武田双雲さんは“産みの苦しみ“を感じない。「今、この瞬間」を幸せに生きるススメ

「大事にしたいのは、目の前の対象といかに丁寧に向き合うか」。経営者にも賞賛される、書道家の武田双雲さんが実践する「マインドセット」の方法とは?
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武田双雲さん
KAORI NISHIDA

「ビジネスパーソンにはアートの感覚が必要だ」
「経営者は美意識を磨かなくてはならない」

最近、こうした言葉をよく聞くようになった。

言うは易しだが、論理的なビジネス感覚と、感情を揺さぶるアート感覚を両方養うのは難しそう…。一体どうやって?

この問いに、両者は「対立するものではない」と語るのは、書道家として多数の作品を生み出し、国内外で高く評価される武田双雲さんだ。

『ポジティブの教科書』『波に乗る力』など、マインドセットに関する著作には、経営者のファンも多い。

最近では、書にとどまらないアート活動も精力的に行う武田さんに、マザーハウスの代表取締役副社長・山崎大祐さんが9月上旬にインタビューした。2人の対話は、思わぬ“共通点“から始まった。

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武田双雲さん(左)、山崎大祐さん(右)
KAORI NISHIDA

――今日は藤沢にある武田さんの書道教室におじゃましました。すごく気持ちのいい空間ですね。ただここにいるだけで、不思議とエネルギーが満ちてくるような。

そう言っていただけると嬉しいです。あちこちに立てかけてあるのは、最近夢中で描いているアート作品です。2年ほど前から墨だけでなく世界中で出会った素晴らしい画材を使って表現を始めたら、とても面白くて。雨粒やコーヒー、お茶まで、なんでもキャンバスにぶっかけては「ワオ!」と感動して、また新しい作品ができていく。

僕はただ自分の心が共鳴するままに表現を広げているだけなのですが、アートを分かる方々がなぜか次々に買ってくださって。そのことに僕がまた刺激を受けて作品を生む。僕の内側から湧くエネルギー波動と世の中の経済活動が循環し、永遠に持続可能な生産活動になっていて…。だから産みの苦しみとか感じたことなくって、超〜幸せなんですよ。あ、いきなり、ぶっ飛ばしてしまってすみません(笑)。

――いえ、アートと資本経済の関係については僕もすごく興味がありますし、“ものを生み出す人”の気迫にはいつも圧倒されるのでワクワクしています。

でも、「産みの苦しみは感じない」という言葉が、実はちょっと意外でした。というのは、作品を拝見すると、「苦しみや痛みに共感できる人でなければ生まれないクリエーション」もたくさんあるのではと感じていたんです。

もちろん、人間ですからつらい経験もあります。でも、そのつらい体験も含めて全部吸収して、自分の中でまあるくエネルギーを回して表現に変換していくんです。安定するためには、不安定の状態を知らなければならないとも思いますし。

イメージで言うと、常に自分の心の状態を観察して、チューニングしている感覚でしょうか。自分の中に優れた調律師を育てて、僕自身はただ波を感じ、筆を動かしているだけなんです。

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KAORI NISHIDA

――面白いですね。そういった感覚は、「書」を通じて獲得したものなのですか?

それもあります。書って、筆1本の一発勝負なんです。書き始めたら後戻りもできないので、常にいい緊張状態を保つ訓練をしないといけない。それも一朝一夕には得られないので、普段の生活から意識を変える必要がある。書の世界に入ったことが、「ポジティブ」「機嫌よく」といったマインドセット習慣のきっかけにはなったと思います。

――理系出身で大手企業に3年勤めてから転身されたそうですね。過去には迷いの時期もあったのでしょうか?

今でも迷いだらけですよ。不安だし、批判が怖いし、贅沢したいし、モテたいし(笑)。フツーの人間です。ただ、僕はそういった自分自身の心の動きへの興味が、人一倍強かったんですね。

一方で、もともと物理学が専門で、量子力学や宇宙の話が大好きで、「この青は、どういう振動数で青く見えているのか?」とか一日中考えられるタイプでもある。

ある時、その2つの興味が重なり合ってきたんです。「どうも急いでいる時ほど、邪魔者が現れるな」「気持ちにゆとりがあるほうが、ラッキーなことが起こる気がする」といった気づきがいくつもあり、そこから僕の興味が爆発。

どんどんエスカレートしていって、最近は宇宙研究の専門家とのディープなLINEのやりとりが楽しくて 仕方ありません(笑)。

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山崎大祐さん
KAORI NISHIDA

――そうなんですか。僕も大学受験で物理学科を受けていたくらいの宇宙好きなんです。実際、経営を突き詰めると、宇宙科学や脳科学に行きついていく気がしますし。

うわぁ、仲間だ(笑)! そうそう、ビジネス活動って人間が作り出したものだから、自然界の研究と一致する部分がかなり大きいはずなんですよね。例えば、「情報はどこまで分解できるのだろうか」とか、分子や原子の研究と同じ問いの立て方がビジネスにもできる。

僕の研究は、毎日24時間実践です。朝起きて歯磨きをする時にも、雑に歯磨きするのと、丁寧に心を込めて歯磨きするのでは、その後の1日に起きる出来事がまるっきり変わるんです。

これ、千利休がやっていたことと同じで、要は“目の前にある宇宙”に気づくこと。一杯のお茶を飲む前に、茶碗をいちいち3回半回して鑑賞して…と、その瞬間を愛するんです。

心の振動数を少しだけ変えると、現実も少しだけ変わる。その0.01ほどの変化が二次曲線的にカーブを描いて、未来を大きく変わっていく。

実際、僕が機嫌よく歯を磨き、機嫌よく着替えて、機嫌よく挨拶していくだけで、周りがどんどん変わっていって、ラッキーなことしか起こらなくなるんです。「武田さんってなんでそんなに運がいいんですか?」とよく聞かれます(笑)。

――めちゃくちゃ面白いな…。ちなみに、アナログとデジタルでは、どちらに親しみを感じますか。書の世界はかなりアナログのようで、武田さんはSNSでの発信も積極的になさっている印象があるので聞きたくなりました。

アナログとデジタルを、あまり区別していないですね。書道の成り立ちって、文字という情報を扱うアートなんですね。地球上で人間しかできない抽象化アートで、超ロック。人間って本当にすごいですよね。生茂る木々という自然を観て、「森」という象形を描くなんて。

人は文字を手に入れた時点で思考の抽象度が上がって、自然や神の存在を認識できるようになった。そして、「収穫を祈り、感謝するほうが、実りがある」と感じ取っていき、感謝祭をするようになったのではないか。世界の各地で収穫祭や感謝祭の慣習が残っているのは、「感謝祭をしなかった人種が滅びた結果」では?というのが僕の仮説です。

文字にそれほどの力を感じるから、僕は文字からインスピレーションを得たアートを描く。気づきました? ここにある絵は全部、「楽」という字を描いた絵なんですよ。

――え? 全部ですか? 一見、まったく違う絵のように見えますが…。

この真っ青な絵も、カラフルなタイルをちりばめたような絵も、全部、「楽」という字。じーっと見つめていたら、だんだん見えてきますよ(笑)。

なぜ「楽」という字にこだわっているかというと、書の道に進んだ時の原点の一文字なんです。僕、ノープランの真っ白で会社を辞めちゃって(笑)、「さて、どうしようか」と迷いかけた時に、「額に一つだけ文字を書くとしたら何がいい?」と自分に問うたんです。ふと浮かんだのが「楽」という字でした。「楽しい」と「ラク」、二つの意味を包容する字っていいなって。以来、「楽しんで、ラクになれる。自分だけじゃなくて、周りも。これだけを守っていこう」と心に決めて追求していった。その結果の今なんです。

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武田双雲さん
HUFFPOST JAPAN

――なるほど。楽とラク、深いですね。僕は…楽しいけど、まだラクじゃないな(笑)。ビジネスにおいてはなかなか両立しづらい概念かもしれません。

だから、情熱を持って進みながらも、つらそうにしている起業家は多いですよね。僕はそこにぜひ挑戦してほしいし、本当はできるんじゃないかと信じているんです。社会に貢献して利益を上げながら、自分自身もラクな状態であるという新しい資本主義。その可能性を開く一つが、アートではないか。そんな思いもあるんです。

――武田さんが作り手としてどこへ向かっていくのか、とても興味があります。素人考えですが、誰か一人のために筆をとる書に対し、アートはマーケットに対して広く放っていくような。スタンスとしては対極にあるような気もするのですが。

たしかに同じではないかもしれないですね。でも、僕にとっては書もアートも区別がなくて、すべては「心を整えるための活動」でしかないんです。僕自身の心も、観る人の心も。すごく傲慢な言い方をすると、僕は投資ゲームに躍起になる人の心まで整えてしまうほどの表現を目指したい。

――では、「表現すること」と「教えること」の両立についてはいかがですか? 世界のアートマーケットに挑みながら、ここの教室で生徒さんたちに教え続けているという姿勢もオリジナルですよね。

 うーん、そもそも「教えている」という感覚でやっていないかもしれない(笑)。さっきも生徒さんたちと「冬」の象形文字を書きながら「すげーよね! かわいいよね!」と一緒に盛り上がっていただけで(笑)。筆の持ち方なんて、今日と昨日で違うし、なんなら「筆を持たずに字を書くには?」とゼロから考えたいくらい。

大事にしたいのは、目の前の対象といかに丁寧に向き合うか。これ、不思議と老若男女、世界中で通じるみたいで、大企業の幹部向けに講演した時も、ポーランドやインドネシアで話した時も、すごくウケました。

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武田双雲さん
KAORI NISHIDA

――武田さんにとって、すべてが研究と実践なんですね。未来についてはどう考えますか? どういう未来を作っていきたいと思っているのか。

僕にとっては、今がすべて。「今、この瞬間」を幸せに生きることが、1秒後の未来を変えると思っています。

でも、多くの人は未来が気になるし、未来のことが不安ですよね。同時に、過ぎ去った過去にもとらわれる。イメージで言うと、立っている場所の正面から無数のパネルが迫ってくる。そのうちずーっと向こうの「30年後の未来パネル」の中の一点、「老後のお金」が気になってしょうがない。あるいは、ずいぶん前に過ぎ去ったパネルの中の「あいつにあんなこと言われた」の一点にクヨクヨする。

でもね、今立っているこの場所を見渡してみると、ものすごく美しいはずなんです。木はそよぎ、光は届き、頬には無数の細胞がいきいきと呼吸をしている。それに気づくだけで、未来の角度は明るく変わる。そう思いませんか?

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山崎大祐さん(左)、武田双雲さん(右)
KAORI NISHIDA

――とても鮮やかにイメージできました。でもね、そうはいっても、現実にはうまくいかなかったり、傷ついたりするじゃないですか。悲観に陥ることは簡単なのに、なぜ武田さんは「楽」の境地をキープできるんですか。

それは恐怖心がスタートだったから。

幼い頃、両親がうまくいっていなくて、天地がひっくり返りそうなケンカばかり見てきたんです。「父ちゃん母ちゃんのケンカが怖い。どっちの涙も見たくない」という恐怖心から世界平和を願う気持ちが生まれて、それをいかに最短で効率よく手に入れられるかをずっと考えてきたんです。

すると、自分の心を「楽」に整えることが、一番早く周りを変えていくことが分かってきた。いつのまにか親の関係も修復され、妻ともうまくいくようになって…。まず自分から変わる。それもデフォルトの日常から変えていくことが大事なのだと思うに至ったんです。

――分かるなぁ…。実は僕も家庭環境が複雑で、小学生の時に親が離婚しています。しかも、父親だと思っていた人が実父じゃないことも分かった。その時から、「世の中に“絶対”はないし、自分で居場所を探し続けないといけない」という人生観が芽生えました。だから、働く人にとってもお客様にとっても“居場所”になれるような会社を目指したくなるのだと思います。

山崎さんの言葉の端々から、ものすごく熱いエネルギーを感じるんですよ。理想主義者ではあるのだけど、葛藤も見え隠れして。まるで壮大な音楽を聴いているようで最高ですよ。創業から13年ということですが、今はどういう気持ちでビジネスに向き合っているんですか?

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武田双雲さん
KAORI NISHIDA

――僕の思いとしては、経済活動に“心”を復権させたいんです。本来、ものを売ったり買ったりするやりとりには、人と人のコミュニケーションがあったはずなのに、今はそれが失われようとしている。誰もが関われる経済活動にこそ、「居場所づくり」という社会的価値を高められるはずだと信じているんです。

 おっしゃるとおりで、「AIだ、キャッシュレスだ」で一番肝心なことがすっぽり抜けたまま世の中が進もうとしていますよね。経済活動に心が取り戻せたら、イライラする人も減るだろうし、自然と「お互い様」の精神も生まれるはず。お金も国家も地球上生物の中で人間だけが生み出した幻想に過ぎないけれども、だからこそ変えられる可能性があるとも言える。

マザーハウスという会社なら、「ビジネスと楽の両立」を成し遂げられる気がしますよ。がんばってほしいなぁ。つらいことも相当あるって、山口さんの著書『ThirdWay』にさんざん書かれているけど(笑)。

――励みになります。まずは対立構造を脱することから始めないとダメですよね。自分たちはいったい誰と闘っているのか。何を目指すのか。それらを明確にした上で、共栄の構造を新たにつくっていく。今日は刺激的なお話からヒントをたくさんいただけました。これからも作品を楽しみにしています。

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武田双雲さん(左)、山崎大祐さん(右)
KAORI NISHIDA

お知らせ

・武田双雲 初の現代アート展「ピカソ、ごめん展。」
会期:2020年2月5日(水)~16日(日)
会場:代官山ヒルサイドフォーラム&エキシビションルーム

・「武田双雲 展 煌めき」
会期:2020年2月26日(水)~3月2日(月)最終日は午後6時閉場
会場:日本橋三越本店 本館7階 催物会場

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サードウェイバナー
HUFFPOST JAPAN

山口絵理子さんの著書名「Thirdway(第3の道)」というメッセージは、ハフポスト日本版が大切にしてきた理念と大変よく似ています。

これまで私たちは様々な人、企業、団体、世の中の出来事を取材してきました。多くの場合、そこには「対立」や「迷い」がありました。両方の立場や、いくつかの可能性を取材しつつ、どちらかに偏るわけでもなく、中途半端に妥協するわけでもなく、本気になって「新しい答え(道)」を探す。時には取材先の方と一緒に考えてきました。

ハフポストは「#私のThirdWay」という企画で、第3の道を歩もうとしている人や企業を取材します。ときどき本の抜粋を紹介したり、読者から寄せられた感想を掲載したりします。