PRESENTED BY SHIBUYA QWS

「食事」が「薬」になる社会。AIで“おいしい”を再定義する、起業家が描く未来

共創施設「SHIBUYA QWS」を舞台に、食後血糖波形×AIによるデータ解析で糖尿病の治療用アプリを開発している、THE PHAGE代表・德永翔平さん。彼らがつくる、おいしい食事が薬になる未来とは?

「おいしい」ってなんだろう?

甘いチョコレートを一口で頬張る「おいしい」。
家族でひとつの食卓を囲む「おいしい」。
栄養バランスが整った定食で体がよろこぶ「おいしい」。

世の中には、多様な「おいしい」がある。
誰もが思わず顔をほころばせてしまう、曖昧で幸せな「おいしい」――。

その価値を、AIの力で再定義しようとする試みがある。

問いを起点にした共創施設「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」を拠点に、食後血糖値をAIで予測し、糖尿病の治療支援をおこなうアプリを開発しているのがTHE PHAGEだ。

問いから未来をつくる連載第4回は、THE PHAGE代表・德永翔平さんに「おいしい食事が薬になる社会」について聞いた。

德永翔平(とくなが・しょうへい)さん: THE PHAGE代表。1989年生まれ。青山学院大学卒業後、外資系医療機器メーカーなどを経て、THE PHAGEを創業。「バイタルデータで『おいしい』を再定義する」をミッションに、プログラム医療機器(デジタル技術を活用して診断や治療を支援するソフトウェアおよび、その記録媒体)の開発等をおこなっている
德永翔平(とくなが・しょうへい)さん: THE PHAGE代表。1989年生まれ。青山学院大学卒業後、外資系医療機器メーカーなどを経て、THE PHAGEを創業。「バイタルデータで『おいしい』を再定義する」をミッションに、プログラム医療機器(デジタル技術を活用して診断や治療を支援するソフトウェアおよび、その記録媒体)の開発等をおこなっている
下屋敷和文

多様な「おいしい」を解明して、社会に提示する。

―THE PHAGEの事業内容を教えてください。

ごはんを食べると血糖値が上がったり下がったり変動するんですが、その血糖値の推移を「血糖値波形」という波形の線で予測するAIをつくっています。また、その技術を活かして糖尿病治療に資するデジタル治療薬の開発を進めています。

―事業を通じて、どのように社会を変えたいですか?

「おいしい食事が薬になる社会」をつくりたいと考えています。

たとえば、糖尿病治療の現場には「何が血糖推移に影響を及ぼしたのか、その詳細について誰ひとりとしてわからない」というペインがあって。

その結果、食事指導では「食べたほうがいいもの、控えた方がいいもの」のオプションが限られてしまい、患者さんは食事を楽しめる環境にいない。

だから、その課題に対して僕らがやっていることは、まず一人ひとりの患者さんにとって理想的な血糖値の推移=「目標血糖推移」を自動生成する。また、たとえばリンゴを食べたときに「この人だったら、血糖値がこう動くはず」という推移もAIで予測する。

そして、これら2つの波形データ(「目標血糖推移」と「AIで予測した血糖値の推移」)の差分を埋めるために、何をどのように食べればいいか。また、どのような行動をとればいいか。各患者さんに個別最適化した提案をするんです。

ここでキーとなるのが、目標範囲内に血糖値を収めるための食事は個々人でまったく違うという点。しかも、その人に適した食品って、結構バリエーションがありそうだということ。

だから「あなたはこれらを食べれば、おいしい食事を楽しみながら血糖値コントロールできますよ」と、提案ができるわけです。

THE PHAGEの治療用アプリのベータ版画面。血糖値の推移が波形で表示されている
THE PHAGEの治療用アプリのベータ版画面。血糖値の推移が波形で表示されている
下屋敷和文

つまり、THE PHAGEの治療用アプリを使うことで、ひとり一人の糖尿病患者が「おいしい」と感じる食事をとりながら治療を進めることができる。

もっと言うと、これが「血糖値予測AIを通じて、糖尿病治療の仕組みを変える」ことになり、その人にとっての「おいしい食事」が「薬」になる社会を実現できるんじゃないか。そう考えているんです。

―なるほど。AIを駆使して「おいしい」を再定義する、ということですかね?

そうですね。一口に「おいしい」といっても、その意味は多様かつ曖昧で。たとえば、「ほんのりおいしい」みたいに感じることってあるじゃないですか。

僕はさっき、近くのお店でサバの塩焼き定食を食べてきたんですけど。そこは糖質量を細かく調整してメニューがつくられているので、食後も安定した血糖値の動きになるんです。

一方で、糖質量が多い調味料を使った食事をとると、血糖値が乱高下する可能性がある。だけど、そっちの方がみんな「おいしいな」と感じたりする。もちろん、それはそれでおいしいんですが、それ以外の「おいしい」もあるよね、と。

だから僕らがやろうとしているのは、血糖値波形をAIで解析することで、多種多様な「おいしい」を解明して、社会に提示していくことなんです。そして、その多様なあり方のひとつとして、「おいしい食事」が糖尿病治療に資する「薬」になり得る。という意味合いです。

下屋敷和文

「食事」は、体のなかに一番表れる情報源。

―事業のテーマとして「食事」に着目したのは、なぜでしょう?

これは「知の融合」から生まれたものなんです。

僕はバイタルの専門家で、共同創業者の志連はデザインの専門家。他にも食や医療の専門家など、THE PHAGEにはいろいろな人たちがいる。

コロナの最中に、彼らと「問いを問う」というか「自分たちのプロジェクトに最適な問いはなんだろう?」と話していたんです。

その会話のなかで、家族や友人、恋人といった身のまわりの人たちが「コロナワクチンを打つ/打たない」と各々に言っているけど、結局どの情報が正しいのかな、という話になった。

当時は、本当にいろんな意見が出たじゃないですか。だけど、実は誰も何が正しいかはわからない。それでも「体のなかにある情報」だったら、すごく信じられる。そう考えて、体のなかに一番表れる情報の源として「食事」に着目しました。

また、これは個人的な話なんですが、自分の父親は双極性障害(※)を患って、薬物治療を受けていたんです。だけど、なかなか治らず再発を繰り返していて。

※躁状態(気分が高揚し、極端に活動的になって、易怒性示すなどの状態)とうつ状態(過度に気持ちがふさぎ込んで、人生に興味がなくなるなどの状態)が反復する。気分障害の一種

母親は、もともと食事や日常生活の行動にすごく気をつける人で。食事の栄養バランスに気を配ることはもちろん、父の治療の助けになるような行動を付箋に書いて、家中にペタペタ貼っていたんです。たとえば「朝起きる」「散歩する」「食事をちゃんととる」みたいな感じで。

そういう環境で育ったので、「薬」よりも「食事」でもっと良くできないかな、と思っているところはありますね。

下屋敷和文

起業のきっかけは、SHIBUYA QWSでの出会い。

―現在SHIBUYA QWSを拠点に活動されていますが、入会のきっかけは?

知人の紹介でSHIBUYA QWSに来たとき、たまたまピッチイベントをやっていて。そこで、血糖値の動きに応じて色が変わる照明をつくるプロジェクトを目にして。「これは面白そうだな」と、すぐに入会を決めたんです。

その後、志連とも出会って。SHIBUYA QWSで出会った人たちと起業した、みたいな感じです。そこから、ずっとSHIBUYA QWSにいますね。

―SHIBUYA QWSには、学生から大企業の社員まで、多様な会員がいます。THE PHAGEの事業において共創は生まれましたか?

まさに今進めている事業で、SHIBUYA QWSで出会った大手企業様と提携させていただいています。

SHIBUYA QWSには本当にお世話になっていて。たとえば、最初期にビジネスアイデアの壁打ちをさせてもらった人が投資をしてくださったり。そのほか、スタートアップ関連の仲間との出会いもSHIBUYA QWSの紹介でした。

世界で一番、血糖値予測の精度を上げる。

―最後に今後の展望を聞かせてください。

血糖値波形をAIで解析することで、多様な「おいしい」の価値を解明する。そして、その価値のひとつとして「おいしい食事」が「薬」になる社会をつくることがゴールであることは、先ほどお話した通りです。

そのうえで、ゴールに向けて何をするのか? というと、世界でもっとも血糖値予測の精度を上げることを目標にしています。これは日本だからこそ、できることだと思っていて。

―それはなぜ?

理由は3つあります。

1つ目は、日本は「美食国家」であること。日本では、世界各国の多種多様な料理が食べられますよね。だから、食事データが集めやすいんです。

たとえば今、アクセラレータプログラム(※)で食品メーカーの明治とプロジェクトを進めていますが、レシピや機能性の成分、臨床試験の知見など、1社だけでも膨大なデータをお持ちです。

※スタートアップ企業との協業や出資を目的として、事業会社や自治体が主催するプログラム。双方の事業成長を加速させることが可能

2つ目は、医療の質が高く、臨床研究の質も非常に高いこと。AIの開発には正確なデータセットが必要です。これを確保できるのは非常に心強い。

それから3つ目は――、これは厳しい現実なんですが、昨今の日本は1人あたりのGDPが下がってきている。だから、他国と比べて研究開発費が安いんです。

これら3つの条件が揃う国って、世界中探しても他にはないと思っていて。だから、日本でやっていきたいですし、日本だからこそできる。そう信じてやっているという感じです。

下屋敷和文

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写真:下屋敷和文

取材・文:大橋翠

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