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2021年12月27日 18時00分 JST | 更新 2021年12月27日 22時50分 JST

「上から目線」や「大きすぎる主語」では伝わらない。"シャープさん"がSNS発信で実は心がけていたこと

なぜ専門家や企業の言葉はうまく伝わっていかないのだろう?医療コミュニケーションやSNS上での対話の難しさについて話し合う「#SNS医療話」で、シャープ公式アカウント"中の人"の「シャープさん」と話し合いました。

Twitterのシャープ公式アカウント、通称「シャープさん」。

宣伝やPRばかりの企業アカウントとは違って「中の人」の体温を感じるユニークなツイートが人気で、82万人超のフォロワーを誇っています。

SNSの達人「シャープさん」に発信の極意を聞いてみたい!

ということで、医療コミュニケーションやSNS上での対話の難しさについてTwitterの音声配信機能スペース話し合う「#SNS医療話」の特別ゲストとしてお迎えしました。

がん研究者で医師の大須賀覚さん(@SatoruO)、病理医ヤンデル先生こと医師の市原真さん(@Dr_yandel)、編集者のたらればさん(@tarareba722)、ハフポスト日本版の南麻理江(@scmariesc)に、特別ゲストとして「シャープさん」(@SHARP_JP)を迎えた60分。 

シャープさんの名言連発の配信内容をダイジェスト版でお伝えします。

(※記事化にあたり発言やその順番は一部加筆・再編集しています)

 

「上から目線」や「大きすぎる主語」では伝わらない

大須賀覚さん(以下「大須賀さん」):ヤンデル先生や私は、どうすれば正確な医療情報を多くの人に届けられるかを日々追求しているのですが、シャープさんのSNSでのコミュニケーションには、そのためのヒントがたくさん隠されているなと日頃から感じています。

例えば、企業の公式アカウントなのに、自社製品の良さを伝えるときも直球勝負はしませんよね。スカしの美学とでもいうのか、微妙にコースを外すような球を投げている。それが結果的に膨大な数の人に情報を届けることになっている。

ほとんどの医療従事者はド直球でしか医療情報を投げていません。難しい情報をそのまま渡そうとしたりしている。だからコミュニケーションに距離が生まれてしまうし、新型コロナの正しい情報もなかなか届けられない。

そういう悩みを抱えながらシャープさんのTwitterを見て気がついたのは、すごく「個人」を感じさせますよね。企業なのに主語が「我々」や「わが社」ではなく、「私」ですよね。

シャープさん:今、指摘されてびっくりしました。主語を「私」にすることは、Twitterを始めるときに実は決めていたことなんです。

僕はSNS担当になる前は、テレビCMや広告の担当をしてたんですね。で、基本的に広告ってキャッチコピーは「わが社/我々は~」じゃないですか。言うか言わないかは別として、その主語が持つ大上段ぶりこそが、広告が嫌われる原因だろうなとずっと思っていました。

だから、嫌われている前提でどうコミュニケーションをしていくか。それがSNS担当としての自分の課題だったんですね。多分、正しい医療情報が伝わりにくいこととも底でつながっている気がしますが。

それで考えたのが、主語を一人称の「私」に引きずり下ろしてツイートすることでした。

 

「病理医ヤンデル」こと市原真さん(以下「ヤンデルさん」):そこで「引きずり下ろす」という言葉を選ぶセンスが面白いですよ。

シャープさん:広告や医療情報も、上から下へ鯉に餌を撒くような構造になっていますよね。知らない人に知らせる、買いたい人に情報を与える。啓蒙、あまねく広く伝えることは、それ自体が上から下へという構造を内在させていると思うんですね。

大須賀さん:わかります。

シャープさん:でもSNSって友達や自分の好きなものを集めてコミュニケーションをする場ですよね。そこに「上から下」という原理を持ち込むこと事態がたぶん難しいはずなんです。そこに気づかない人が多い。

広告やマーケティングのような仕事をしていると、お金をかけて何人に振り向かせるとか、何クリックさせるかとか、全部リターンで考えてしまうんです。ずっと広告をやっていた僕の中にもその思考が染み付いていましたから、そういう自分を消す訓練をしなきゃいけないな、という気持ちがまずありました。

大須賀さん:医療者はまさにそうで、残念ながら上から目線で物を言ってしまう方もいらっしゃいます。ワクチンを打ちましょうと伝えるのに、「なぜこんなに効くものを打たないんだ?バカ野郎」くらいの人もいますからね。

だけど本当は横に立って寄り添えるかが大事なんですよね。「新しいものですから不安に感じるのは当然ですよね。わかります」という視点で語れるかどうか。同じ内容を言っていても、そこで伝わるか伝わらないかが違ってくる。

Twitterを始めた時、社員を「半分やめた」

たらればさん:医療も製造業も、基本は集団戦ですよね。みんなでいい治療法や製品を作って、改良していく世界。僕もSNS上でついうっかり「編集者は」「出版業界は」と使いたくなっちゃうことがあるんですよ。大きな幹に寄って、ラクな語り口で話したくなる。

でも、個人と個人として握手していくためには、それと決別しなきゃいけない、と。……しんど!(笑)

シャープさん:しんどいです。大きな主語は確からしさの担保ができますし、それがふさわしい場所もあります。あくまでTwitterに足を踏み入れるのであればそこは手放さないと、という話です。「わが社は」とか言っているツイートを誰が見るねん、っていう話です。そこは優先順位ですよね。

大須賀さん:シャープさんは自社の失敗も、軽い批判を交えて笑いに変えたりしてるじゃないですか? ああいうのはフォロワーと距離を縮めるために意識的にしているんですか?

シャープさん:僕はこの仕事を始めてわりと早い段階で「半分、社員をやめよう」と思ったんです。よく会議で「お客さまの目線に立って」と言うおじさんとかいっぱいいますけど、そこに座ったまま彼らはそう言っているんです。

でもお客さまに近づこうと思ったら、自分から行くべきですよね。

だから半歩だけ会社をやめて外からツイートしようと思いました。半歩外だから、お客さんと距離は近くなる。でも振り返れば外から会社も見える。

広告が信用されづらい時代にあって、会社から半歩外に出て自分の会社のことを自分の言葉で語る、という振る舞い自体が信頼を勝ち得るんじゃないかなと思って、ずっとやってきています。

大須賀さん:悪いところを隠さず、自己批判できる人が信頼される。医療でも同じだと思います。

シャープさん:でも会社からはみ出るわけだから、当然怒られるんですよ。それでもある種の覚悟というか、僕はそっちがいいと判断してやっています。

怒っている人って、「もしまずいことが起きたらどうするんだ」って怒るんです。だから、まずいことは起きないんだと示し続けていくしかない。やったことないことを証明するには、やって見せるしかないわけですから。

Twitterであればリプライとか「いいね」の数とかで、「ほら、怒ってないよ?」と見せられますよね。Twitterは鬼や修羅ばっかりがいると思っている人もいるんですけど、修羅だって24時間修羅なわけじゃないですから。

コロナ関連情報発信の難しさ。結局は「誰が言うか」だからこそ…

たらればさん:この2年はコロナ関連のさまざまな情報発信がありました。シャープさんから見て医療情報のSNSのあり方で改善したほうがいいと感じる部分はありますか。

シャープさん:身も蓋もないことを言うと、SNSは結局「誰が言うか」と「誰から伝わるか」の2点が全てだと僕は思っています。

影響力がある人が言えばそうかと聞く人は多い。インフルエンサーという職業が成立するのも「誰が言うか」の「誰」になれる人が一定数いるということですよね。

今は多くの人が医療情報を含めた世間のニュースをSNSで見ています。わざわざニュース番組や新聞を見ているというより、友達がシェアしたり、引用リツイートしたりするニュースにかろうじて触れているという感じじゃないでしょうか。

SNSはシェアの発明だと初期は言われていましたが、今は「そのニュースは誰から伝わるか」の「誰」を担保できるのがSNSだと僕は思っています。

そうした前提の上で、コロナ禍のSNSでは「誰」が乱立している印象を受けました。

ひょっとしたら「(この人が言ってるから信頼できると思われる)誰」になりうる人たちがアベンジャーズみたいに1つのチームになっていたら、発信力が格段に上がって、正しい情報が広がる道筋ができたかもしれない。そうなっていれば、今のような分断ももう少し防げた気がします。

たらればさん:ふ~む。コンテンツ論かと思ったらキャラクター論になってきましたね。

シャープさん:僕はSNSは、壁に囲まれた狭い世界だと思っています。たまに壁が破れて社会が覗けるときもあるけど、ほとんどは狭いスペースの中だけでやりとりが行われている。その壁を突破して広いところに行くためには、「誰から伝わるか」をもう少し設計しないと厳しいのでは、と思います。

大須賀さん:例えばワクチン情報だと、政府や医療者がワクチンの安全性を示すデータをいっぱい盛り込んで発信するよりも、有名な芸能人が「私、打ちました」って写真を載せる方がインパクトあったりするんですよね。医療界も情報の伝え方でもっと考えるべきことがあるのだと思っています。

信頼されて、「ハブ」になる。

たらればさん:インフルエンサーってフォロワー数が多い人と思われがちだけど、そうとも限らないですよね。「この人なら信じられる」と5人に思われる相手であれば、その5人が別の5人に伝えていけばいい話なので、フォロワー数はあまり関係ない部分もある。実は一人ひとりが周囲に信用されるように振る舞いましょう、ということなのかな。

ヤンデルさん:シャープさん、最近「きょうの晩ごはん教えて」ってツイートしてるじゃないですか。あれはシャープさんのツイートがハブになって、どんどんスレッドにリプライが繋がっていくという、伝えていく人たちを拡張する取り組みですよね。あれ、すごい発明だなと思っていて。とにかく今日は本当にそれだけを伝えたかったんですよ。

シャープさん:そうですね。あれはそういうことをやらないと限界があるな、と思ったんです。

ヤンデルさん:誰かが「きょうの晩ごはんはこれ」と自分のメニューを人におすそ分けしてもいいかなと伝える。それが巡り巡って、別の誰かが受け取っていく。あなたのやったことは「自分が伝えたい」じゃなくて、伝えたい人たちのハブになったってことでしょう。一足飛びに10年くらい早送りした仕組みだと感じました。

 「伝えたいタイミング」と「知りたいタイミング」のズレを解消するには?

大須賀さん:医療の世界の情報発信って、興味のない人に伝えなきゃいけないんです。がんの情報は、本来はまだがんになっていない人に伝えたい。でも皆さん、がんになって初めて調べますから、慌ててネットを見て詐欺的な情報にガンガン引っかかってしまう。

できれば健康なうちに基本的なことを知ってほしいのですが、興味がないからそこが難しい。興味のない人にいかに興味を持ってもらうか、これはシャープさんも企業としての課題だと思いますが、どう考えていますか。

シャープさん:企業側は最新の製品をバーンって発表しますけど、実際にお客さんが家電の情報を欲するのは壊れたときなんですよ。それは病気になったときに初めてその情報を欲するのと似た構造ですよね。

本当は検索されたときに、正しいものが伝わる、有益な情報が表示される仕組みを作るのが基本だと思います。

家電であれば「大きな冷蔵庫」と検索したときに、(医療に比べて)そこまでおかしいことはないんです。各社の製品が出るし、買えるサイトが出てくる。冷蔵庫が壊れた人にとっては有益な結果だと思いますが、これが病気になると様相が違いますよね。検索結果に出る景色がぎょっとするものが多くなる。

大須賀さん:そのとおりです。

シャープさん:であれば、ここをまずあるべき姿、検索結果で正しい情報がきちんと出るようにしないといけないですよね。でも今のところはSEO対策などお金しか解決手段がない。だから根深い問題ですよね。

大須賀さん:医療業界としてもその課題はクリアしていかないといけないのですが、やっぱり現状はなかなか難しい。正確な治療よりも、不正確な情報のほうがインプレッシブで拡散がしやすいですからね。

さっき「家電を欲するのは家電が壊れたとき」とお話されてましたが、そこで相談される立場になるためには信頼が必要ですよね。家電が壊れた、じゃあシャープのアカウントを見ようかな、となる状態にまであらかじめ持っていく。そこに勝負がある?

シャープさん:はい。僕のアカウントには一日に数十件ほど「家電が壊れたのでどれを買ったらいいですか」って相談が来るんですよ。それには全部返信するというか、それこそが僕の本領発揮だと思っていて。

一対一のやり取りなので基本的には見えないのですが、そのときのために僕がいると思っています。

たらればさん:すごい、リアル『キャッチャー・イン・ザ・ライ』だ! 

シャープさん:そういう普段のコミュニケーションの中には、検索を超えるくらいの力があるとも思っています。検索したときに見える景色をどうにかする問題と、その人にとっての毎日のコミュニケーションをどうするかという問題。これらは両輪です。検索結果を僕の力でどうこうするのは難しいですが、この両輪を回すことで情報が正しく伝わる仕組みを形作っていけるのではないでしょうか。

SNSのどんな反応に傷つく?

ハフポスト 南:最後に一つ私からも質問させてください。SNSでの誹謗中傷が深刻な社会問題になっています。また、明らかなヘイトやクソリプでなくとも、傷ついたり落ち込んだりする反応もあり、精神を削られていったりするケースもあります。SNSの達人ともいうべき皆さんから見て「こういうリプライや態度は人を傷つけるんじゃないの?」というものってありますか。

ヤンデルさん:僕は自分に対して言われることでは一個もないですね。コロナや災害で苦しんでいる人がいるといったニュースを見て心を痛めているというのはすごくありますけどね。自分に向けられたものではあまり傷つかないですね。

シャープさん:僕もあまりないんですよね。ただ、それは僕の半分が会社員だからです。自分の全部を差し出しているわけではなく、半分の自分は守れているので、色々あってもまだ耐えられるというところがあるんですよね。これは「半分」の効能だと思います。

大須賀さん:僕は最近はそんなに堪えなくなってなってきましたが、唯一堪えるのは同業者からの批判ですかね。もちろん的を射た批判であれば受け止めますが、自分が色々考えた上でやっている方法を理解してもらえないまま批判されているように見えると、すごく堪えますね。

たらればさん:このメンバーで一番の匿名個人は私だと思いますが、私は毎日本当にめちゃくちゃ傷ついてますよ! 

逆に本名でやっていたらここまで傷つかないと思うんです。今やっている編集長の仕事を公式で批判されても全然平気です。

でも、この匿名アカウントというのはの自分にとって使い古したシャツみたいな存在というか、ある意味で精神が仮託されたテキストの集合であったりして。それが批判にさらされると、心に直でダメージが来るんですね……。

シャープさん: スヌーピーのライナスでしたっけ。ボロボロの毛布を持っている男の子いましたよね。彼はあの毛布の悪口を言われたら、多分めちゃくちゃ怒るはずなんですよね。要はあれって自分自身だからです。たらればさんの話は、何かそういうところがあるかもしれないですね。

たらればさん:そう、それと完全に一緒です。(匿名アカウントでは)自分の柔らかい部分だけが出ているから。だからTwitterでムキになって反論する人って、多分毛布をとられて傷ついているんじゃないかな。

南:ライナスの毛布…!なるほど……。それぞれの回答が示唆に富んでいて、情報の送り手としても受け手としても参考になります。それにしても最初から最後まで濃密すぎる60分でした。ありがとうございました。

 

(企画・編集:南 麻理江/執筆:阿部花恵)