スープ作家の有賀薫さんと考える、家事としての料理の救世主「スープかけごはん」

『なんにも考えたくない日はスープかけごはんで、いいんじゃない?』を上梓したスープ作家の有賀薫さん。スープかけごはんの魅力や家事としてのごはん作りの経験やアドバイスを聞きました。
有賀薫さん
有賀薫さん

汁ものをごはんにかける。あなたはやりますか?

なんにも考えたくない日はスープかけごはんで、いいんじゃない?』という本が2020年末に発売になりました。

「炒めて、煮立てて、かけるだけ」「ひと皿で完結だから、献立を考えなくていい」といった利点が、日々の料理作りに疲れた人たちの間で評判です。

作者であるスープ作家の有賀薫さんに、スープかけごはんの魅力や家事としてのごはん作りの経験やアドバイスを聞きました。

(聞き手・構成/フードライター 白央篤司)

「スープかけごはん」は行儀悪い?

――この本を作ろうと思われた理由を教えてください。

もともとは編集さんからの提案でした。「スープかけごはんの本を作りませんか」って。というのも、彼の息子さんが保育園でごはんに味噌汁をかけたところ、「お行儀が悪いよ」と注意されたそうなんです。

彼は力説しました。「子どもってごはんに汁をかけるとよく食べるんです。朝の忙しい時間にも助かるし、洗い物も少なくなるし」って。私の子どもも、小さい頃なかなか食べられなかった経験があるので、共感するところも多かった。

もともと私は「スープかけごはん=行儀悪い」というイメージ、なかったんです。食べ方としてすごくアリだと思っていますし。主食とスープを一緒にするというのは世界中にある。ヨーロッパのスープにはパンを入れるものもあるし、韓国だとクッパとか、おいしいですよね。お腹が効率的に膨れるし、スープってもともとそういうもので、私としては当たり前のことでした。

「有賀さんが普段発信しているような、自由な食材の組み合わせでスープを作り、スープかけごはんをもっと素敵に見せられたら、もっと『ラクでおいしい』が広がっていくと思う」という提案をいただいたので、やりましょうということになったんです。

鍋の横に飾られているスープの絵は有賀さんが描いたもの
鍋の横に飾られているスープの絵は有賀さんが描いたもの

スープ作家が、スープかけごはんを作ると…

――この本を作っている間、工夫されたこと、大変だったことはありましたか。

まず、ビジュアルをどう見せるかということ。汁かけごはんって、やはり見た目はそれほどよくないものです。だからといってあまりきれいに作り過ぎても、リアリティがなくなって汁かけごはんの気軽さやおうちごはんの感じが出にくくて。そこのバランスは難しかったです。

料理自体は自然な感じにして、器などでポップさ、楽しさを出しました。

また、制作途中で新型コロナの影響が強くなってきて、私自身も夫がリモートワークになり、三食のごはんづくりが大変になってしまって。その中での制作だったのでけっこうきつかったですね。それだけに「日常のごはんづくりをよりラクに、自由に」というテーマは、まさに世の中から求められるだろうとも感じました。

――「ごはんにかけるためのスープ」となると、もともと持っているスープのレシピに対して、アレンジが必要でしたか。

「味を増やす」ということは必要でしたね。それは味の薄さ・濃さではなくて。具体的にいうと、アクセントになる食材を加えて、最後まで食べ飽きないようにする。

スープ単品なら、他のおかずがあることも多いので、シンプルなものでもいいんですが。例えば本の中でクリームチーズとニンジンと卵のスープカレーというのを紹介しています。普段だったら私は、クリームチーズは加えません。でもごはんと一緒だったら必要かな、と。食べているうちに溶けてきたり、ちょっとずつごはんと汁と混ぜ和えたりすることで、味に変化がついて食べ飽きないんですね。さっぱりと食べたい人はクリームチーズを減らすか、のせなければいい。濃いのが好きな人なら増やす。家族の中でも好みはいろいろですから、そこだけで味の調整もしやすい。そんな感じで、トッピングに関して工夫をしましたね。

クリームチーズとにんじんと卵 たどり着いた究極のスープカレー
クリームチーズとにんじんと卵 たどり着いた究極のスープカレー

料理は自分の習慣を変えるきっかけになる

――発売後、「お行儀が悪い」的なリアクションはありましたか。

やっぱり、賛否両論。直接そんなに言われはしませんでしたが、「おいしいだろうとは思うけど、私は抵抗ある」という人はいました。それはしょうがないですよね、これはもう習慣ですから。

――ごはんと汁物は別々に食べるものだ、という習慣。

そうです。習慣を変えるって、本当に難しいこと。まず気づかないんですよ、自分の習慣って。だからマンネリになってしまうわけですが、かといって自分の習慣ではないものを示されると抵抗を感じるんです。

料理に関していうと、たとえば食材の切り方ひとつでも無意識でみんなやっている。いつも同じように、いつも同じサイズで切っている。そういう無意識の部分を変えてみたときに、味ってガラッと変わるんです。ベースになる部分を変えないと、あまり変わらない。でもそこは、なかなか動かせない。

――重要な指摘ですね。無意識にいつもと同じような食材を選び、同じように切って、同じような塩加減で料理をしている。料理にマンネリを感じるときって、多くの人はそこで塩味じゃなく、醤油味にしよう、味噌味にしよう、あるいはコンソメで煮てみよう、ぐらいの変化になる。でも、それじゃ根幹の部分は変わっていないから、大きな変化を感じられない。マンネリを打破できないというか。

そういうことなんですよ。「スープって私、全部同じ味になっちゃうんです」という方すごく多い。よく聞いてみると、いつもブイヨンキューブで作っている。そして多くの方が入れすぎ。そういうときはブイヨンキューブを使わない、あるいはごく少量から使ってみる。

いつもブイヨンキューブやだしの素を使ってる人が普段と違うものを作ってみようと思うなら、「入れない」を体験してみる。素材の味と塩だけも味は成立するから。

そして切り方ひとつでも、たとえばキャベツならざく切り、千切り、またはちぎったときで味の出方が違う。それぞれの切り方でお味噌汁に入れてみると味の感じられ方が変わってきます。そういうことを知ると、料理って面白くなってくる。応用も効くようになっていきます。

読者に人気の「じゃがいもと豚バラのピリ辛スープ」
読者に人気の「じゃがいもと豚バラのピリ辛スープ」

――この本はごくシンプルなスープから、手の込んだものまで幅広く収録されているのも印象的でした。黒酢やナンプラーといった調味料、レモングラスやサフラン、五香粉などのハーブやスパイスも登場しますね。

簡単に作れる楽しさと同時に、「世界にはこんなスープもある」「こんな調味料を入れることで味がガラッと変わる」といった楽しさも伝えたい、ということもテーマでした。スープのバリエーションを増やすことで、より多くの層に届けられたらという思いもあります。

「スープかけごはんで、いいんじゃない?」に込められた意味

――この本は、タイトルが一番のポイントだったと思うんですね。

はい。「で、いいんじゃない?」という問いかけ。「私はアリ」「私はナシ」が話題になってくれたらと思うんです。新型コロナの影響もあって、日常の食事作りが大変になっている人もいる中で、「スープかけごはんでもいいんじゃない?」という投げかけが、より多くの人に届くといいな、と。

――「なんにも考えたくない日は」という言葉にも、料理から気持ちが遠ざかってしまう人へのケアが感じられました。

スープかけごはんって、忙しく働いている間の手軽な食べものとして普及してきた歴史もあります。宮崎の「冷や汁」とか、山形の「だし」もある意味そうですよね。日々生活していたら、そんなにいつも食べることに100%かけていられないですよ。

薬味どっさり鶏の麦茶漬け
薬味どっさり鶏の麦茶漬け

――日々の料理に悩んでる人って、100%やろうとして疲れている方が多くないでしょうか。

100%やろうというよりも、「100%やれと言われて疲れている」ような気がする。自分は親からそうしてもらったからとか、あるいは社会からそう言われていると感じている。

Instagramなどを見ていると、ものすごくきちんとした家庭料理が出てきて、多くの主婦の人が後ろめたさを感じているんじゃないかな。でも、SNSが出てくるまでは、そんなにみんな気にしてなかったんですよ。誰に見せる料理でもなかったから。今の時代は「やっぱりちゃんと料理しなくちゃダメなのか……」みたいな雰囲気が醸成されていきやすいというか。

――この本を読んだ方が、どう感じてくれたらいいなと思いますか。

「今までやったことなかったけど、やってみたら、いいかも?」ぐらいのカジュアルな感じで、スープかけごはんを楽しんでもらえたら嬉しい。ただラクなやっつけごはんではなく、おいしくて楽しいを目指して作りました。

スープかけごはんは、もともと私たちの生活でおなじみのもの。「つゆだく牛丼」だっていわばスープかけごはんですから。スープを食卓の真ん中において、めいめいが好きな量をかけて楽しんでください。おつゆの多いほうがいいか、少なめがいいか、自分好みにできるのも良さのひとつ。先にスープの具をおつまみにして飲んで、シメに汁かけごはんを楽しむなんてのアリですよ。

トッピングの具材を他に用意して、それぞれ自分なりにカスタマイズするような楽しみ方もできます。鍋料理に近いような感覚ですね。それにかけたい人だけかけて、分けて食べたい人は分けたっていいんですから。

家事としてのごはん作り、有賀さんの悩んだこと

――家族内でも好みや習慣の違いはいろいろですよね。有賀さんは日々のごはん作りをされていて、家族の好き嫌いに悩んだことはありますか。

(即座に)ありますよ! うちの夫は好き嫌いがかなりあるんです。でも、食べものって世の中にいっぱいある。家族が苦手なもの以外の食材もいーっぱいあるわけですよね。そんなふうに考えるようにしていて。

夫に好き嫌いがあることで、料理の幅が広がったなとも思うんですよ。夫は酢っぱいものが苦手なんですが、ちょっと甘みを加えてみたら大丈夫かなとか、いろいろ加減してみたり。同時にあまり気にもせず「嫌だったら残してー」と出してもいましたね。自分が食べたいものだって作りたいですから。

ご家族が食べてくれない大変さ、すごくよく分かるんです。ただ「そんなに顔色をうかがわなくてもいいんじゃない?」って思うこともあります。私は家族の好き嫌いを受け入れて工夫もしましたけど、突っぱねる部分もありました。

――有賀さんは料理することだけでなく、家事における料理のあり方、作る人の意識に関してもメッセージを多く発信されています。どういう思いがあるからでしょうか。

私のフォロワーさんは若い方も多いんですが、その方たちの悩みを聞いていると「一体いつの時代⁉」と感じることがとても多いんです。子どもを育てながらワンオペでごはん作って、夫は何もやってくれなくて……という人の多さ。私の母の世代の悩みと全然変わっていない。「もう変わってもいいんじゃないの?」ってすごく感じます。

私は共働きでライターをしながら子育てしていたんですが、取材先に行っても授乳室なんてないのが当たり前で、事務室の物かげを貸してもらって授乳させながら仕事したこともあったんですよ。

話を聞いてみると、その頃から設備などがちょっと変わっただけで、メンタルは全然変わっていないように感じる。この20年ぐらい何も変わらなかったのだろうか、私達何をしてたんだろう、もうちょっと私の世代が声を上げていかなきゃいけなかったんじゃないか、って思うんですね。

でも女性って、自分が「主役」だとあまり思っていない人が多い。特に専業主婦の人達って、誰かが変えてくれるだろうとずっと待っている。そうじゃなくて、キッチンの中から、生活をしている人が声を上げなきゃいけない、生活者の立場から訴えていくことの大事さをこの頃特に思うんです。

リビングには、有賀さんが開発した新時代のごはん装置「ミングル」がたたずんでいた。ミングルには、水道、IHコンロ、食器洗浄機が組み込まれており、リビングにキッチン機能を持ち込むことで、みんなが料理できる。
リビングには、有賀さんが開発した新時代のごはん装置「ミングル」がたたずんでいた。ミングルには、水道、IHコンロ、食器洗浄機が組み込まれており、リビングにキッチン機能を持ち込むことで、みんなが料理できる。

〈有賀薫さんの新刊、発売中です〉

有賀薫 ありがかおる
スープ作家 1964年、東京生まれ。2011年より1日1皿のスープ作りを始め、SNSに発表したところ評判を呼ぶ。「ラクで楽しい」レシピ作りに定評がある。第7回料理レシピ本大賞入賞。著書多数。Twitter, note

(聞き手・構成: 白央篤司 編集:笹川かおり