「ブラックフェイス」なぜ問題?肌の色を揶揄するYouTuberの“ネタ動画”が踏みにじるもの

ブラックルーツの人を模倣し、肌を黒く塗る「ブラックフェイス」の何が問題なのか。日々積み重なるように、肌の色を侮辱される経験をしている当事者たちの声から考える。
顔を黒く塗り、共演者に「ドッキリ」を仕掛ける【雨来ズ。】のメンバー
顔を黒く塗り、共演者に「ドッキリ」を仕掛ける【雨来ズ。】のメンバー
【雨来ズ。】のYouTube動画より

ブラックルーツの人を模倣し、顔などの肌を黒く塗る「ブラックフェイス」。人種差別の歴史にひもづく行為で、アメリカなどでは批判の対象となっているが、日本のエンタメの場において依然として断続的に繰り返されている。

チャンネル登録者数が28万人を超えるYouTuberが6月上旬、黒塗りメイクの企画の動画を配信したところ、物議を醸した。7月2日現在、動画はYouTube上で視聴できなくなっている。

ブラックフェイス(黒塗りメイク)の何が問題なのか。

日々積み重なるように肌の色を侮辱され、ルーツを理由に排除の言葉を浴びせられる人たちの声から考える。

(※この記事には、人種差別の実態を伝えるため、アフリカ系にルーツを持つ人やブラックルーツの人たちに対する差別的な発言や描写が含まれます)

黒塗り行為を「黒人化」と表現

問題となっているのは、YouTuberグループ「雨ニモマケズ、ダーウィンは来ズ。」(通称、【雨来ズ。】)が公開した、<【初デート】肌が黒くなってくドッキリの最後に黒人が出てきたらどんな反応するのかww>というタイトルの“ドッキリ”企画だ。

約20分間の動画で、【雨来ズ。】メンバーの一人が化粧品や墨汁入りの塗料を顔面に塗り、インフルエンサーの女性2人の反応を楽しむという内容。

動画の中で、黒塗り行為を「黒人化」と表現したほか、インフルエンサーの一人がブラックフェイスをした出演者に対して「顔がジャガイモみたい」と発言するシーンもあった。

終盤でブラックルーツの当事者とみられる人が登場した際には、<黒人の破壊力に言葉が出ない>とのテロップも流れた。

「人が人だったら黒人差別になる」

「心なしか見る外国人も俺のこと黒人として扱ってる感じがする」

「(顔に)土塗ったみたい」

といった出演者たちの発言もあった。

「黒くて汚い」幼稚園からあった差別

子ども時代の親富祖愛さん
子ども時代の親富祖愛さん
親富祖さん提供

ブラックルーツの人に似せようとして肌を黒く塗る行為が問題だということを、認識していない人も多いかもしれない。

だが、ブラックフェイスをネタにした今回の動画は、肌の色を蔑まれ笑われるという、ブラックルーツの人たちが日々経験する差別とまさに重なっている。

ブラックルーツをもつアメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた親富祖(おやふそ)愛さん=沖縄県=は、4人の子どもを育てている。

現在中学生の長男が、幼稚園に通っていた時のことだ。ある日、長男は親富祖さんに「ガイジンって何?」と尋ねた。他の園児からそう呼ばれたのだと、親富祖さんは察した。

小学校に上がると、同級生がトイレまでついてきて、「(性器が)黒くて汚い」と言われたことも打ち明けたという。

長男が高学年になると、下級生から「なんで(肌が)黒いか分かる?お腹にいる時、お母さんがたくさんタバコ吸ってたんだよ」と言われた。

長男は食事が喉を通らなくなり、部屋にこもり続け1週間学校に行けなくなった。学校の教員たちの間では、「子どもたちはみんな口が悪いですから」として、取り合ってもらえる雰囲気ではなかったという。

一番幼い4歳の次男は1年ほど前、保育園から帰ると親富祖さんにこう言った。

「肌が茶色いから汚いって言われる」

肌の色を侮辱され、ブラックルーツを理由に排除される━━。

現在40歳の親富祖さん自身も、子どもたちと同じような体験を過去にしている。

小学生の頃、上級生から「クロンボ」(ブラックルーツの人への蔑称)と呼ばれ、全校集会の時は他の生徒たちの間で隠れるように列に並んだ。

アフリカ出身のお笑いタレントやスポーツ選手の名前で呼ばれることもあった。

こうした子ども時代の経験から、接客業などの人前に出る仕事を避けた時期もあったという親富祖さん。

「自分が大人になる時には、肌の色へのからかいや、ブラックルーツに対する差別も偏見もなくなっていると思っていました。それがいまだに続いているのは、この動画の作り手のように、偏見が繰り返されることに加担する人たちがいるからです」

「映像を作る大人もその映像を楽しむ大人も、きっと何の被害も受けないでしょう。しわ寄せが行くのは、ブラックルーツの子どもたちです。学校へ行くことも、人前に出ることも奪いかねない。動画を非公開にしたとしても、その責任からは逃れることができません」

甥っ子を抱っこする親富祖さん
甥っ子を抱っこする親富祖さん
親富祖さん提供

「笑い」によって矮小化されるもの

偏見を助長するコンテンツを世に出してしまうことの影響は、たとえ動画を非公開や削除したとしても完全には消せない。

ケニア人の母と日本人の父の間に生まれたメリッサさん(23)=関東在住=は、【雨来ズ。】の動画の公開後、外出時に不安を抱えるようになったと明かす。

例えば電車に乗っている時、目の前にいる知らない人があの動画を見ていて、私や他のブラックルーツの人を心の中で笑っているんじゃないかと考えてしまう」

メリッサさんがそう感じるのは、ブラックルーツに対する差別的なコンテンツを制作する著名人の動きが続いているからだ。

アイドルグループ「嵐」の二宮和也さんが5月下旬、自身のYouTubeチャンネルで配信した動画に波紋が広がった。

この回では、上半身裸のアフリカの男性たちが、片言の日本語でメッセージを読み上げたり、軽快な楽曲に合わせて踊ったりして“お祝い”するサービス「世界からのサプライズ動画」を取り上げ、二宮さんら出演者が無邪気に楽しむ様子が映っていた

「世界からのサプライズ動画」の問題点として、専門家は「特に西欧社会が世界で優位だった19世紀頃の、アフリカ人を『未開人』とみなす紋切り型の表象をなぞるもの」「アフリカの人々に対する偏見を強めることになる」などと指摘している

【雨来ズ。】の今回のYouTube動画と、「世界からのサプライズ動画」。双方に共通するのは、「エンタメとして消費される偏見・差別」という構図だ。

メリッサさんは、「笑い」として表現されることで、差別行為が不特定多数の人に受け入れられやすくなっている、と考える。

「『それは差別です』と指摘した時、『ただのネタなんだから』という反応はとても多いです。ネタにする側に悪意があってもなくても、笑いにすることでその行為自体の悪質性や差別問題がとても軽く捉えられ、矮小化されてしまいます。

ブラックルーツの自分の経験や葛藤が無視され、聞く必要のないものとされることにえぐられる気持ちがします」(メリッサさん)

ステレオタイプを演じたミンストレル・ショー

ブラックフェイスの問題はこれまでにも繰り返されてきた。

2017年末には、大晦日のお笑い番組「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」(日本テレビ系)で、ダウンタウンの浜田雅功さんがアメリカの俳優エディ・マーフィーさんに扮し、肌の色を黒く塗った姿で出演。

その演出は複数の海外メディアでも取り上げられ、「人種差別や文化的な無神経さが非難を浴びている」(BBC)などと報じられた。

アメリカでは、黒人の奴隷制度が残る19世紀半ば、顔を黒塗りにした白人の演者がステージ上で歌や踊りなどを披露する「ミンストレル・ショー」という芸能が人気を博した。ショーでは、芸人たちが「野蛮で滑稽」など黒人の当時のステレオタイプを演じた。

なかでも有名なのが、白人コメディアンのトーマス・ライスが演じた黒人奴隷のキャラクター「ジム・クロウ」だ。

この役名は、1870年代からアメリカ南部で人種差別を助長することになった、人種隔離を規定する法律や条例などの総称「ジム・クロウ法」の由来となった。

人種差別の問題などについて発信する「Japan for Black Lives」代表の川原直実さんは、「ブラックフェイスは、ミンストレル・ショーという舞台で繰り返し笑いとして消費された歴史があり、それを想起させるもの。だから現代でもしてはいけないのです」と強調する。

アメリカではその後、公民権運動の広がりとともに制度上の人種差別の解消が徐々に進み、コメディー界においても人種差別をネタにした笑いは控えられるようになった

公人の過去の黒塗りメイクが明るみになり批判を受けるケースもあるが、ブラックフェイスは現在アメリカでタブーとなっている。

ミンストレル・ショーのポスター
ミンストレル・ショーのポスター
Library of Congress via Getty Images

「全てのブラックルーツの人に対する加害行為」

【雨来ズ。】の動画では、肌の色を「土」に例える発言や、墨汁を使う演出もあった。

Japan for Black Livesのメンバーで、アフリカンアメリカンのルーツがあるエリカさんは「日本で育つ中で、自分の肌の色をまさに動画でネタとして挙げられた物によって例えられた経験のある人たちがいます。子ども時代にいじめやからかいで受けた苦痛がフラッシュバックした、という声も届いています」と話す。

「外出先で見知らぬ人に『(日本から)出てけ黒人』と怒鳴られたり、コンビニで『アフリカに帰れ』と言われたりする。そういう日常のヘイトとともに生きているんです」

アフリカ系アメリカ人と日本のミックスルーツのNさんも、「『顔を黒く塗る、顔が黒い=面白い』という感覚が若い世代に植え付けられてしまうこと、また私のように傷つくブラックルーツの子どもがうまれることが辛い」と訴える。

川原さんやエリカさんが強調するのは、ブラックフェイスをネタにした動画は、特定の属性の人たち全員に対する偏見を助長するという問題の深刻さだ。

一部の当事者が「差別には当たらない」として許容したとしても、「国外だけでなく、日本国内でも生活するブラックルーツをもつ全ての人に対する加害行為になり得る」とエリカさんは語る。

「嘲笑する意図で、肌の色がネタとして消費されている。現代も形を変えて、ミンストレル・ショーと同じことをやっています。終わった話ではなく、今もずっと続いているのです」(エリカさん)

問われる受け手の姿勢

【雨来ズ。】の動画について、アフリカ系アメリカ人の作家バイエ・マクニールさんは、「これは日本ですでに蔓延しているいじめの一形態。肌の色が笑いのネタになるというのは、本当にばかげたことです」と批判する。

「【雨来ズ。】への取材依頼に返答がなかったため、あくまで私の考え」と前置きした上で、こう指摘した。

「出演者たちは、ブラックフェイスが日本で物議を醸すことを分かっており、それによって注目を浴びることができ、視聴回数を押し上げ金銭的な価値があると認識した上で投稿しているのだと思います。

すでに多くの人が今回の動画を批判しており、全ての日本人がブラックフェイスを受け入れているとは私は考えていません。

ですが、一部の人たちの間では、社会的マイノリティがリスペクトされるために重ねてきた努力を踏みにじるコンテンツが好意的に受け入れられている。動画の制作者たちは、そのことをよく知っているのではないでしょうか」(マクニールさん)

誰かの尊厳を踏みつける行為を「笑い」に昇華させる。そうしたコンテンツを提示された時の受け手側の姿勢もまた、問われている。

ハフポスト日本版は、【雨来ズ。】がエージェント契約を結んでいるYouTuberのマネジメント事務所「Kiii」を通じて取材を申し込んだが、期限までに返答がなかった。回答があり次第、追記する。

<取材・執筆=國崎万智(@machiruda0702)/ハフポスト日本版>

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