中絶の権利規制、沈黙してきた男性たちに「声を上げて。全員の問題」。アスリートからも強い反発

アメリカ最高裁は、女性が人工妊娠中絶を選ぶ憲法上の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下した。女子サッカーのミーガン・ラピノー選手は、試合前の記者会見で訴えた。
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ミーガン・ラピノー
ミーガン・ラピノー
Jeff Kravitz via Getty Images

「あなたたちは長い間沈黙し続けてきた。声をあげて」

「この判決により、この国に存在する多くの不平等は、悪化の一途をたどるでしょう」

アメリカ連邦最高裁判所は6月24日、1973年に女性が人工妊娠中絶を選ぶ憲法上の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」をおよそ半世紀ぶりに覆す判断を下した。州による中絶の禁止や制限を容認する判決に対し、国内外で強い反発が起こっている。

「今日はサッカーの話だけできればよかったけど」

女子サッカーアメリカ代表のミーガン・ラピノー選手は、コロンビアとの親善試合を控えた記者会見でこう語った。

「しかし、今日はロー対ウェイド裁判の判決が覆り、それはどんなことより優先しなければいけない」

ラピノー選手は、アメリカで中絶を選ぶ権利を保護してきた歴史的判決を覆した最高裁の判断に対して、自分とチームメイトがどれほど動揺しているか「言葉にするのは難しい」と付け加えた。

「あなたたちは長い間沈黙し続けてきた」

オープンリー・レズビアンであり、女子バスケットボールのスー・バード選手と婚約しているラピノー選手は、これまでもLGBTQや女性の権利の保護を訴えてきた。最高裁の判決について、記者会見でこう語った。

「常に容赦ないまでの猛攻撃が押し寄せてくるこの国で暮らすことがどれほどに困難か、理解するには十分です。女性…、同性愛者、ノンバイナリー、トランスジェンダー。誰であろうとこの判断の影響を受けます。女性、シスジェンダーの女性に限らず、多大なる影響を与えるものなのです」

さらに、The Philadelphia Inquirerによると、ラピノー選手は、これまで中絶の権利について声をあげてこなかった男性たちに対し、「あなたたちは長い間沈黙し続けてきた」として、こう呼びかけた。

「立ち上がって、声を上げてください。これはあなたの妻、姉妹、友人、ガールフレンド、子どもの母親ーー私たち全員の問題なのです。

女性の身体の自己決定権、女性の権利、女性の精神、私たち全員の心と魂に対する暴力的で止まない猛攻撃を、あなたたちは許容してきたのです」

ラピノー選手は、この判決が人々に与える影響について、「インターセクショナリティ(交差性)を理解しようとする」ことが重要であるとも訴えた。

※『インターセクショナリティ』(人文書院、2021年刊)によると、インターセクショナリティとは、「人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティ、ネイション、アビリティ/ディサビリティ、エスニシティ、年齢などさまざまな要素の交差する権力関係と社会的立場の複雑性を捉える概念」を指す。

自分は「シスジェンダーの裕福な白人女性」であり、多くの人々が受けられていない保護を、自分は受けているとも話している。

「この判決は、困窮する女性、黒人女性、褐色人種の女性、移民、虐待を受けている女性、レイプされた女性、家族にレイプされている女性や少女、最適な選択ができなかった女性や少女ら全てに対して、不釣り合いなまでの大きな影響を与えることが明らかです」

「妊娠を強要される理由はどこにもありません。この判決により、この国に存在する多くの不平等は、悪化の一途をたどるでしょう」

「ロー対ウェイド判決」とは? 中絶反対派の追い風になったトランプ前大統領

ロー対ウェイド判決とはおよそ50年前、それまで違法とされていた人工妊娠中絶を女性の権利と認めたもの。当時、テキサス州の連邦地裁が「中絶を著しく制限するテキサス州法は違憲」という判決を下し、1973年に連邦最高裁もこの判決を支持した。

しかしその後も妊娠中絶は、激しい議論を呼んできた。聖書の教えを厳格に守るキリスト教福音派などを中心とした中絶反対派にとって追い風となったのが、2017年のトランプ前大統領の就任だ。

福音派から支持を受ける共和党のトランプ前大統領は「中絶に反対する(保守派の)人物を最高裁判事に任命する」という選挙公約を掲げて当選。就任後に3人の保守派の判事を指名した。

これにより9人の判事のうち保守派が6人、リベラル派が3人となった。最高裁判事は、大統領が指名し議会上院で承認される。終身制のため、指名した大統領が職を離れた後も影響が続く。

バイデン大統領「悲劇的な過ち」と批判。各地でデモも

Bloombergによると、今回の判断では保守派の判事6人全員が、妊娠15週以降の中絶を禁じるミシシッピ州の法律を合憲とすることに賛成。さらに、このうち5人が、ロー対ウェイド判決と、憲法上の中絶の権利を覆す判断を支持した。

バイデン大統領は、連邦最高裁の判決を受け、ホワイトハウスで演説を行った。「最高裁は国民から憲法上の権利を奪った。悲劇的な過ちだ」などと批判。11月の中間選挙に向け、与党・民主党に多い中絶容認派に投票するよう呼びかけた。

ワシントンの連邦最高裁判所の前には、中絶の容認を訴える人たちが大勢集まるなど、各地で抗議デモが相次いでいる。

※この記事はハフポストUS版を翻訳・編集・加筆しています。