4割が「価格と味が同じなら、植物由来の代替肉を選ぶ」と回答。変化する消費者の意識

おもしろいことに、肉を大量に食べ、毎年多くの資源を肉の生産に費やしている国ほど、半数以上の消費者が本物の肉よりも代替肉を選ぶと答えた。
植物由来の代替肉を使ったピザ (Image:Impossible Foods)
植物由来の代替肉を使ったピザ (Image:Impossible Foods)
サステナブル・ブランド ジャパン

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の食料の約75%は12種類の植物と5種類の動物が原料となっている。一部の食料に集中することで、食料システムは病気や害虫、気候変動などによる脅威に対して脆弱だ。地球環境との共存や世界的な人口増加を考えると、食生活の在り方の見直しはこれからますます必要になる。調査・コンサルタント会社グローブ・スキャンが昨年、日本を含む27の市場、約2万7000人を対象に『健康的で持続可能な生活』について行った調査によると、人々はより健康的で持続可能な生活をするために行動を変えようとしているという。とりわけ新興国・途上国はその傾向が高く、環境への影響に対する罪悪感も先進国より強かった。一方、27の市場の中でも日本、スウェーデン、オーストラリアが最も行動変容に消極的だったという。

コロナ禍で、多くの人が退屈や憂うつ、心配と戦い、精神面での健康を高めるための対処法として運動をするようになった。ホームフィットネス機器の市場は、2020年には40%以上の成長を遂げ、オンラインフィットネス事業を展開する米ペロトンだけでも今後4年間で600億ドル(約6兆6000億円)の価値になる可能性がある。アナリストたちはアップルやネットフリックスなどと同様の軌跡を辿っていると指摘する。(翻訳=フェリックス清香)

健康な体づくりは、コロナ以前から人気が高まっていた。世界中でフィットビットやアップルウォッチのようなフィットネス用のトラッキングデバイスの需要が2019年から32%上昇したことからも、それはわかる。私たちは今、かつてないほど自分自身の体について考えるようになっている。

このことは、調査・コンサルタント会社グローブ・スキャンの実施したグローバルな消費者インサイト調査の結果からも明らかだ。グローブ・スキャンのレポート『健康的で持続可能な生活(Healthy & Sustainable Living)』は、「ウェルビーイング」が老若男女問わず、すべての市場の消費者のもっとも関心を寄せる分野だと明らかにしている。グローブ・スキャンのCEO、クリス・コールター氏は次のように説明する。

「消費者には、自分のライフスタイルをより良いものに変えたいという強い願望があります。健康は世界中の消費者が最も変えたいと思っている領域です。そして、おそらく驚きはないでしょうが、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響によって、過去1年の間に世界中の消費者が最も変化した分野でもあります」

調査によれば、病気を予防し、心身ともに生活の質を向上させるための消費者の変化は、食事法や運動を中心にしている。健康的で栄養価の高い食事をとり、家族や友達と時間を過ごし、家で食事を準備し、地元でとれた食材を食べ、自然の中で時間を過ごすことが、願望として挙げられている。

すべての世代が、次世代のために地球の健全性を確保するためという名目で、全体的により資源の消費を減らす必要があると考えている。それには、肉食を減らすことも含まれる。

牧草地のための開墾や、飼料の生産、牛や羊が排出するメタンガスなど、さまざまな要因により、肉と乳製品の生産は地球の温室効果ガス排出量の14.5%を占める。肉食をやめることは、環境危機の回避に大きなインパクトをもつ可能性がある。

代替肉への消費者の期待は高まるばかり

グローブ・スキャンの調査によると、世界の消費者の40%が、価格と味が同じであれば、植物性代替肉を選ぶと答えている。このことは植物性代替肉の市場が順調に拡大していることにも裏付けられている。この市場は年率約9%で成長しており、2025年までに384億ドル(約4兆2000億円)の規模になると見込まれている。

スウェーデンのバーガーチェーン「マックス・バーガーズ(MAX Burgers)」は4年前に植物性バーガー「デリフィッシュ」を発売したが、その時点から売上高は1100%増加した。昨年4月、米国の植物性代替肉ブランド「ビヨンド・ミート(Beyond Meat)」の株価は、植物由来の食品に対する消費者の関心の高まりと、スターバックスとの提携が話題になったことにより、49%も急上昇した。また、ビヨンド・ミートの株価は、ペプシコとのジョイントベンチャーの立ち上げにより、今年初めに再び急上昇した。

一方、ビヨンド・ミートの競合であるインポッシブル・フーズ(Impossible Foods)は、昨年、ラム肉や山羊肉、魚の植物性代替食品をレパートリーに加えるため、5億ドル(約547億円)の新規資金調達を行った。

世界中の肉を食べる人たちの大部分は、今でも植物性の代替肉よりも本物の肉を好むが、10人に4人は価格と味が同じであれば植物由来の代替品を選ぶと答えている。実際、調査対象27カ国のうち、アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、メキシコ、タイ、ベトナムの7カ国では、半数以上の消費者が本物の肉よりも代替肉を選ぶと答えた。おもしろいことに、これらの国のほとんどは肉を大量に食べ、毎年多くの資源を肉の生産に費やしている。

インポッシブル・フーズのコンシューマーインサイト&アナリスティック・ディレクターのジョー・ラム氏は「味がすべて」だと言う。多くの消費者はより良い食事をしたいと望んでおり、そのための解決策は、食事で果物や野菜野菜を増やすにせよ、肉の消費を減らすにせよ、たくさんある。しかし、肉食をやめて代替品を試すとなると、大変です。「なぜなら、味を犠牲にするからです」とラム氏は言う。

「消費者は、既存のソリューションを『ダンボール製ハンバーガー』と表現します。インポッシブル・フーズのような企業がやってきて、『肉そっくりの味です』と伝えるハードルは非常に低いんです。人々はひどく疑いながらも、興味を持ちます。一度、試してみれば、消費者の考えは吹っ飛びます。なぜなら、私たちの商品は、味に対して抱いている低い期待を打ち壊すからです。一方で、肉を断つのは健康的ではないといまだに考えている消費者もいます。『肉のない食事は、食事ではない』とよく聞きます」

企業は動向を注視

レポート『健康的で持続可能な生活』の環境意識に関する調査。質問は、左から「地球環境を守るために個人的にできることはすべてやっている」「地球環境に悪影響を及ぼすことに罪悪感がある」「自分にとって良いことが地球環境にとって良いことではない場合がよくある」。表は、これらの質問に「非常に賛成」「やや賛成」と回答した割合を記している。
レポート『健康的で持続可能な生活』の環境意識に関する調査。質問は、左から「地球環境を守るために個人的にできることはすべてやっている」「地球環境に悪影響を及ぼすことに罪悪感がある」「自分にとって良いことが地球環境にとって良いことではない場合がよくある」。表は、これらの質問に「非常に賛成」「やや賛成」と回答した割合を記している。
サステナブル・ブランド ジャパン

肉を避けることによる栄養面や環境面のメリットに関しては、ビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズのような新しいプレーヤーに並んで、ますます多くのグローバルブランド、メーカー、小売業者が、消費者が良い解決策を導けるように手助けをしている。

世界最大の家具小売業者でもあるIKEAは、世界最大級のセルフサービスカフェテリアを運営している。昨年11月、同社は2025年までに、カフェテリアで提供される50%の肉を植物性のものにし、80%のものをレッドミート(牛肉や羊肉)以外の食品にすると約束した。同社は、健康的で持続可能な選択肢を、新商品の植物性代替肉ミートボール「HUVUDROLL(フヴドロル)」を、同社の人気商品のスウェーデンミートボールに匹敵するものにすることで、植物性の食品が非常においしくなりうると証明し、顧客にとって最も望ましい選択肢にすると述べている。同社によれば「HUVUDROLL」は味や食感を損なうことなしに、気候フットプリントは従来のミートボールのわずか4%に抑えているという。

消費財大手ユニリーバも肉と乳製品の代替品事業を拡大している。2018年に、同社はオランダのベジタリアンブッチャー(The Vegetarian Butcher)を買収し、このブランドを45カ国に展開している。同社は今や、バーガーキングの植物性のワッパー(ハンバーガー)を欧州、中東、アフリカで供給する。一方、アイスクリームを手がけるマグナムの、初のヴィーガンのマグナムバーは、ヘルマンのヴィーガンマヨネーズや、ベン&ジェリーズの乳製品を使わないココナッツキャラメルと同様に、多くの賞賛を集めている。また、ユニリーバは8500万ユーロ(約113億円)を投じてオランダにフード・イノベーション・センターを設立しており、間違いなく今後数年でこの代替肉のビジネスが継続して成長すると見越している。

スナック菓子と飲料の大手ペプシコも、このチャンスをつかんでいる。

ペプシコのグローバル・チーフ・コマーシャル・オフィサーのラム・クリシュナン氏は米サステナブル・ブランドに対し、「植物性タンパク質を求める声は、消費者のより栄養価が高く、環境に配慮した製品を、という要求とともに、今後ますます高まっていくでしょう」と語る。同氏は、10代の若者47%が植物性代替肉を消費しているか、消費に前向きであり、Z世代の約65%が代替肉に魅力を感じているという調査結果を紹介している。

代替肉を使った餃子 (Image:Impossible Foods)
代替肉を使った餃子 (Image:Impossible Foods)
Anthony Lindsey Photography

拡大する需要はチャンス

こういった市場動向を受けて、ペプシコはビヨンド・ミートとの新たなジョイントベンチャーを設立し、「ポジティブな選択を促す、新しい製品ラインナップを開発する」ことになった。いわゆるPLANeTパートナーシップは、ビヨンド・ミートの植物性タンパク質開発における技術と、ペプシコの商業的影響力を活用し、植物性タンパク質のスナックや飲料を作り、拡大していく。ペプシコはすでに、「Sabra Snack Cups」というカップ入り菓子、そのまま飲めるガスパチョ「Alvalle」、飲料の「Evolve」、「Off the Eaten Path」というチップスを販売している。ビヨンド・ミートとの契約によりこの商品ラインの拡大が期待される。

「健康志向と環境に配慮した購買は、食品・飲料分野の長期トレンドです」とクリシュナン氏は言う。「植物性製品への関心は高まるばかりであり、今後10年間に消費者の要望によって、新しく、手頃な価格で、入手しやすい、肉を使わない製品が市場に登場する。私はそう確信しています」

グローブ・スキャンの調査が示すように、大部分の人々にはまだ、慣れ親しんだ習慣を変えるために、健康や栄養、環境面のメリットをもって説得する必要があるかもしれない。多くのものと同様、お金がものをいう、とクリシュナン氏は言う。「味は非常に重要です。しかし、もし世界中の人々すべてに変化を起こそうとするなら、価格がすべてなのです」。

インポッシブル・フーズは最近、まず食品サービス部門で、次に小売部門で、値下げを発表した。

「私たちが価格を下げれば、オーガニックではない放牧牛を食べている消費者に市場が開かれます。最初は、それがとても高価でも、人々は製品を試してみたくなるくらいの好奇心は持っています。しかし、リピーターになり、食習慣になっていく過程において、価格は非常に重要な要因になります」

ブランドができる最も重要なことは、大きな行動の変化を必要としない製品を作ることだ、とクリシュナン氏は主張する。

「私たちはやれることをやり、好きなものが好きなのです。それを変えるのは非常に難しい。インポッシブル・フーズのバーガーがすばらしいのは、環境に負荷を与えることなく、ただ消費者が好きなものを提供することなのです」

肉をベースとした食事方法からの移行を望む声があるのは明らかだ。これは、気候危機だけでなく、さまざまな医療問題の解決にも有効だ。しかし、ビジネスには重要な役割がある、とコールター氏は言う。

「ブランドは、イノベーションと投資をし続けなければなりません。そうすれば、製品が手頃な価格で手に入りやすくなり、楽しいものになり、人々が変化を簡単に、長期的に行えるようになるのです」

【関連記事】



注目記事