イーロン・マスクさん、どんな人?Twitter買収した世界長者番付トップ。LGBTQめぐる投稿で物議も

なりすましアカウントの急増により、認証バッジの有償提供はわずか数日で停止に。他にもドナルド・トランプ氏に下された「永久追放」の撤回求める発言をしたことも

Twitter社を10月27日に総額440億ドル(約6兆1000億円)で買収したイーロン・マスクさん。

Twitter上での発言でたびたび注目を集めるユーザーの1人が一転、今や世界中で2億2000万人以上が利用するとされるTwitterの未来を握る存在となった。

彼は一体、何者なのだろうか。

 (Photo by Nikolas Kokovlis/NurPhoto via Getty Images)
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世界長者番付1位、火星を目指す

フォーブスが4月に発表した最新の「世界長者番付」で1位に名乗りを上げたのが、50歳(当時)のマスクさんだ。総資産は推定2190億ドル(約30兆4000億円)で、米アマゾン・ドット・コムの創業者、ジェフ・ベゾス氏を抜いて今回初めてトップを勝ち取った。

世界一の富を築いた同氏の生まれ故郷は南アフリカ共和国。アメリカの大学を卒業後、今ではインターネット決済で知られる「ペイパル(PayPal)」の前身となる企業を立ち上げた。2002年には宇宙ベンチャーのスペースXを起業し、同社の最高経営責任者(CEO)となった。

続いて2004年には創業期のテスラ・モーターズに出資し、2008年から現在まで同社のCEOを務めている。

米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)=ロイター
米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)=ロイター
HANDOUT via REUTERS

成功を収めてきた企業家は、火星への移住計画が人類存続のカギになると確信している。スペースXによる技術開発を積極的に進め、2026年までに初の有人火星着陸を目指すとしている。

前澤友作さんや震災被災地と交流、「真の友人」

マスクさんの宇宙への夢を分かち合う人物が日本にもいる。ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営しているZOZOの創業者、前澤友作さんだ。

同氏は2018年、スペースXが進めている民間人を宇宙船に乗せて月を周回するプロジェクトの搭乗者の1人目として契約。マスクさんもTwitter上でこの契約を喜んだ。

マスクさんは東日本大震災の被災地との交流も持った。震災から4カ月後の2011年7月、同氏は地震や津波で大きな被害を受けた福島県相馬市を訪ね、太陽光発電システムを寄贈する意向を表明した。

震災から11年後の2022年3月に当時を回顧したマスクさんは、Twitterに「真の友人とは、世界が離れていくときに歩みよって来てくれる人のことである」と日本語で投稿した。

日本に関する発言で物議を醸すこともあった。2022年5月8日にはTwitter上で日本の出生率低下への危機感を表明し、何も手を打たなければ「日本はいずれ消滅する」と述べた。この発言には日本人の著名人も反応を見せた。

At risk of stating the obvious, unless something changes to cause the birth rate to exceed the death rate, Japan will eventually cease to exist. This would be a great loss for the world.

— Elon Musk (@elonmusk) May 7, 2022

マスクさんのTwitter: 「日本はいずれ消滅する」

「X」と「Y」の父親

プライベートでは、パートナーでグライムスさん(ミュージシャン)との間にもうけた二児の父だ。2020年に生まれた第一子を「X Æ A-Xii」、2021年に代理出産で生まれた第二子を「Exa Dark Sideræl」と名付けた。2人は子どもをそれぞれ「X」「Y」と呼んでいるという。

グライムスさんは子どもについて「自分の運命とアイデンティティは、自分で決めると思う」と語り、性別を本人に決めさせるという姿勢を見せている。

パートナーのマスクさんについては「私たちの関係をピッタリ表す言葉はない」(グライムスさん)。

「彼はボーイフレンドだともいえるが、私たちはもっと流動的な関係。他の人たちに私たちの関係を理解してもらおうとは思っていない

pic.twitter.com/lm30U60OtO

— Elon Musk (@elonmusk) May 5, 2020

マスクさんのTwitter:赤ちゃんのXを抱くマスクさん

Twitterへの投稿が元になった騒動も

マスクさんはTwitter上に1億1000万人ものフォロワーを抱える(2022年11月時点)。注目の的は、時に投稿の内容で全世界を騒がせることもあった。

2018年には「テスラの非公開化を検討している」とTwitterに投稿。証券取引委員会は、この投稿が証券詐欺に当たるとして、同年にマスクさんを提訴した。マスクさんは最終的に4000万ドル(約55億5000万円)で示談し、費用の半額はテスラ社が支払った。

自らのビジネスと直接には関係しない文脈の発言も、注目を集めてきた。

2020年には「代名詞は最悪だ」と投稿。トランスジェンダーの当事者らの性自認を尊重するために使われる人称代名詞を嘲笑っているとして批判を浴び、パートナーのグライムスさんの怒りさえも引き出していた。

Pronouns suck

— Elon Musk (@elonmusk) July 25, 2020

マスクさんのTwitter: 「代名詞は最悪だ」

「Twitterには並はずれた可能性」

ツイートで多くの物議を醸してきたマスクさんがユーザーとしてではなく経営面でTwitterに関与する行動にでたのは、2022年3月。Twitter社の株式の9.2%を取得し、同社の筆頭株主になったとされた。

マスクさんは同月、「事実上の公共の広場であるツイッターが、表現の自由の原則を守らず、民主主義を根本的に弱めていることを考えると、何をすべきか?」と批判していた。

10日後の14日、マスクさんはTwitter社に対し、全株式を取得して買収する提案を行なったと表明。25日には同社がマスクさんの買収案を受け入れることで合意したと発表された。

マスクさんは「言論の自由は機能する民主主義の基盤であり、Twitterは人類の未来に不可欠な話題が議論されるデジタル上の街広場だ」と声明で述べ、新機能の追加やアルゴリズムのオープンソース化、スパムボット排除などで、Twitterを改善していくと発表。

「Twitterには並はずれた可能性があります――会社やユーザーたちとその可能性を解き放すのを楽しみにしている」とコメントした。

マスクさんはTwittterによるユーザーの「永久追放」の方針を全般的に廃止する意向を示していた。5月にFinaicial Timesに対し、「永久追放は対話を分断し、プラットフォームへの信頼を損ね、いかなる礼節を促すことにもならないだろう」と語った。その上で、「永久追放はボットやスパムアカウントにのみ適用されるべき」と述べた。

特に、2021年1月8日にTwitterから永久追放されたアメリカ前大統領のドナルド・トランプ氏への措置を撤回したいとしていた。

ただし、Twitter買収後の11月1日のツイートでは、態度を保留。「明確なプロセスができるまでは、Twitterのルールに違反してプラットフォームから除外された人物を、戻すことは許可しない」として「これには、少なくと数週間かかる」とした。

アメリカの中間選挙は民主・共和両党で接戦となっており、ジョージア州の決選投票が12月6日に実施されるため、トランプ氏の凍結解除の影響を計りかねているのかもしれない。

混迷するTwitter新時代

2022年10月、ついにお気に入りのソーシャルメディアであるTwitterを手に入れたマスクさん。ただ、先行きはまだまだ不透明だ。

Twitter社の「イーロン・マスク時代」が始まってから、従業員の約半数が解雇したことで集団訴訟につながったほか、大手広告主が支出を一時停止したことで「悲惨な」財務状況になった。

従来は一定の基準を満たしたアカウントにのみ付与されれていた「認証バッジ」が8ドルで購入可能となり、「認証」の意味を失った。

すると、アメリカ元大統領“ジョージ・W・ブッシュ”の偽アカウントが11月10日、「イラク人を殺していたのが懐かしい」とツイートし、それにイギリス元首相“トニー・ブレア”の偽アカウントが「正直同感」と反応するという事態が起きた。

That sound?

Advertisers quietly seeing themselves out the door.... pic.twitter.com/PHijXj19uF

— John Scott-Railton (@jsrailton) November 10, 2022

Twitter: “ジョージ・W・ブッシュ”と“トニー・ブレア”の偽アカウントのやり取りを記録した投稿

投稿は広く注目を集め、最終的に両アカウントは停止された。

こうしたなりすましアカウントの急増が報告されたことから、同社は認証バッジの有償提供をわずか数日で停止する判断を下した。

人権団体から懸念の声も

Twitterの行方を心配する声は、マスクさんがトップに立つ見込みが報じられた春頃からすでに相次いで上がっていた。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、マスクさんは3月、著名な政府関係者でトランスジェンダーの女性を「ManoftheYear」と嘲笑したツイートをしてTwitterからアカウントを停止されていた人物について、違反によって停止されたのが事実かどうかを確認するよう知人に求めた。

マスクさんはこのときに、Twitterを購入する必要があるかもしれないと考えたという。

マスクさんはこれまで、特定の人々に対する差別ともとれる投稿を多くのフォロワーらに公開しつつ、Twitterによる投稿内容の制限を強く批判してきた。人権団体などは、こうした姿勢の同氏が経営トップに立つことで、Twitterが人権侵害を止められなくならないか危惧している。

BBCによると、国際人権団体アムネスティー・インターナショナルはTwitter上で「有害なツイッター(Toxic Twitter)」などと投稿した。

アムネスティの関係者は個人のアカウントからの投稿で、次のようにも述べた。

「利用者を守るために設計された利用規約や仕組みの徹底を損なう方向へ進むのではないかと懸念している」

「利用者に対する暴力的で加害的な言論を、意図的に見ないふりをするようなツイッターは何より困る。とりわけ、女性やノンバイナリー(性自認が男性だけでも女性だけでもない人)を含め、過度に影響を受ける人たちへのそうした言論は」

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