義足女子のファッションショー「ヴィーナスの足にびっくり、そしてうっとり」

義足女子がファッションショーのモデルになる「切断ヴィーナスショー」が開催された。

「切断ヴィーナスショー」で、着物の一部を裂き、義足をあらわに魅せる村上清加さん

モデルは陸上選手

義足女子がファッションショーのモデルになる「切断ヴィーナスショー」が8月2日、石川県・中能登町のレクトピアパークで開催された。地元の夏祭りイベントのなかで行われたショーは、小学生から高齢者まで、大勢の観客が詰めかけた。夕暮れと共に、ライトアップされた屋外ステージに義足女子たちが姿を現わした。

5人のモデルのうち、4人はパラリンピック出場を目指すアスリート。義足アスリートの陸上競技クラブ「ヘルスエンジェルス」に所属している。競技会でパフォーマンスを見せることには慣れているが、ファッションモデルとしては素人だ。

それでも、観客をあっと言わせたいと、この日のために、モデルウォークやポージングも懸命に練習した。当日は朝からリハーサルをこなし、メイクや着付けにも余念がない。半日かけてプロのスタイリストにメイクアップされ、モデル顔に変身していく。

衣装は、中能登繊維を用いた欠け着物。彼女たちがモデルとしてポーズを決めている美しい写真や、艶やかな色使いでモダンな柄を、地元のテキスタイルラボが特殊なインクジェット技術でプリントした。「見て楽しい、着て楽しい。そのうえで生活感が変わるようなものを提供したい」と話していた衣装の制作担当者。パラリンピックを目指している選手たちがモデルとなるので、「素材の機能性も表現した」という。

決めポーズであっと言わせる

アップテンポな曲が流れると、いよいよショーの始まりだ。義足女子たちは細やかにステップを踏みながら登場。スポットライトを浴びて、さらに妖艶な雰囲気になっている。隣でみていたおばあちゃんも、きらびやかなステージにうっとりしている。

義足女子たちは振袖をひるがえしながらモデルウォークでステージを闊歩し、センターでポーズ。ここまでは普通のファッションショーだった。が、次の瞬間、彼女たちは着物の裾を掴み、はぎ取った。

突然、露わになった義足。観客席から上がるどよめき。

しかし、それはすぐに拍手でかき消された。大喝采の中で、自分の義足を持ち上げてアピールするモデルもいる。しゃがんだり、ダンスのステップを披露したり、私、義足をここまで使えるのよ、と訴えているかのようだった。鳴り止まない拍手。大成功だ。

義足は、しゃがむという動作ひとつにも微妙なバランス感覚が必要で、使いこなすにはかなりのトレーニングを要する。それでも彼女たちは義足を履いていることを感じさせない「足使い」を見せてくれた。ほとんどの観客は、義足があらわになるまで、義足女子がモデルを務めていることを忘れていたのではないだろうか。

着物の一部を裂き、義足をあらわに魅せる小林久枝さん

撮りたい、義足が魅力的

ファッションショーを企画したのは、越智貴雄さん。パラリンピックや障がい者スポーツを追いかけ続けているプロカメラマンだ。「義足のネガティブなイメージを取り除き、彼女たちの魅力を来場者に見せたい」と、熱意に満ちている。

きっかけはスポーツ用の義肢制作の第一人者である臼井二美男さんとの出会い。「パラリンピックを取材していて、女性の美しく魅力的な義足に魅了された」という越智さん。思い切って臼井さんの元を訪ね、「義足の人を撮りたい」と相談した。それが『切断ヴィーナス』プロジェクトの始まりだった。

2014年5月、写真集「切断ヴィーナス」(白順社)を発表。これが義足女子たちのモデルデビューとなった。その後、東京と横浜でファッションショーを開催。これが話題を呼び、今回の中能登町でのショーへと発展した。

ショーに出演した須川まきこさんは「モデルをしたことで、気持ちをアウトプットすることができた」と話す。大役をやり遂げた安堵からか、笑顔が輝いていた。村上清加さんは「緊張よりもワクワク。日常では経験できないことだから」と、モデルを務めたことを心から楽しんでいた。

「義足って硬いね」

ショーを終えてステージ裏に戻ってきた義足女子たちを出迎えたのは観客たち。感激を伝えたくて何人もの人たちが集まってきた。握手を求め、綺麗だったと夢中で話しかけていた。

小学4年生の娘を連れてきていたお父さんは「ビックリした サプライズでした」と興奮気味。「普通のファッションショーだと思ったら、衣装をめくると義足が出てきて驚いた。それにおしゃれ。アスリートなんですか? 義足を隠したいと思わずに明るくて、モデルのみなさんはとてもきれいだった」初めて義足を見た娘は不思議そうに、でも興味津々で彼女たちの足を触ると、「硬いよ」とつぶやいた。

新聞記事でファッションショーを知ったという女子高校生グループは「両手を広げたとき、衣装のデザインがきれいだった」と感激し、一緒に写真撮影。憧れの眼差しで義足女子たちを見ていた。

あまり馴染みのない義足。それだけに、最初に目にしたときは驚きもあった観客たち。しかし、あっという間に魅了され、たちまち義足女子のファンになっていた。「義足にある怖いというネガティブなイメージを覆したい。洋服や眼鏡のように美しいものとして見せたい」という越智さんの思いはまっすぐ伝わったようだ。

ショー終了後、出演者に感激を伝えたく集まった地元の高校生たち

(取材:安藤啓一)

(写真:越智貴雄)

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