「自分の時給をチャートで換算する」 元サイバーエージェントの女性起業家が語る「仕事と自立」

やまざきさんの経験から、次世代の“女性の働き方”を学ぶ。
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Business woman working on desk. Business and technology concept.
Getty Images

新卒でサイバーエージェントに入社し、常にメディアの最先端をひた走ってきたやまざきひとみさん。華々しい経歴の持ち主である彼女も、大きな壁にぶつかった時期があった――。やまざきさんの経験から、次世代の"女性の働き方"を学ぶ。

■仕事の評価は"性別"ではなく"実力"でされるべき

――これまでのお仕事のご経歴を教えてください。

新卒でサイバーエージェントに入社して、9年ほどAmebaにいました。社内での経歴はずっとメディア畑で、BtoC(企業と消費者の取り引き)向けサービスのプロデューサー業に就いていました。

その後、独立をして動画メディア「C CHANNEL」の編集長を経て、2016年には「HINT inc.」を設立し、メディアプロデュースや動画制作等を手がけています。

――新卒入社でサイバーエージェントを選ばれた理由はありますか?

当時、ふつうの女子大生として就職活動をしていて、「就職活動って男女不平等だな」って思っていたんです。当時、大手企業だと男女の採用比率が8:2とか7:3で、その時点でも不自然に思ったのに、仮に入社しても「同期の中で男性を越えなくてはいけない」という謎のベクトルが働くのは理不尽だなと。

そんな中でサイバーエージェントは男女の採用比率が5:5。さらに、採用過程で"性別ではなく実力で評価してくれる仕組み"がありそうだなと感じたことが決め手でした。

ほかの同期たちは「営業にいきたい」「子会社の社長をやりたい」という人が多い中、私としては当時は赤字事業だった「メディア事業」にいく方が得だなと思ったんです。要は、仕事があるところで仕事をする、ピンチのところで仕事をして成果を出した方が認められるかも、と思って。

――戦略的に希望を出されたんですね。

戦略的というか、私からしたら「自明」ということだったんです。

会社に入った以上、会社を大きくするということが成果になるのだから、一番成果を出せそうかつ、人が少なそうなところに行くのが一番いいと。でも、蓋を開けてみたら意外と周りはそういう思考ではなかったですね。

■市場を追い続けた結果が、現在へとつながっている

――その後、女性向け情報メディアを立ち上げ、独立されましたよね。その理由は?

Amebaも大きくなって自分も古株になり、自分自身のバリューを一番発揮できる場所という意味で考えた時に、サイバーエージェントという会社での発揮力よりも、今は市場的にスタートアップに出た方が役割を果たせるんじゃないかな、と考えました。

せっかく生まれてきたんだから、自分の役割を果たせる場所にいようという考え方が私の中では大きいんですよね。

――アメブロから始まり、「by.S」、「C CHANNEL」、現在というご経歴は戦略的なステップアップだったでしょうか?

インターネットでは、前の10年でSNSの発達に代表される人と人とのつながり、つまりコミュニケーションの革命が起きていて、その後LINEとFacebookが出て一段落して、人と人とがつながりきったと思います。

そして、コミュニケーションの革命の次は何が起きるかと考えたら、コンテンツ流通の革命が起きるなと思ったんです。要は、人と人とがつながった上にどんな情報が流通するかっていうところに革命が起きるなと。それが「by.S」をやりはじめたタイミングでした。

そのようにコンテンツ流通の上で最初にテキストメディアの革命としてキュレーションメディアが出て、その次は通信環境が整ってきたので動画が来るなと考えました。常に自分なりに市場を読みつつ移ってきたイメージです。

■自分名義で仕事ができて、やっと「自立」といえる

――女性が社会で活躍することについてどう思われますか?

実は私、結構体が弱くて、体調を崩して何度か壁にぶちあたったことがあります。プロとして人に迷惑もかけるし、めちゃくちゃコンプレックスです。

まれに男性並みに体力がある方もいますけど、やっぱり女性が働く上で重要なのは"体力の使い方一択"。つまり、"勤務時間一択"だなと思っているんです。

――"勤務時間一択"......ですか。

とにかく限られた時間で最大のパフォーマンスを出すためには「精力を節約することが大事」ということです。そう考えるようになってからは、無駄に体力を使わない、時間を節約する、その中で長時間働く以上のパフォーマンスを出す、ということを重要視するようになりました。

そしてそれをやろうと思ったら私の場合、組織で働くよりも「独立してみよう」という結論になりました。

――自ら望んで"環境を変える"という選択肢を持つために必要なことはなんだと思いますか?

スキルの市場価値を常に磨くことでしょうか。

自分名義で仕事ができるようになりたい、というのは新卒のころから思っていました。それがやっと最近少しずつできるようになったなっていう感じです。

「元サイバーエージェントのやまざきさん」と言われるのも、「元C CHANNELのやまざきさん」と言われるのも、どちらもありがたいですが、だんだんそれが取れてくるのが理想ですね。

でもやっぱりすぐには無理なので、30代・40代を経て、「やまざきひとみ」名義で仕事ができるようになってはじめて「自立」と言えるのかなと思います。

■意外とできない人が多い「自分自身の値付け」

――独立して、最初にされたことは?

まずやったことは、自分の時給をチャートで換算するということ。会社員のときは年収をベースにして自分の市場価値を量っていましたけど、独立したり、フリーランスになったら時給ベースで量らないとダメだなと思います。

――時給ベースというと、具体的にどのようなことをされたのでしょうか。

時給換算とともに、自分のレジュメを作りました。

それまでの実績と自分ができることを箇条書きですべて書き出す作業です。

「〜をやっていました」ということだけではなくて、「〜を、どれくらいの期間で、これくらいの売上を出しました」というところまで具体的に。

そこまでやると、「これをやっていたっていうことは、これもできるっていうことだ」みたいな、当然だと思っていた知らないスキルがいっぱい出てくるんです。

――たしかに、自分自身のスキルを実は正確に把握できている人って少ないかもしれません。

そうなんです。まず自分の見積もりを正確にするということがすごく重要で、常にその精度を上げていくことがとても大事なんですよね。

実際に私も失敗したことがあって、独立後に一銭にもならなかった仕事もあります。でも、自分で自分の値付けができるようにならないと、生き残ることは難しいと思います。

私は会社員時代からブログやSNSをやっていたので、働き方を切り替えた時も比較的上手くいったと思います。お金じゃない資産、「SNSを使える」みたいなことも含めて自分のスキルなんですよね。

――ご自身が進化し続けるためにしていることはありますか?

ひとりの時間を大事にしています。

「キャラクターはひとりの時間で作られて、キャリアは公共の場で作られる」というニュアンスのマリリン・モンローの言葉があるんですけど、個性はひとりの時間で醸成されるものというか、自分に嘘をつかない時間があると"ブレ"がなくなると思うんです。

自分が本当に納得することを決めるのって、ひとりの時じゃないとできないから、意識的に完全にひとりになる時間を作っています。これって意外と難しいですよね。

――ここまでお話を伺って、「自分の本質を見つめ返す」ということを非常にされているなと感じました。やまざきさんの未来の目標は?

ずっと言っているのは、「とことんいい仕事をして世界をちょっとだけ良くする」というのが仕事をする上でのコンセプト。なので、それが一番できている状態になることが目標ですね。死ぬ時に「やりきったな」って思いたいです。

<編集後記>

「最大限のパフォーマンスを引き出す働き方とは?」

正しい選択をするためには、自分自身を知ることが重要だとやまざきさんは言う。日常に流されず己と向き合い続けることが、進化への近道なのかもしれない。

Text/Mediajo(取材:ZENKUMI/ライター:AYANO)

取材協力:HINT.inc

企画・取材:ミーズハー株式会社

この記事のライター

ミーハーと私(ME)彼女(SHE・HER)を掛け合わせた造語で

ミーハーな女子ゴコロ="女性の情報源"という意味を込めています

(2018年3月20日「DRESS」より転載)