「捕鯨は日本の伝統」では、欧米人には通じない。その理由を探ってみえてきたこと

「おクジラさま」監督の佐々木芽生さんが語る「クジラを守る側」の気持ち。

クジラの資源管理をする国際捕鯨委員会(IWC)から、日本が6月に脱退することを決めた。国際社会から批判もある中、約30年ぶりに商業捕鯨を再開する。

クジラは「日本の伝統的な食文化」と一生懸命訴えても、反捕鯨国の欧米ではなかなか理解されない。むしろ「野蛮だ」と批判される。

どうして日本の思いは通じないのか──。ドキュメンタリー映画「おクジラさま ふたつの正義の物語」を監督した、佐々木芽生さんに聞いた。

 7月から再開される商業捕鯨は、山口県下関市を拠点とした沖合操業と、北海道や青森県、和歌山県太地町などを拠点とした沿岸操業が柱だ。

日本は、伝統的にクジラを捕獲して食文化として育んできた。クジラをテーマにした踊りや歌も各地域にある。

食べてしまうのに、愛着を持つのだ。

アメリカのニューヨークに住む佐々木さんは、こうした文化を描くため、和歌山県太地町などを取材し、映画「おクジラさま」を完成させた。ニューヨーク、サンフランシスコ、カナダなどで上映会を開き、鑑賞後は観客とも議論をするという。

「伝統」を”守る”日本と、”アップデートする”欧米

━━アメリカに住んでいる人は、捕鯨に対してどんな意見を持っていますか。

私は1987年からアメリカで暮らしています。日本よりはディベートが活発な社会です。テレビや学校で賛否がわかれるテーマについて深く話し合うことが文化として根付いていますね。

ただ、捕鯨問題だけは、反対の意見ばかりで、賛成派にはなかなか出会えません。

日本は、科学的なデータを積み重ねて、「資源が豊富なクジラの種もいる」とIWCで訴えてきましたが、あまり主張が理解されていません。むしろ、人間のように高度な知能を持ち、「絶滅寸前」なのに「強引に虐殺している」という非常にネガティブな意見が多い。だから、「捕鯨をやめろ」という声が根強い。

━━自民党の二階俊博幹事長はIWCから脱退することを決めた際、日本の捕鯨への批判に対して、「どうして他国の食文化に文句を言ったり、高圧的な態度に出るのか」とコメントしました。「日本の伝統だ」という主張も様々な人からよく聞かれます。

こういう主張は、欧米ではあまりピンと来ないのではないでしょうか。

東京での国際的なドキュメンタリー映画のピッチングフォーラムに参加したときのことです。お祭りや職人の生活など伝統文化ばかりをテーマにする日本の映画監督に対して、イギリスの映像関係者から「もう、伝統はいいよ。違うものを見せてくれ」と不満の声が漏れたことがありました。

一概には言えませんが、日本と欧米では「伝統」に対する考え方が違うと感じます。日本は政治家やメディアが「伝統」といえば、「守らないといけないもの」「価値があるもの」というイメージを持ちますよね。

でも、欧米では、伝統というのは常に検証して、次の時代に合わせるためアップデートしていくものなのです。間違っていると判断すれば、古い文化や慣習はどんどん捨てていく。

たとえば、アメリカでは、かつて奴隷制がありましたし、政治参画は男性中心でした。いずれも「昔から続いている」という理由で無条件で残すことはありませんでした。反対運動が起き、制度をダイナミックに改革してきました。

一部の捕鯨賛成派をのぞいた欧米世論に対して、「伝統だから認めてくれ」ではなかなか通じないんです。

″多様性”を入り口に会話を始める

━━佐々木さんは捕鯨をする地域の人の思いを海外でどう伝えているんですか。

私は、「多様性」をキーワードにして、アメリカの人と会話をしています。

アメリカではトランプ大統領が出てきて、感情が世の中を動かすことを改めて示しました。分断も起きています。

日本が再開しようとしている「商業捕鯨」は、規模は大きくないです。地域も限定的なので、彼らの生活と風習を守ることも多様性を守ることにつながるのではないか。トランプ大統領をはじめ「自国中心主義」が広まっている現代において、捕鯨を長く続けている地域の文化やそれを誇りに思う人のことも考えてほしい、と私はアメリカで訴えています。

たとえば、こんなことがありました。ボストンで反トランプ派の人が映画「おクジラさま」を見にきてくれました。

見終わったあと、その方が「私はこれまで捕鯨に反対だった。でも、過激な反対派団体のように、漁師のことを犯罪者のように扱う人をみてゾッとした。トランプ大統領や支持者を排他的に批判する自分が重なった」と話してくれました。

賛成や反対というざっくりとした意見ではなく、細かいディテールを伝えると人間同士、会話が始まります。

━━細かいディテール?

江戸時代からの捕鯨の歴史をもつ和歌山県太地町を取材していると、そこに住んでいる人たちの名字がユニークであることに気づきます。

「筋師」さん、「油谷」さん、「遠見」さん。筋師さんは、クジラの筋を扱っていたとされます。「油谷」さんは、ご先祖様が、クジラの油を加工していたのでしょう。「遠見」さんは丘の上からクジラを見つけて船に知らせるかかりです。

クジラを仕留めるのは命がけの大変な仕事で、名字だけを見ても、地域全体のチームプレーが必要なことが分かるし、みんなの生活にとって貴重な資源だったということがわかります。

だから、そうした伝統を自分達の時代で「絶やしてはご先祖さまに申し訳ない」という思いが地元の人にあるんですね。

こうしたディテールを伝えながら、「彼らの生活と風習のことも考えてみようよ。それも多様性だよ」と伝えると、少しは分かってくれるんです。もちろん「捕鯨賛成派」にはなりませんが、少なくとも会話は成立するようになりますね。

━━クジラやイルカは「知能が高い」ので捕獲するべきではないという意見もあります。

たくさんの動物の中で、イルカやクジラが特別だと思われる理由は人間との距離の近さ、だとされています。コミュニケーション能力などが高く、人間に近い能力があるように感じられます。「わんぱくフリッパー」などイルカと人間の交流を描いた映画やアニメを見て育っているのも、欧米人が親しみを持つ理由なのかもしれません。

ただ、私はそういうとき、「人間にはない動物特有の賢さも様々あると思うんだよね」と多様性をポイントに再び議論をします。アリが巣をつくる様子をみているとある意味「社会性」があるといえますし、渡り鳥はGPSもないのに、長い距離を正確にとびますよね。

━━佐々木さんの映画を見ることで、みんな「わかり合える」のでしょうか。

そんな単純ではありません。ただ、根気よく、しつこく、何度も何度も話すことが大事です。「反対派はどうせ自分の意見を聞いてくれない」「面倒だな」と思っても、です。

私はIWCの総会を取材してきましたが、2010年と2014年は、日本政府が開く記者向けのブリーフィングに、海外メディアは参加できませんでした。私も海外のクルーといっしょでしたので、「違和感がある」と追い出された。

日本政府も捕鯨を再開する地域の首長も、どんどんインタビューに応じた方がいいです。政治家も、国際社会で通用する言葉の力を持たなければいけない時代です。

クジラを食べる人は減っていて、東京などに住む人にとっては、「自分の生活と関係ない」と思うかもしれません。

ただ、捕鯨問題にかぎらず、今後日本独自のローカルの文化とグローバルの価値観の衝突はどんどん起きてくる。

どうやって自分たちの主張を伝え、何を守るべきか、何を変えるべきか。私は映画で単純な反対や賛成を伝えたかったのではない。今の時代、クジラについて考える価値は大きいと感じて映画をつくったのです。

(写真はいずれもFine Line Media)

 

佐々木さんは、IWC日本政府代表の森下丈二・東京海洋大学教授と共に映画「おクジラさま」の上映会・講演会を2月21日夜、東京都品川区の区立総合区民会館「きゅりあん」で開く。そこでも「会話」を続けるという。

プロフィール

佐々木芽生(ささき・めぐみ) 監督・プロデューサー。フリーのジャーナリストを経て、1992年NHKアメリカ総局勤務。その後独立して、テレビの報道番組の取材、制作に携わる。2008年、初監督作品『ハーブ&ドロシー 』を完成。世界30を超える映画祭に正式招待され、最優秀ドキュメンタリー賞、観客賞など多数受賞。2017年9月に日本で公開された長編ドキュメンタリー映画「おクジラさま~ふたつの正義の物語」は監督第3作目。

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