「Tシャツ3枚分の月給」で1日1600枚のTシャツを作る女性たち。グローバル経済の不均衡を前に私たちにできること

映画『メイド・イン・バングラデシュ』は、「世界の縫製工場」と呼ばれるバングラデシュで働く女性たちの戦いを描いた作品だ。ファストファッション業界を支える「知られざる人々」を浮かび上がらせた、ルバイヤット・ホセイン監督に話を聞いた。
『メイド・イン・バングラデシュ』
『メイド・イン・バングラデシュ』
© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

「あなたの月給はこのTシャツ2、3枚分」

毎日1600枚ものTシャツを作っているバングラデシュの女性、シムはそれを聞いて愕然とする。4月16日に公開される映画『メイド・イン・バングラデシュ』の中の1シーンだ。 

1枚数千円で売られるファストファッション。低価格かつトレンドをおさえたデザインで多くの人に親しまれている。だが、ファストファッションがなぜ安いのかといえば、それは製造者たちが極端な低賃金で働かされているからだ。

この映画は、「世界の縫製工場」と呼ばれるバングラデシュの女性たちの戦いを描いた作品だ。高い経済成長率を誇る同国の経済を支えるのは輸出量の8割近くを占める縫製産業である。本作は、そんなバングラデシュの工場で、低賃金で劣悪な環境で働く女性たちの苦境と、自らその境遇を改善しようと労働組合を結成する女性たちの勇敢さを描いた作品だ。

『メイド・イン・バングラデシュ』
『メイド・イン・バングラデシュ』
© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

本作のルバイヤット・ホセイン監督は、縫製工場で労働組合を結成した一人の女性と出会い、彼女をモデルに映画製作を決意。緻密なリサーチをもとに、事実に基づく物語を作り上げた。世界中で事業展開するファストファッション業界を支えている「知られざる人々」を浮かび上がらせ、グローバル経済の不均衡について考えさせる作品に仕上がっている。

ルバイヤット・ホセイン監督に本作とグローバル社会におけるバングラデシュ経済の現状について、話を聞いた。

ルバイヤット・ホセイン監督
ルバイヤット・ホセイン監督
© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

バングラデシュの経済を支える女性労働者 

『メイド・イン・バングラデシュ』
『メイド・イン・バングラデシュ』
© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

近年、バングラデシュは高い経済成長率を維持している。世界銀行の調査によると、南西アジアの中でも堅調な経済成長が予想される地域とされており、2021年・2022年度の実質GDP成長予測は6.4%とされている。

そんなバングラデシュの経済成長を支えているのは輸出産業の8割近くを占める縫製産業だ。バングラデシュは安い労働力を背景に、世界的なアパレル企業の工場を増やし続け、同国の基幹産業に成長させている。その縫製産業に従事する労働者の8割近くが女性だ。 

女性が多く従事している理由は様々だが、一番大きな理由として挙げられるのは、女性の方が安く雇えるという点だ。コストが低いという理由で世界の縫製工場となったバングラデシュだが、労働環境も劣悪な場合が多く、安全基準もおろそかにされることもある。2013年に1000人以上の死者を出したラナ・プラザ崩壊事故で犠牲になったのは、ほとんどがそうした工場で働く人々だった。

本作は、そんな工場で働く女性たちが労働組合を結成し、自分たちの権利を獲得するために立ち上がる物語だ。ダリヤ・アクタードさんという実在の女性をモデルにし、自らの境遇を変えようと自立する女性の姿をたくましく描いている。

ホセイン監督は、バングラデシュでは少数である女性監督として、常に自国の女性の物語を取り上げてきた。前作では中産階級の女性たちを描き、次は労働者階級の女性たちを取り上げるべきと考え、リサーチを重ねる中でダリヤさんと出会ったのだという。

「バングラデシュで労働者階級といえば、圧倒的に縫製工場に従事する人が多いですから、縫製工場を取りあげるのは必然でした。

ダリヤと出会った時には、すでに彼女は労働組合長をやっていました。彼女は10代の頃に無理やり結婚させられそうになり、故郷から逃げ、働きながらその地位を獲得したのです。そんな自分の足で立って、自立した存在である彼女を映画で取り上げたくなったんです」

本作の主人公シムが直面する困難の95%はダリヤさんが実際に体験したエピソードだという。

シムは、13歳ごろ、両親に結婚を強制させられそうになり、地元を飛び出し首都ダッカにやってきた。失業した夫と二人暮らしの生活を支えるために毎日遅くまで縫製工場で働いている。

時には残業代を支払ってもらえないこともあるが、労働者権利団体のナシマと出会い、労働組合を結成する権利について教わるとみずから組合結成のために行動に移す。

工場長からは組合ができれば工場がつぶれると脅しをかけられながらも、労働法を学び仲間を粘り強く説得し続ける。組合申請のために労働省へ書類を提出してもなしのつぶてで、工場の幹部はなぜか労働省に提出されたリストを持っており、シムを脅してくる。

それでも、仲間の従業員を守るためにあきらめないシムの勇敢さが胸を打つ。

月給はTシャツ2、3枚分…それでも「コストが高すぎる」

『メイド・イン・バングラデシュ』
『メイド・イン・バングラデシュ』
© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

バングラデシュの縫製工場の多くは、外国企業の受注を受けて操業している。グローバルな巨大企業の莫大な利益を支えているのは、シムのような低賃金で働く人々の存在だ。

本作の中に、欧米人がシムの工場を視察に訪れ、工場長に向かって「君の工場はコストが高すぎる」と言うシーンがある。

しかし、その工場で働くシムの月給はファストファッションの「Tシャツ2、3枚分」に過ぎないのだ。

ホセイン監督は「あのシーンのセリフは、実際に欧米人が口にした言葉です。ああいうことはしょっちゅう言われています。あのシーンは絶対に入れなくてはならないと考えていました」と語る。

グローバル企業の利益、そして先進国の人々が安い服を享受するために犠牲になっているのは、シムたちのような工場労働者なのだということが端的に示される重要なシーンだ。

世界に衝撃を与えたラナ・プラザの悲劇のその後

『メイド・イン・バングラデシュ』
『メイド・イン・バングラデシュ』
© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

低コスト実現のために、賃金だけでなく安全性も犠牲にされていることを本作は示唆している。

この映画は、シムが勤める縫製工場の火災のシーンから始まる。古そうなビルで多くの女性がミシンに向かい、配線なども複雑になっている様子がうかがえる。

ここから物語を始めた理由として、ホセイン監督は「このような環境の整っていない場所で働くということは、常に命の危険にさらされるということです。バングラデシュの女性たちがいかに高いリスクを抱えて仕事しているのかを知ってもらいたくて、映画を火災のシーンから始めることにしました」と語る。

このシーンは、2013年に発生したラナ・プラザ崩壊事故を思い起こさせる。

2013年4月24日に発生し、1000人以上の死者を出したこの事故は、崩落の前兆は前日からあったという。ビルには大きな亀裂が入っていて、工員たちは危険を感じて、中に入ろうとしなかったそうだが、ビル内の5つの縫製工場は操業を強行。ビルの所有者サヘル・ラナは工員たちを棒で叩いて中に入るように強制し、経営者たちは仕事しなければ今月分の給料は払わないと脅したとも言われているそうだ。そして、午前8時に、8階建てのビルが突如崩壊し、多くの命が失われた。(長田華子『990円のジーンズが作られるのはなぜ?』合同出版より)

世界に衝撃を与えたこの事故以降、外国企業のコンプライアンス意識は高まり、工場の安全対策にも気を配るようになった。工員たちの低賃金問題も先進国で報道される機会も増え、今では「組合が整備され、安全基準が満たされた工場の方が外国企業も契約しやすい状況になっている」とホセイン監督は語る。

だが、そうした環境改善に最も尽力しているのは、この映画で描かれたシムのような当事者たちの努力なのだとホセイン監督は強調する。

「今では大きな事故はほとんど起きることなく、トイレもきれいになるなど、工場の労働環境は大きく改善されてきています。こうした結果は、まさにシムのような人々が権利を勝ち取るために戦い続けたからなのです」

権利のために戦う彼女たちを知ってほしい

『メイド・イン・バングラデシュ』
『メイド・イン・バングラデシュ』
© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

本作の主人公シムは、自らの力で立ち上がり物事を解決していける、知恵と勇気と意思を持った存在として描かれている。ホセイン監督は、「バングラデシュの女性は犠牲者ではない」ことを、どうしても伝えたかったという。

「彼女たちが自らの権利を勝ち取るために頑張っているところを見てほしかった。

そして、みなさんが着ている服を作っているのはどんな人たちなのかを知ってほしいと思います。報道で1000人死んだと言われても、それだけではどんな人なのかピンとこないでしょう。名前も顔も知らなかった存在に気が付き、彼女たちをリスペクトしてほしかったのです」

この映画は、理不尽を変えていこうとする意思の大切さを描いている。グローバル経済の不均衡を是正するために、どうすべきか課題は多いが、私たちの生活を支えている人々の不平等を変えていくために、日本に住む人間もやるべきことがあるはずだと気付かせてくれる。

この現実を知るために本作は最良の作品だ。

(取材・文:杉本穂高 編集:毛谷村真木/ハフポスト)

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