「でゅえっと」のミートソースにピンクのちくわ…。愛媛・松山の知られざる名物

ライターの西森路代さんと白央篤司さんによる「食」をめぐるリレーコラム。帰省の楽しみは「食」と断言する西森さんが必ず立ち寄る駅前の人気店「でゅえっと」のミートソースをはじめ、故郷・松山の味を紹介します。
「でゅえっと」のミートソース
筆者提供
「でゅえっと」のミートソース

お正月を少しずらして、故郷の松山に帰省してきました。帰省の楽しみはなんといっても「食」。松山に帰ったときには、いくつか立ち寄りたいところがあります。

まず食べたいのが、松山市駅前にある「でゅえっと」のミートソース。全国的にも有名になりつつありますが、ここのミートソースは甘くてスパイスが効いていてクセになる味が特徴です。ソースの持ち帰りもできて、家で甘いミートソースを食べることもできるし、最近はネットにも「でゅえっと」の「デュエット風ミートソース」のレシピがたくさんあがっていたりします。

この甘い味が「でゅえっと」だけでなく、松山のミートソースのスタンダードな味になりつつあります。愛媛の味噌メーカーであるギノー味噌からは甘いミートソースのレトルト食品「松山昭和ミートソース」が発売されていて、私もたまに通販で購入しています。

また、松山市内にある「ホーム食品」にも冷凍のミートソースが売っていて、通販にも電話で対応しているそうです。私も興味はあるものの、松山で車を手放してしまったので、なかなか行けないのが残念でしたが、今度は通販に挑戦してみようと思っています。

本家「でゅえっと」のミートソースは甘いこと以外にもうひとつ特徴があります。それは、めちゃめちゃ量が多いということ。デフォルトの「デュエット風ミートソース」は、全部食べ切れるのかなというほどの大盛で、「デュエット風ミートソース(小)」が、一般的にお店で提供される量と思ったほうがいいでしょう。

とはいえ、私が小中学生の頃は、大盛(に見える)サイズしかなく、(小)ができたのはそれよりも、もっと後のこと。帰省する度に、今も通常のミートソースが完食できるだろうかと心配になりながら注文しますが、今回も無事に完食してしまいました。

天津飯のあんは甘酢ベース、醤油ベース、それとも…

天津飯のあんは塩ベースか醤油ベースか、それとも甘酢ベースか…
筆者提供
天津飯のあんは塩ベースか醤油ベースか、それとも甘酢ベースか…

もうひとつ、帰郷したときに食べたいのが、松山にある中華ファミリーレストランの「チャイナ・ハウスすけろく」の天津飯。「すけろく」は松山を中心に展開しているチェーン店ですが、最近はご当地チェーン店も注目されていますね。

天津飯は、東京でも「王将」や「大阪王将」で食べることが多くて、好きなもののひとつ。ただ、醤油や塩ベースのものと、ケチャップや甘酢ベースのものがあって、お店の人に聞かないと、どっちの味なのかなかなかわからなかったりもしますよね。

私は、「すけろく」の天津飯に長らく親しんできたので、東京に来た時に初めて食べた天津飯が甘酢あんだったときには、「なんだこれは!!!」と衝撃を受けました。その後、町中華で「これは甘酢の味ですか?」と聞いたら、「何言ってるの?甘酢に決まってるでしょうが」という対応をされたりもして、東京で塩気のある天津飯はもう食べられないのかと思っていた時期もありました(その頃は「王将」などお店によって塩や醤油ベースの天津飯があることをまだ知らなかったのです)。

今は、東京でも塩や醤油味の天津飯もたくさんあって、私がよく見ているInstagramには、塩ベースか醤油ベースか、甘酢ベースかという味の違いが詳しく書いてあるアカウントもあって、東京でも塩や醤油ベースのお店に行ってみようと思ったりしています。ただ、現時点で東京で塩ベースの天津飯を食べたのは、阿佐ヶ谷にある「大陸飯店」くらいではあるのですが……。

「すけろく」の天津飯は、ものすごく特徴的というわけではないのですが、子どもの頃から家族で車に乗って買い物に行き、その帰りに立ち寄った思い出の味で、帰省した際は、ふと行きたくなってしまうのです。醤油ベースでほんのちょっと中華的な匂いがあって、家で再現しようと思ってもなかなか実現できません。

でも、もしも私が松山に住み続けていたら、「でゅえっと」も「すけろく」も、当たり前にありすぎて、行かなくなっていたかもしれません。

昔、松山に住んでいたころ、地元を離れて東京に住んでいる知人やその仕事仲間の人におすすめのお店を聞かれたとき、私は、東京に負けないようなオシャレで新しいお店を紹介したりしていたのです。

ところが、その知人に、東京から来る人はそういう東京にもあるものに興味があるわけでもないし、おしゃれとか新しいとかは関係なく、松山ならではの味が食べたいものなのだと教えられて、当時はそういうものなのかと釈然としない気持ちになっていたのです。

ただ、今となってはわかります。松山を離れているからこそ、「なんでもないように思えて、これがこの土地の味だ」というものが食べたくなるのだと。

「しぐれ」「ゆずっこ」愛媛の素朴なお菓子

別子飴
筆者提供
別子飴

お土産物やお菓子でも、素朴な愛媛の味が恋しくなることがあります。柚子の入ったこしあんを、和風のスポンジ生地で巻いた「タルト」や、小ぶりの三色団子の「坊ちゃん団子」などは有名かと思いますが、私が必ず買って帰るのは、「しょうゆ餅」や「しぐれ」「ゆずっこ」です。

これらのお菓子の名前を初めて聞いた人も多いかもしれません。「しょうゆ餅」は、上新粉を使ったお餅で、醤油やしょうが汁が入っていて、ツイストドーナツみたいに(大きさはもっと小ぶりですが)ねじってあるのが特徴です(ねじってないものもあります)。

醤油味のものは茶色ですが、ピンクや白、薄い黄色のものなどもあります。江戸時代初期に、ひな祭りを祝う伝統菓子として広まったのが起源だそうで(私もこの原稿を書くために調べて初めて知りました)、だから色合いが菱餅に近いのかも!と思いました。

「しぐれ」は大洲の名物で、小豆と米粉や餅粉をあわせて蒸した和菓子です。食べた感じは、ういろうに似ていますが、もっともちっとして素朴な味わいです。

「ゆずっこ」は、白いまんまるな白あんのお団子の上に、柚子がちょこんとのっかっている小ぶりなお菓子です。お団子のまわりは寒天状の膜で覆われていて食感も楽しいです。こちらは、伊予の小京都と言われ、大正時代に建てられた内子座があることでも有名な内子の名物。松山市内でも売っているお店は多くはないのですが、見つけたら購入しています。

ピンクのちくわ
筆者提供
ピンクのちくわ

それ以外にも、今回の帰省時に近所のお土産屋を見ていて、こんなものもあったなと改めてなつかしく感じたのが、「別子飴」と「ピンクのちくわ」でした。

「別子飴」は、新居浜にある別子銅山に由来して名付けられた昔ながらの飴です。みかん、お茶、いちご、ココア、ピーナッツ入りみるくの5つの味があります。とはいえ、別子飴は、子どもの頃によく家にあったけれど、大人になってからはほとんど食べたことがなかったお菓子でした

今回、お土産屋に小さい別子飴のパックが売ってあり、そのレトロな可愛さにぐっときて思わず手にとってしまいました。友人などに手土産で渡したところ、かわいいかわいいと好評でしたが、あまり目にすることがなくて、私も物産市のようなところで買いました。

その物産市場には、ピンクのちくわも売っていました。あざやかなピンクが可愛くて、これも思わず手に取ってしまったのですが、そういえば、昔、家でも食べていたような…。でも、上京してからは、茶色いちくわしか見たことがなく、すっかり記憶から消されていたのでした。

次回帰省したときにも、また何か新鮮なものがないか、地元のスーパーなども散策したいものです。

(文:西森路代 編集:毛谷村真木