方についても、守秘義務によって検証することはできません。

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⑵ 守秘義務を緩和する必要性

裁判員の経験の核心部分でもある評議に関して広範な守秘義務が課されていることは、裁判員の経験を市民の間で共有することを妨げる壁になっています。

また、評議に関して広範な守秘義務が課され、それが生涯続くことは裁判員経験者の負担になるとも考えられます。

最高裁判所による「裁判員制度の運用に関する意識調査」(平成30年1月調査)では、裁判員制度への参加意識を高めるために必要な情報として、「裁判員として実際に裁判に参加された方の具体的な経験談」(40.0%)が挙げられています。裁判員候補者の辞退率、欠席率が上昇傾向にある中で、守秘義務を緩和することが、制度への参加意識を高めるきっかけになることも期待されます。

裁判員の自由な討論を保障し、事件関係者のプライバシーを保護しながらも守秘義務の範囲を緩和することが必要です。

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⑶ 守秘義務緩和を求める意見

日本弁護士連合会は、守秘義務罰則規定を大幅に緩和する立法提言を2011年6月16日に公表しました。

また、司法制度改革推進本部の検討会委員として裁判員制度の導入に関わった四宮啓弁護士は、裁判員候補者の欠席率の上昇と経験者が語れずにいる実情を改めるために、守秘義務の運用を、原則禁止・例外事由から、原則自由・例外禁止に変えることを提案しています。

更には、新聞各社も社説などで、守秘義務の緩和を求める論説を出しています 。

⑷ 衆議院法務委員会における付帯決議

2015年5月15日に行われた衆議院法務委員会では、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律附則に基づく3年経過後の検討に当たっては、裁判員等の守秘義務の在り方等について、引き続き裁判員制度の運用を注視し、十分な検討を行うこととする付帯決議がなされています。

同法律が施行されたのは2015年12月12日ですので、本年は施行後3年を迎える年になります。守秘義務のあり方について、十分な議論、検討がなされることが望まれます。

2 裁判員経験者の声(裁判員経験者意見交換会議事録より)

話すと自分の身も軽くなるところが、自分一人で抱え込んで事件の内容も一人で考えなければいけない、仕事をしているような普段から守秘義務を守る生活をしているのと違い、私は普段、何でも話すような生活をしているので、しゃべっちゃいけないという負担はありました(東京地方裁判所平成24年3月12日)。

評議の秘密は確かに分かるんですけども、例えば全会一致であったとか、あるいは少しもめたということも言ってはいけないと伺ったので、そこも、誰がこういう意見だったというのはもちろん言ってはいけないと思うんですけども、そのくらいはちょっと言えてもいいんじゃないかなというのはちょっと感じました(東京地方裁判所平成24年4月18日)。

例えば、何対何で裁判員が判決前に裁判官が1人でなったんだよとか、2人でなったんだよとか、そういうある程度言える余裕、自由に言える部分はつくって欲しいなと思います(東京地方裁判所立川支部平成25年7月11日)。

やってよかったよというのを共有するという意味では、その秘密を守るというのがちょっと足かせのマイナスの部分がある。何かうまく伝えたいんだけども、ちょっと抽象的になってしまって、各論ではしゃべれないというのが少し心に残っているというところでございます(東京地方裁判所平成28年10月27日)。

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私は会社で裁判員の経験談を発表する場があったんですけど、評議の秘密というか、裁判員裁判で評議が一番大事なところなので、そこが評議の秘密ということで自分の経験をほとんど話せないのが辛いなと感じました。少なくとも自分が評議で言ったことは認めてほしい、もし死刑判決になった時、自分は死刑に反対したんだと言えないのが辛いです(札幌地方裁判所平成24年4月27日)。

評議の議論の流れを、誰が言ったという部分は伏せて、こういう議論があってこのような判決に至ったということくらいは、経験として本当は話した方が、これから裁判員をやる人の参考になっていいのではないかと思います(札幌地方裁判所平成24年4月27日)。

なるべく守秘義務というものをぎりぎりのところまで縮めて、みんなが逆に新しく裁判員になる機会を得た人がいたら、そういうものを伝えていけるようなものが少しでもあればなと感じるので、守秘義務でがちがちにしてしまうと、それが達成できなくなると残念だなと思います(横浜地方裁判所平成29年2月23日)。

守秘義務の意味とか、その大切さというのはわかるんですけども、やはりそれをしゃべらないことというのは非常にフラストレーションになるという部分もあって、最もしゃべってはいけないということが最も一番人に聞いてほしい部分でもあるわけで、その例えば評議の中の意見だとか、どういう決め方をしたのという話を人を特定しないような形ではある程度もう少し出していけるような制度にしてもいいんじゃないのかなとは思います(さいたま地方裁判所平成24年10月4日)。

確かに、公判の中で公にされたことについては、意見とか感想を述べられるけれども、評議の中で起きたことは、一切、守秘義務ということで、表に出すことができないという。でも、本当に知りたいのは、やっぱり評議の中で、どんなことが起きたかっていうことだと思うんですよ。ですから、誰がどんなことを言ったかというのは、やっぱりマスキングする必要があるにしても、多少は、そういったところも公にしていくことが、裁判員裁判の制度を今後、より定着させたり、肯定的な見方を持つ人が増えていくきっかけになるんじゃないかなと、そういうふうに思います(千葉地方裁判所平成27年1月15日)。

3 具体的な提案

発言者を特定して意見の内容を漏らすことがあると自由な意見が述べにくくなるおそれがあります。また、事件関係者のプライバシーに関する事項や裁判員の名前など職務上知り得た秘密は、プライバシー保護の観点から守秘義務の対象にすべきです。

しかし、評議の経過や発言者を特定しない形での意見の内容、評議の際の多数決の数は、守秘義務の対象から外すべきだと考えます。なお、全員一致の場合には、全員の意見が特定されることになりますが判決の内容と同じですから、全員一致であったことを殊更に秘匿する必要はないものと考えます。

現在の「評議の秘密」の範囲を限定して、発言者を特定して意見の内容を漏らす場合だけを守秘義務の対象とすることを提案します。

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裁判員制度「市民からの提言2018」

1.市民の司法リテラシーの向上に関する提言

<提言①>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を理解できるような法教育を行うこと

<提言②>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと

2.裁判所の情報提供に関する提言

<提言③>裁判員裁判及びその控訴審・上告審の実施日程を各地方裁判所の窓口及びインターネットで公表すること

<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと

3.裁判員候補者に関する提言

<提言⑤>裁判員候補者であることの公表禁止を見直すこと

<提言⑥>裁判員候補者名簿掲載通知・呼出状の中に、裁判を傍聴できる旨を案内し、問い合わせ窓口を各地方裁判所に用意すること

<提言⑦>裁判員候補者のうち希望する人に「裁判員事前ガイダンス」を実施すること

<提言⑧>思想良心による辞退事由を明記して代替義務を設けること

4.裁判員・裁判員経験者に関する提言

<提言⑨>予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること

<提言⑩>裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること

<提言⑪>守秘義務を緩和すること

5.裁判員制度をより公正なものにするための提言

<提言⑫>裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること

<提言⑬>裁判員裁判の控訴審にも市民参加する「控訴審裁判員」の仕組みを導入すること

<提言⑭>市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置し、制度見直しを3年毎に行うこと