見知らぬ人から「純粋な日本人じゃない」。“ハーフ”の葛藤描く異色の漫画が照らす、社会の歪みと希望

「ハーフ」と呼ばれる人たちの葛藤や差別の問題に切り込んだweb漫画『半分姉弟』。立場が違って「分かり合えない」現実に、私たちはどう向き合えばいいのか。本作から、そのヒントが見えてくる。
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(※この記事には、ミックスルーツの人たちが実際に受けている差別や偏見の実態を伝えるため、差別的・侮蔑的な表現や描写が含まれています。

また、「ハーフ」という呼称には様々な議論がありますが、日本社会で広く浸透し、多くの当事者らの日常生活に影響を及ぼしていることを踏まえ、記事中でも使用しています)

『半分姉弟』
『半分姉弟』
©️藤見よいこ/リイド社

一般に、日本とそれ以外の国にルーツを持つ人を意味する「ハーフ」と呼ばれる人たちの物語を描いた異色のweb漫画『半分姉弟』(はんぶんきょうだい)が、注目を集めている。6月に第1話が公開され、今後連載が続く予定。

作者は、北九州市出身の漫画家、藤見よいこさん。自身もスペイン人の父と日本人の母をもつ当事者だ。

「揺らぐアイデンティティを抱きしめる」をコンセプトに、様々なバックグラウンドを持つハーフの人たちの葛藤と希望を描く群像劇。

描かれるのは、タレントやスポーツ選手など特定の分野で輝かしい能力を放つ存在ではない。どこにでもいる“ごく普通の”人たちの日常だ。

ハーフと呼ばれる人たちが日々浴びる「マイクロ・アグレッション」(※1)や人種差別の問題にも切り込んだ本作。なぜ「ハーフ」をテーマに描こうと思ったのか。藤見さんに聞いた。

(※1・・・明らかな差別に見えないものの、人種・民族、ジェンダー、性的指向などにおけるマイノリティを対象に、相手が属する集団に対する先入観や偏見をもとに、その人個人をおとしめるメッセージを発する日常のやりとり。悪意の有無は問わない)

▼第1話のあらすじ▼

日本人の母とフランス人の父の間に生まれた2人のきょうだいをめぐる物語。弟の優太は「普通になりたい」と改名を決意し、家庭裁判所に通いミドルネームを取った。姉の和美マンダンダはそんな弟の決断に戸惑いながらも、自らも周囲から「異物」のレッテルを貼られ続ける日々に苦悩する。

「自虐ネタ」にしていた過去

©️藤見よいこ/リイド社

ー「ハーフ」をテーマに描こうと思ったきっかけは​何でしたか

身近なハーフの知人が、ルーツを理由に差別を受けたことです。ミックスルーツの人の悩みを、海外にルーツのない日本人の友達に話してもキョトンとされる経験は私自身、これまでに何度もあって。

差別問題を扱うエンタメ作品は、日本でまだ少ないですよね。ですが発達障害を持つ人や性的マイノリティ、移民といった、ずっと「いないことにされてきた人たち」を描く波がきていると感じています。その流れの中で今、私の視点で描けるのは、ハーフと呼ばれる人たちの物語だなと思ったんです。

ー「ハーフ」に向けられる差別や偏見を直接的に問題提起する物語ですが、企画はスムーズに進んだのでしょうか

1社目の出版社に原案を見せた時は、「ストレートすぎて難しい」と消極的な反応でした。読者から受け入れられにくいと思われたのかもしれません。

それでも担当の方は、なんとか実現しようと多くの提案をしてくれました。ハーフの主人公をおとなしい女の子の設定にして、「可愛い小さい女の子」を全面に出すとか、料理漫画の要素も入れるとか。

ですがこれでは、主人公は「都合の悪いことは言語化しないマイノリティ」になってしまう。悲しんだり怒ったり、時には生意気なことも言うマイノリティを描きたかったんです。

企画がなかなか通らず悩んでいた時、この漫画のネーム(下書き前に作成する漫画の設計図)を、一人の友人に見せました。この友人も、ある面でマイノリティ性を持つ当事者なのですが、「主人公に可愛げがなくて口の悪いマイノリティなのがうれしい。この漫画が読みたい」と言ってくれ、勇気づけられました。

その後トーチwebの担当者さんと出会い、私が伝えたいことを汲み取っていただき、納得のいく形で修正できました。

ー姉の和美マンダンダが、見知らぬ男性からコンビニで突然「純粋な日本人じゃないな」との暴言を吐かれるシーンもあります

あれは私自身の体験です。知らないおじさんに突然「純日本人じゃないね」と言われたり、初対面の人に親の馴れ初めを聞かれたり。「ハーフの割にブス」と言われたこともありました。

でも私はそれを自虐ネタにしていたんです。「こういうもんなんだろうな」と自分に言い聞かせ、過剰に適応しようとしていたのかもしれません。

3年ほど前、社会学者の下地ローレンス吉孝さんの『「混血」と「日本人」』(青土社)という本を読み、「マイクロ・アグレッション」という言葉に出合って初めて自分が受けていたのが差別だと気付きました。今は過剰適応ではなく、レジスタンス(抵抗)の姿勢に自分自身は変わったのかなと感じています。

「手に届く範囲の希望」を描く

©️藤見よいこ/リイド社

ーハーフに向けられる差別という社会の暗部をあぶり出す一方で、主人公と親友が正面からぶつかり、「分かり合えない」ことを引き受けた上で関係を再び構築していくプロセスに希望も感じました

私も主人公と似た体験をしていて。私の夫は海外にルーツのない日本人です。「日本語上手ですね」とバイト先の職場の人に言われてとても嫌だったと伝えても、「暴言じゃないでしょ。なんでそんなに嫌なの」と夫からは理解されず、ぶつかったことがありました。

数日後、夫が人種差別に関する本をたくさん買って読んでいたんです。本当の意味では私の気持ちを理解していないかもしれないけど、それでも歩み寄ってくれたことがとてもうれしかった。

今は「分かり合える」ことが良しとされますが、私は「完全には分かり合えないということを分かっている」ことが大事なんじゃないかと思うんです。

社会を一気に変えるのは難しいけど、身近な人との関係をちょっと変えることはできる。そういう積み重ねで社会も少しずつ変わっていってほしい。「手に届く範囲の希望」みたいなものを描きたかったんです。

セクシュアリティの面でいうと私は異性愛者で、法律婚もしています。その意味では自分にもマジョリティ性があって、異なる立場の人々の思いを理解できない部分もたくさんあります。でもそこは、分からないということを分かっていたいんです。

「それは差別だ」と指摘された経験は私も過去にあり、人格を否定されたように感じてしまい、ショックでした。でもその勇気ある指摘を、まずは受け止められるようになりたい。

ー社会課題を漫画で伝えることの意味をどう感じていますか

漫画の良さの一つは、読む手間のかからないインスタントなところ。敷居が低く、手に取りやすいメディアですよね。

だからこそ出来事の羅列じゃなくて、感情や人間関係がどう動くのかを描写したい。そうやって読む人の心に働きかけられれば、身近なこととして感じてもらえるかなと思うんです。読者の方々と一緒に考えながら、迷ったり立ち止まったり、くねくね歩きつつ描いていきたいです。

©️藤見よいこ/リイド社

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「特別群れにとって有用やないと一員にしてもらえんのやと思う」ーー。

第1話では、弟優太がそんな言葉を姉に投げかける。

秀でた才能がある場合や、マジョリティにとって耳障りの良いことしか言わないようなマイノリティばかりが“受け入れられる”現状があるのでは」(藤見さん)

インタビュー後編(後日公開)では、「役に立つ存在」としてのハーフを受容する社会への考えや、あえて「半分」とタイトルに付けた理由などを聞いた。

<取材・執筆=國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版>