医療職と介護職の活発な交流がお互いのスキルを高め、医療・介護の質を向上させると考える家庭医の田中公孝先生は、介護職の方々との交流を積極的に深めています。なぜそのような考えに至ったのかを伺いました。
―介護職の方と積極的に関わろうと思ったのはなぜですか?
医学生のころから、今の医療には課題がたくさんあると思っていたからです。医師として病院に勤務するようになって、介護側の課題も感じるようになりました。
介護業界の課題は、サービスの質が均一でないことと、病院と連携しやすい関係性ができていないことだと思っています。これが解決すると、医師からもそれぞれの患者さんに合った環境を提案でき、認知機能やADLの向上にもつながります。だから、まずは自分から積極的に、介護職の方と関わる場に出て行くようにしています。
一方医療業界の課題は、業界の内側だけで物事を収束させようとしていて、閉塞感があることです。今身を置いている家庭医の世界は、少しずつ外の世界と交流を持つようになってきていますが、まだ十分とはいえません。外のアイデアをもっと取り入れていく姿勢が必要だと思っています。
-医療業界の閉塞感は、どのような時に感じたのですか?
「医療の中だけでは解決できない問題がある」と気づくきっかけになったエピソードがあります。
以前担当した患者さんに、入院で寝たきりになってしまった高齢の男性がいました。治療が終わり退院できるという段階で、在宅ではみれないと家族に言われてしまい、その男性は特に病気の治療もないまま、約2カ月間退院できませんでした。
今思うと、早い段階からADLを上げるためのリハビリをしたり、退院に向けて多職種の方と一緒に家族の生活状況を把握して対応方法を考えたり、介護保険の手続きを進めたりすべきでした。そうすれば在宅生活の負担や不安を減らすことができ、男性が自宅に帰れる可能性もありました。当時はそのようなことに気付かず、教わる機会もありませんでした。
―医療側と介護側の課題を解決するために必要なことは何ですか?
相互の情報交換が不可欠だと思います。ケアマネージャーさんやヘルパーさんは医師との接点が多いわけではありませんが、高齢者の病状変化や救急搬送に遭遇することがあります。そういったときに、「こういう場合は様子を見ているだけでも大丈夫」「こういう場合は受診したほうがいい」というような知識を持っていれば、適切なタイミングで受診できますし、介護する人自身も不必要な不安を感じることがなくなります。
介護職の方に医療を学べと言うつもりはありませんが、介護職のレベルアップが患者さんの適切な診療につながることを考えると、積極的に医療を学ぶ姿勢は必要だと思います。医師からも、介護に役立つ医療知識を教えていければと思っています。
反対に医師は、高齢者との接し方や認知症ケアの仕方を介護職の方から学ぶべきだと思います。医学部では、高齢者については少ししか学ばないので、高齢者とどう接したらいいか分からない医師も多くいます。介護職の方と交流していると、特に認知症ケアの技術について、教えてもらっていることがたくさんあると感じています。
医師と介護職がお互いを高め合っていける関係になることが患者さんの生活の質の向上につながります。だからこそ積極的に介護職の方と交流して情報交換するようにしています。
(聞き手 / 北森 悦)
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医師プロフィール|田中 公孝 家庭医
2009年滋賀医科大学医学部卒業。2011年滋賀医科大学医学部附属病院にて初期臨床研修修了。2015年医療福祉生協連家庭医療学開発センター(CFMD)の家庭医療後期研修修了後、引き続き家庭医として診療に従事。医療介護業界のソーシャルデザインを目指し、PRESENT運営メンバー(企画、ファシリテーション担当)として、介護業界の若者のコミュニティ「HEISEI KAIGO LEARDERS」に参加。