ジャニーズは今後「取って代わられる」のか? ボーイズグループの躍進と、“推し活”が生んだ混乱【2022年総括】

ジャニーズのグループも、そうでないグループも大きく躍進した1年。この状況を支えるのは熱心なファンダムである。“推し活”は従来のカルチャーのあり方を一気に侵食し得るパワーを持つ。

2016→2022

<人気俳優が事務所から独立するという。ここ数年でよく目にするようになったこの手のこと。長年お世話になった事務所を離れて独立するということは、この芸能界ではずっとタブーと思われているところがあった。昭和だけでなく平成になっても。

だが、令和の扉が開くと、その行動を起こすものに対して、随分とそれは軽くなった気がする。変わったのだ。その変化が起きたのは、「あの放送」があったからじゃないかとふと思ったりする。>

鈴木おさむが『文藝春秋』2023年1月号に寄稿した『小説「20160118」』。この日付、すなわち2016年1月18日とは、当時放送中だった『SMAP×SMAP』にてメンバー5人が、その直前に報じられていたグループの今後について自らの口で説明した日として知られている。

『小説「20160118」』は、「小説」の形をとりながら番組の舞台裏で何が起こっていたかを生々しく伝える。特に、<「ソウギョウケ」のトップの一人>からの強硬な要望を受けて台本に入れざるを得なくなったあるメッセージを<「ツヨシ」>に話してもらうべく鈴木とスタッフが楽屋に向かうシーンからは、読んでいるこちらの心をも強張らせるような緊張感が伝わってくる(なお、「小説」という体裁上、ここで引用したように大半の固有名詞はカタカナ表記となっている)。

タレント、テレビ、そして芸能事務所。この場面には、当時の3者の力関係のあり方が凝縮されている。テレビに対するパワーを持つ芸能事務所の声は絶対で、当然タレントもそこに従わなくてはいけない。なぜなら、テレビとの接点を遮断されるということは、実質的に社会との接点を遮断されることと限りなくイコールだったからである

2016年1月18日から、もうすぐまる7年が経とうとしている。タレント、テレビ、芸能事務所の置かれている環境は大きく変わった。インターネット経由での「社会との接点」が多数確立され、テレビの力はだいぶ相対化された。それに伴い、伝統的な芸能事務所による支配力というものもいくぶんではあるが緩和されたと思われる。そのような変化を踏まえて、これまでとは異なる出自を持つタレントが世に知られるようになってきた。

そんな時代の風を大きく受けたのが、2022年のボーイズグループのシーンである

ボーイズグループ時代の開花

2022年は「歌って踊る男性のグループ」の多様化が一気に進んだ年だった。より具体的にいえば、「歌って踊る男性のグループ(ただしジャニーズ事務所所属ではない)」に関する話題が、90年代初頭に端を発するJポップの歴史上もっとも多かったかもしれない年となった。数年前から見え始めてきた兆しが、一気に開花した。

2021年にデビューしたBE:FIRSTは、今年リリースした「Bye-Good-Bye」で多くのチャートの1位を独占。プロデューサーのSKY-HIが掲げる「クオリティファースト、クリエイティブファースト、アーティシズムファースト」というコンセプトがますます支持されることとなった。2023年には同じくSKY-HIが手がけるボーイズグループ「MAZZEL」のデビューも発表されており、新たなクリエイティブのあり方の提示が期待されている。

2021年「CITRUS」でレコード大賞を獲得してそのパフォーマンス力が多くの人に知られるところとなったDa-iCEは、今年「スターマイン」がバイラルヒット。新たなファン層を拡大しつつある。

この「パフォーマンス力」と「バイラルヒット」は今のボーイズグループのシーンを語るうえでのキーワードだろう。前述のBE:FIRSTに関しても、そのパフォーマンス力はオーディション時から折り紙付きであり、またストリーミングサービスとの相性も良い。

パフォーマンス力という観点で言えば、「PRODUCE 101 JAPAN」からデビューしたJO1とINIの実力についての認知がより進んだのも2022年である。Kポップ仕込みのダイナミックなステージは、たとえば『CDTV ライブ!ライブ!』などのテレビ番組でもたびたびフィーチャーされた。

一方で、バイラルヒットという点で2022年盛り上がりを見せたのがTHE SUPER FRUIT「チグハグ」。TikTokで人気を博し、ハッシュタグ「#チグハグ」の再生数は10億回を超えている。また、ドラマ『君の花になる』から飛び出したボーイズグループの8LOOMも「Melody」などがソーシャルで大きな話題を呼んでいる。

もちろん以前からジャニーズ事務所所属ではないボーイズグループの活動は積極的に行われていたものの、メディアを巻き込んで遠くまで広がっていく形にはなかなかなっていなかった。日本のシーンと韓国のシーンが地続きになることでパフォーマンスそのものに対して一般オーディエンスの求める水準に変化が見られつつあること、テレビ以外のデジタルメディアのパワーが増したこと、そしてそれらはかつてのジャニーズ事務所にとってそこまで得意な領域ではなかったこと。様々な要因が重なって、ボーイズグループのシーンに新しい流れが完全に定着した。

ジャニーズは「変わる」のか

もっとも、だからと言ってジャニーズ事務所のグループの勢いがなくなっているかというとそんなことはない。テレビの力が弱くなった中でいまだにある種の権威としての位置をキープしている『NHK紅白歌合戦』には、ジャニーズ事務所から計6組が今年出場。BE:FIRSTとJO1の初出場が新しい時代の到来を感じさせる一方で、いまだそのパワーが健在であることを証明した。

ただ、彼らが岐路に立たされていることは間違いない。2022年は、ジャニーズ事務所の中で何かが起きていることが我々にも明確な形で伝わってきた年でもある。11月にはジャニー喜多川の遺志を継ぐ形で裏方を務めてきた滝沢秀明が事務所を去り、さらには現在のジャニーズを牽引する存在と見られてきたKing & Princeから3人のメンバーが脱退するという発表もあった。いずれもその経緯は不透明であり、外部から見ている限りでは事務所としての展望が伝わってくるとは言い難い。

この先ジャニーズ事務所がどんな形で続いていくのか。一つ言えそうなのは、いよいよこの強大な存在も「パフォーマンス力」と「バイラルヒット」という大きなトレンドからは逃れられなくなりつつあるということである

すでに彼らはその流れに対して手を打ち始めている。今年紅白でも披露されるKing & Prince「ichiban」など、パフォーマンスのクオリティが話題となるケースも増えてきた(だからこそ、彼らの状況が不安定であることはジャニーズにとっての今後の大きなリスクになるわけだが)。また、なにわ男子「初心LOVE」やSnowMan「ブラザービート」がTikTokで人気になるなど(「初心LOVE」はビルボードのTikTok年間ランキングで16位にランクイン)、バイラル対応も視野に入っている。

2022年はジャニーズ事務所に所属しないボーイズグループが大きく飛躍を遂げた1年だったが、それが「ジャニーズ事務所が取って代わられる」ということを意味するとは限らない。現状が次の時代のジャニーズのあり方を模索するフェーズだとすると、それが確立されるタイミングはいつ頃になるだろうか

「ファンダムの時代」のエンターテインメント

ジャニーズ事務所に所属するグループも所属しないグループも元気。この状況を支えるのは、熱心なファンダムである

2021年には「推し活」という言葉が流行語大賞にノミネートされたが、2022年はその状況がさらに進んだ感がある。「推し」という言葉がよりカジュアルに使われるようになり、「誰か/何かを推すことは健康にいい」といった類の言説までたびたび聞かれるようにもなった。

ボーイズグループの人気と、そのファンの「推し活」は切っても切れない関係にある。ソーシャルメディアのアカウントでファンネームを名乗り、グループの魅力を自主的に発信して、自らもストリーミングサービスやYouTubeで積極的に楽曲や動画を再生する。そうして生まれた熱量は、ファンダムの外に波及することで前述した「バイラルヒット」の呼び水にもなる。

左上から時計回りにKing & Prince「Made in」、BE:FIRST「BE:1」、JO1「MIDNIGHT SUN」、Snow Man「ブラザービート」、INI「Awakening」、Da-iCE「REVERSi」。それぞれ音楽チャートで健闘した
左上から時計回りにKing & Prince「Made in」、BE:FIRST「BE:1」、JO1「MIDNIGHT SUN」、Snow Man「ブラザービート」、INI「Awakening」、Da-iCE「REVERSi」。それぞれ音楽チャートで健闘した
Amazonより

ファンの熱い応援によって、そのグループの地位が押し上げられる。一見すると美しい循環に見えるが、一方でその流れが引き起こす歪みに目が向けられたのも2022年だった

「ファンダムの人たちが、あの手この手でチャートをハックしようとしていることは知っています。逆に聞きたいんですが、それって楽しいですか?」

「Billboard運営が警鐘「チャートハック目的では、音楽を“聴く”とは言えない」」という刺激的なタイトルとともに掲載されたKAI-YOUの記事において、Billboard事業本部上席部長の礒﨑誠二はこう語っている。ツイートの数がBillboardのチャートに反映される仕組みを逆手にとり、一部のファンダムが楽曲名やアーティスト名を意図的に投稿するという動きをとっていることに対して、磯崎はストレートに懸念を示した。そして、インタビュー公開後の10月に、Billboardはツイート数に関する指標を12月7日以降のチャートで集計しないと発表した

音楽やそのアーティストの魅力を楽しむのではなく、ファンの皆でその楽曲をチャート上位に送り込むことが目的化する。もともと純粋な気持ちで始まったはずの応援行為が、いつしか義務的な要素すらはらんで「数字で結果を出す」ことだけにフォーカスされていく。そういった本末転倒な事態は、「推し」という文化の危うさをわかりやすく表している

ただ、そんな状況は、この言葉の出自を考えればあらかじめ用意されていた帰結にも思える。「推し」という表現が一般的に使われるようになった大きなきっかけにAKB48の人気があったことを考えると、音楽を聴くための存在だったCDというパッケージに「握手券」「投票券」という意味合いが付与されることでオリコンチャートに混乱が生まれた10年代初頭の光景は、現在ソーシャルメディア上で起こっている出来事の相似形にあるとも言える

数値に換算できる行為でアーティストに「貢献する」というアクションは、作品や表現そのものを味わうよりもはるかに簡単である。「数字が伸びる」という生理的な快楽に「仲間で目標を達成する」という社会的な充実感が組み合わさることで、「推し活」は従来のカルチャーのあり方を一気に侵食し得るパワーを持つ

ファンダムがエンターテインメントを駆動する原動力となりつつある今の時代に必要なのは、受け手と送り手それぞれがあるべき応援のあり方を考えることだろう。これは決してファン側のみに問われることではもちろんない。安易に「推し活」を肯定するメディア、ファンにそういった行動をそれとなく促すアーティスト(というよりもその背後にいる運営の方が負っている責任は大きいかもしれない)、各々の立場からやるべきことがあるはずである。

2016年から2022年に時代が進む中で、タレント、テレビ、芸能事務所のあり方は大きく変わった。そしてその変化は、応援するファンのあり方にも及んでいる。後に歴史を振り返った時に、「2022年はボーイズグループが日本にとって誇れる文化の1つとして広く認知される転換点だった」と思えるような展開がここから生まれることを願いたい。

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