「ルールを捨てる力」こそが、最強のスキルなのだ ロシア武術「システマ」が教えてくれること

ロシア軍を支えた知恵
|

■ロシア軍を支えた知恵

システマの創始者であるミカエル・リャブコは、10年以上ロシアの特殊部隊「スペツナズ」で戦闘や要人警護、人質解放作戦に参加するとともに、隊員を指導するインストラクターを務めました。

その後は、ロシア連邦法務省顧問、国内軍務大佐、ロシア連邦最高検事局、法務大佐など、ロシア政府の中枢に関わる要職を歴任する一方で、ソビエト連邦崩壊をきっかけに、それまでロシア軍内でしか知られていなかったシステマを、世界中の人に伝える活動を始めました。

ミカエルからシステマを伝えられた門下生たちの中には、世界中で活躍する教育や医療、セキュリティ、軍事関係のプロフェッショナルたちがおり、彼らはシステマのメソッドや思考法をそれぞれの現場で活かしています。

それまでロシア軍の内部でしか知られていなかった知恵が世界に知られるようになってから約25年。今、その成果がさまざまな分野で目に見える形になり始めていると感じています。

Open Image Modal
システマ創始者、ミカエル・リャブコ氏
北川貴英

2016年に『人生は楽しいかい?』という本を出しました。さえないサラリーマンだった主人公が、ロシア武術「システマ」と出会うことで成長し、人生を幸せに生きていく道を見つける......という物語仕立てのビジネス書です。

もちろん、この本のストーリー自体はフィクションです。しかし、本書の中で紹介している「人生が変わった」「仕事がうまくいくようになった」というエピソードは、実際に私のクラスでシステマを学んでいる人から見聞きしたものが元になっています。

なぜ、武術を学ぶことが、ビジネスでの成功や、人生の幸せに結びつくのか?

システマというのは、英語では「system」すなわち「仕組み」です。仕事をする、家族を守る、社会に貢献する......人が生きるために必要なすべての「仕組み=system」を学ぶのがシステマですから、「格闘術」はそのほんの一部に過ぎません。

そもそも武術は「敵を倒す」ことではなく、「生き残る」ことを目的にしたものですが、システマは、戦場において「一人の犠牲者も出すことなく、作戦を成功させること」を目指して作られた武術です。

私たちは生きている限り、大小さまざまなリスクに囲まれています。車にはねられるかもしれないし、泥棒にお金を盗まれてしまうかもしれないし、体調を崩して寝込んでしまうかもしれない。あるいは、ネットゲームばかりやっていて仕事をサボり続けていたら、会社をクビになってしまい、食い詰めてしまうかもしれません。

こうしたさまざまな「リスク」を総合的にマネジメントすることが、本来の「護身」であり「武術」であると私は捉えています

ですから、例えば「毎日規則正しい生活をして、適度な運動をして、十分な睡眠を取る」ということや「しっかり働いて、約束を守って仕事仲間の信頼を得る」といったことが、システマでは単なる「格闘術」よりも重視されるのです。

■「ルールを捨てる」ことは、最強のスキル

Open Image Modal
北川貴英

カナダのトロントにあるシステマ本部のウェブサイトには、次のようなキャッチコピーがあります。

NO BELTS OR UNIFORMS

NO KATAS OR STANCES

NO FORMALITIES OR RITUALS

REAL, PRACTICAL, AND EXCITING Training!

(訳)

ベルトやユニフォームはありません。

型や構えもありません。

格式張った作法や慣習もありません。

リアルで実践的で、

とても楽しいトレーニングができます。

(システマ・トロントのウェブサイトより)

システマのトレーニングは常に、参加者が持っている思い込みや固定観念から自由になることを目指して行われます。こうしたシステマの自由なトレーニングによって「ルールを捨てる思考法」を学ぶことができたというビジネスパーソンは少なくありません。

私たちの生きる社会にはたくさんのルールがあり、私たちはほとんど無意識のうちに、それらのルールに最適化することで、日々を過ごしています。

条文化された憲法や法律だけではなく、資本主義や貨幣制度といったシステムもルールです。それらに最適化しているうちに、例えば「人が多いところでは騒がない」「他人の悪口を言わない」といった暗黙のセオリーも生まれてくる。

こうしたルールやセオリーを知り、それに適応することは大切です。ただ、あまりにも深く適応しすぎると、ルールが変わったり、ルールのない状況に置かれたりすると、途端にフリーズしてしまうことにもつながります。

重要なのは、私たちの無意識の中にある「ルール」からいつも手を離し、客観視しておくことです。

どんな状況でも通用する普遍的なルールなど、この世には存在しません。例えば、私たち日本人にとっては「人を殺してはいけない」というのはかなり普遍性の高いルールですが、戦場ではそれが賞賛されることもあります。

Open Image Modal
子供向けのクラスにおけるシステマのトレーニング
北川貴英

システマのトレーニングは決まったカリキュラムを持たず、毎日のようにメニューを変えます。

それは、自分たちを縛っているルールやセオリーがいかなるものなのかを、身体を通して実感してもらうためです。

自分がどのようなルールに縛られているかを知ることは、そこから自由になる第一歩です。

ビジネスでも、多くの人々が当たり前だと思い込んでいるルールやセオリーを疑う自由な発想は賞揚されますが、一般的に、そうした能力は、その人の才能や経験によるものと考えられがちです。しかし、システマではそれを、トレーニングによって高めていくことのできる「スキル」と位置付けているのです。

夜間飛行プレタポルテ「「ルールを捨てる」とき、人は成長する 世界のトップビジネスパーソンが注目する「システマ」の効果」より

『人生は楽しいかい?』

ゲオルギー・システマスキー著 北川貴英監修

Open Image Modal
北川貴英