妊娠の不安を加速させる「やさしいおせっかい」との共存方法

妊娠初期に私が苦悩したのは、体調不良よりも何よりも、「あなたのためのアドバイス」でした。

37歳女性。仕事中心の毎日で子どもはもう無理かな、と思っていた私のおなかに突然赤ちゃんがやってきた。その中で見えてきたこと、感じたことを綴る連載の3回目。

みなさん、あなたのためと押し付けがましく言われて不愉快に思うこととかありませんか?妊娠初期に私が苦悩したのは、体調不良よりも何よりも、この「あなたのためのアドバイス」でした。

ネットを検索しては泣く毎日

妊娠とは、本当に興味深い経験だと思います。自分の身体の中に他のいのちが宿るというだけでも信じられないことなのに、それによって自分の身体や心がどんどん変化していきます。代表的なものはつわりでしょう。それから、疲れやすさ、過度な眠気、味覚の変化、メンタルの不調、などなど。私の場合は、判断力や集中力の低下にも悩まされました。妊娠の喜びはもちろんあるのですが、イメージしていた「赤ちゃんがきた! オールハッピー!」というような気分になれたのは安定期に入ってからでした。それまでは、自分のもののはずなのにまるで別物になっていく身体と付き合うのに精一杯。

気になることがあればすぐにネットで検索できる便利な時代です。しかし、時にこれが“仇”になります。

私の場合でいえば、腰痛の症状があるときに「妊娠初期×腰痛」で検索して腰痛を伴う流産の記事ばかり目についたり、「つわり×ない」で検索しては稽留流産(編集部注:けいりゅうりゅうざん。出血や腹痛などの徴候がないけれど、超音波検査で発育が停止、つまり流産していると診断されるもの)といって出血や腹痛などの症状を伴わない流産の記事に行き当たったり。安心したくて検索しているのに、出てくる結果がネガティブなものばかりで、毎日のように不安になって泣いていました。

でも冷静に考えてみると、ネットで話題になる情報というのは大体極端な事例やネガティブなものです。しかも「もし流産したら?」という不安を抱えながら検索しているので、どうしてもそういった記事ばかりが目についてしまいます。ところが、自分が不安に支配されている渦中はこれに気づかず、どんどん不安になって検索し、さらなる泥沼にハマっていきます。

妊娠に関する記事の中には、医師が監修したものや、妊婦さんの体験記がたくさんあります。でも、状況は人それぞれ。ネット情報は参考程度にして、本当に不安なことがあったらお医者さんに聞く。または、ネットで不安になるくらいなら検索をしない。その方が精神栄衛生上、とってもいいです。とはいえ、不安で検索してしまうものなのですが……苦笑。

「アドバイス」が「助言」から「脅迫」になる瞬間

ネット検索の沼もそうですが、先輩ママさんからの助言も、時に私を沼に引きずり込みました。食べ物や飲み物に関する助言、旅行や運動に関する助言、妊娠中の性行為に関する助言、服装に関する助言。

もちろん、みなさんご自身の経験を元に、新米妊婦を心配してアドバイスしてくれています。ところがこっちは右も左もわからないで混乱している状態。アドバイスする側は「これは気をつけたほうがいいよ」くらいの軽い気持ちで言っているのかもしれませんが、聞く側は「赤ちゃんに対して取り返しのつかないことをしたんじゃないか!?」と過剰にショックを受けます。特に妊娠初期は胎動を感じられるわけでもなく、妊婦健診などで産婦人科にいかない限り赤ちゃんの状態がわかりません。

私の場合、妊婦が避けたほうが良いと言われる食べ物を軽い気持ちで食べたあとに先輩ママさんに叱られるということがありました。帰りの電車の中で人目があるにも関わらず不安でボロボロ泣きました。2週間後の妊婦健診まで「食事のせいで赤ちゃんになにか起きていたらどうしよう」と気が気じゃなく、当日エコーで我が子を確認できた時に再び号泣しました。

新しいいのちを抱えていると、右か左を選ぶだけでも人生の一大事というくらい気を張ります。そういうときは、「助言」がまるで「命令」や「脅迫」くらいの強さで聞こえてしまうことがあります。やさしさで言ってくれているのはもちろんわかっているのですが、深刻に受け止めすぎてしょっちゅう苦しみました。アドバイスを受け取る側は「これはこの人の経験を元にした助言なんだ」と穏やかに聞くことができたら、もっと気持ちよく自分の生活に役立てられたな、と思います。

妊娠は人それぞれ、その時々。自分のルールを定めよう。

そんな、不安で毎日泣いて過ごす新米妊婦も、安定期を通り越して、気づけば妊娠8ヶ月。マタニティライフにもだいぶ慣れてきました。妊娠初期のことを振り返ると、「あれは過敏すぎたな」とか「泣くほどのことではなかったな」と思うことが多々あります。

最近思うのは、「妊娠中の禁忌」というのは、日本人にとっての“宗教”みたいなものなのかもしれないな、ということです。厳格な人もいれば、キリスト教のイベントであるクリスマスの1週間後に初詣に行く人もいる。どれが正解というわけではなく、ぞれぞれの人がそれぞれの幸せを求めて過ごしていて、それを否定しようとしたりするとハレーションが起こる。

厚生労働省や病院がNGと言っていることを行うのはもちろん危険ですが、それ以外のことであれば、どう過ごすかは一人ひとりの妊婦さんや家族の方針に沿って過ごすんでいいんじゃないかな、と今になると思います。

もちろん、注意するに越したことはありません。妊娠全体の15%は流産すると言われていていますし、私自身、妊娠後期まで来ているとはいえ、油断はできません。自分の出来ることや出来ないこと、ストレス耐性などを見極めながら、自分なりのルールを作っていければ良いのではないかと妊娠8カ月の今、思います。

ちなみに、私が色々と不安を吹っ切れたのは、農業に従事する自分の母の体験談を聞いたからでした。

「出産の直前までクワを担いで畑に行っていた。なにかお腹痛いかな? と思って病院に電話したら『それは陣痛だから早く病院に来てください!』と言われ、ついたら数時間でスルッと産まれた。……母親学級? 行かなかったわよ。母親も赤ちゃんも人それぞれなのに、みんなで一律に授業受けなくたって良いでしょ?」と。これは私の母のケースであって、みなさんが参考にするような話ではないのですが、私はいい意味で、チカラが抜けました。

(文・落合絵美/編集・榊原すずみ

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