【東日本大震災13年】知っておきたい「災害時」の食事の摂り方。日頃からの食品の備え「ローリングストック」とは?

東日本大震災や直近の能登半島地震でも問題となった、避難所で暮らす人々の健康問題。日頃から、非常食・サプリメント・携帯トイレの充分な備蓄が求められています。
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今日2024年3月11日(月)で東日本大震災から13年。今年は1月1日に能登半島地震が発生し、2ヵ月あまりが過ぎた現在でも、多くの人が避難所や断水の続く自宅などで不自由な生活を余儀なくされています。

避難生活では十分な物資の供給、入手が限られがちなため、必要な栄養成分の摂取不足が大きな問題となっています。避難所生活で不足しがちな栄養成分はどのようなものなのか、また注意したい食事の摂り方などについて、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生に解説して頂きました。

偏った食生活で免疫機能や体力低下のリスク高まる

避難生活中には心理的ストレスなどから持病の悪化が生じたり、栄養補給も通常の生活に比べて不十分で体の状態が悪化しがちです。今回の能登半島地震後も、栄養・食生活支援の強化に向けて、日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)が被災地で活動しています。

具体的にはどのような栄養成分が不足してしまうのでしょうか。

「避難所生活中はパンやおにぎりなどの炭水化物(糖質)主体の主食が食事の中心を占め、ビタミンやミネラルを多く含む肉や魚、野菜などの副食の摂取が十分でないという偏りが生じがちです。

東日本大震災の直後、宮城県内の避難所では1日標準55gが必要なタンパク質が、平均44g、100mgが必要なビタミンCが平均32mgの摂取と、通常より大幅に不足したといいます。厚生労働省が震災発生から約1ヵ月後に発した通達でも、タンパク質とビタミンCに加えて、ビタミンB1とB2の摂取不足の解消が挙げられていました」(山口先生)

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それらの栄養成分が不足すると、どんな悪影響が生じるのでしょうか。

「タンパク質不足では筋肉量の減少、ビタミンC不足では精神的ストレスが生じやすくなります。ビタミンB1不足は過労や神経の興奮を助長し、糖質のエネルギー変換を妨げます。ビタミンB2不足は肌荒れなど、皮膚や粘膜に悪影響を及ぼします。

タンパク質やビタミン、食物繊維の摂取不足は免疫機能低下の原因ともなります。免疫機能が低下すると風邪や感染症に罹りやすくなったり、口内炎を発症しやすくなったりしますので、十分な注意が必要です」(山口先生)

成長期の子どもや女性はカルシウム・鉄分不足に注意

東日本大震災発生から約3ヵ月後の厚労省の通達では、成長期の子どもや女性などの「特定の対象集団」に対して、カルシウムとビタミンA、鉄分の摂取不足への配慮が必要と明記されているようですが。

「具体的ご説明すると、カルシウム不足は6~14歳頃の若年層の骨量蓄積に悪影響を与えます。カルシウムを多く含むのは乳製品や小魚、大豆や緑黄色野菜ですが、避難生活ではこれらの食品の配給が不足しがちです。

ビタミンA不足は感染症のリスクが高まるだけでなく、成長期の子どもの成長阻害のほか、骨や神経系の発達が抑制されてしまう可能性もあります。

鉄分はもともと成長期の子どもや女性に不足しがちな栄養成分ですが、避難生活中に摂ることが可能な食事には鉄分の含有量が少ないことが多く、鉄分の欠乏によって疲労感やだるさが助長され、貧血を起こしやすくなります」(山口先生)

限られた物資の中で注意したい食事の摂り方

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避難生活という物資が限られた中で食事を摂る際、どのような注意や工夫が必要でしょうか。

「まず、不安やストレスで食欲がなかったり、十分な量と質の飲食物が届かなかったりという状況下であっても、できるだけ食事は摂って体にエネルギーを蓄えることを心がけてください。食欲がない時でも甘い物や汁物、野菜ジュースや栄養強化ドリンクなどを積極的に摂るようにしましょう。

水分を摂ることもたいせつです。断水で飲料水を給水所まで取りに行く必要があったり、トイレ事情を考慮しつつも、飲み物が手元にあったらできるだけ飲むようにしたいものです。

水分が不足すると脱水症状はもとより、エコノミークラス症候群や便秘、低体温症などを起こしやすくなります。心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす可能性も高まります。

食物アレルギーのある方はもちろん、どうしても食欲が出なかったり固形物が食べにくかったりなど、困りごとは遠慮せず、周囲のボランティアや避難所のスタッフ、医療・保健関係者に積極的に声をかけ、相談することも必要です。

特にお年寄りは遠慮してしまいがちですので、何か困った様子が見られたら、周りの人のほうから声をかけてみるようにしてください。

避難生活中は体を動かす機会が減りがちです。健康と体力の維持や気分転換のためにも積極的に脚や足の指やかかとを動かし、室内や屋外で歩いたり軽い体操を行ってください」(山口先生)

避難生活中はどうしてもカップ麺や缶詰など、塩分の多い食べ物を多く摂ってしまいがちです。

「塩分の摂り過ぎは高血圧、糖分の摂り過ぎは血糖値の上昇によって糖尿病を悪化させる可能性を高めます。カップ麺に入れる『スープの素』を減らしたり、甘い菓子パンの摂り過ぎは控えたりするなどの注意が必要です。

そのうえで、カップ麺に缶詰のコーンやワカメを加えたり、レトルトカレーに缶詰のサバを添えたりといった、色々な種類の食品を組み合わせて食べることをおすすめします。そうすることで、栄養成分の確保と栄養バランスの向上につながります」(山口先生)

災害時でも栄養補給できる非常食とは?

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“万が一”の災害に備えて、日頃から家庭内に非常食をストックしておくことも推奨されています。

ウェザーニュースでは2月28~3月3日に「非常食、何日分備えてますか?」というアンケート調査を実施しました。全国19,193件から寄せられた回答によると、全体では「約3日分」が最も多く、全体の42%を占めています。

また、年代別で詳しく見ると、年代が上がるにつれて非常食の備蓄日数が長くなる傾向にあり、「約1週間分」の回答が50代は24%、60代以上は28%でした。

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農林水産省は『災害時に備えた食品ストックガイド』(2019年)で、「最低3日分~1週間分×人数分の食品の家庭備蓄が望ましい」とし、さらに「ローリングストック」の重要性についても訴えています。

ローリングストックとは、家庭で普段使いの食品を少し多めに買い置き、賞味期限が迫ったものから消費し、その分を買い足すことで常に一定量の食品が備蓄されている状態を保つための方法です。

栄養バランスを考えた備蓄食品として、タンパク質を摂るための主菜には魚介類や肉類の缶詰が手軽で経済的、長期保存も可能です。そのほか丼やカレー、パスタソースなどのレトルト食品・フリーズドライソース類、鉄分の補給にはかつお節や高野豆腐、桜エビ、煮干しなどの乾物も有効となります。

副菜としては日持ちのする野菜を多めに買い置き、野菜ジュースやドライフルーツ、乾物も用意しておきます。インスタントみそ汁や即席スープ、漬物なども準備しておくといいでしょう。

カルシウム不足を補うためには、長期間の常温保存が可能なロングライフ牛乳や、粉チーズが有効で、羊羹は保存が効く上にタンパク質やミネラルが豊富なので、優れた非常食になります。

「ただし、栄養素を摂取するためにさまざまな非常食を大量に備蓄しておくのは、実際のところ難しいこともあります。摂取と備蓄がしやすいサプリメントを、非常食と一緒に備えておくことも考慮しましょう。

サプリメントなら場所を取らず、避難所へ持って行く際にも軽いので負担になりません。さらに調理が必要ないため摂取がしやすく、長期保存も可能です」(山口先生)

さらに、盲点となりがちなのがトイレです。しっかりと水分を補給するためには、トイレ問題を解決することが重要だからです。

「東日本大震災でもそうでしたが、避難所のトイレは混雑していたり、衛生環境が悪いことから、トイレを我慢するために水分補給を控える人が多くいました。

先述したように、水分補給を控えると、様々な疾患のリスクが高まります。水分をしっかりと補給するためにも、トイレを我慢しなくて済む備えがたいせつです。

最近はさまざまな種類の携帯トイレがありますので、十分な量の携帯トイレを備えておくことも忘れないようにしましょう」(山口先生)

能登半島地震の被災地では、なお避難生活を続ける方々がおられます。私たちも日頃からいつ見舞われるかもしれない自然災害に備えて、非常食、サプリメント、携帯トイレの備蓄も心がけておきましょう。

<参考資料>
佐々木裕子「東日本大震災時の避難所における栄養・食生活状況と管理栄養士としての支援について」、日本栄養士会「災害時の栄養・食生活支援ガイド」、厚生労働省「避難所における食事提供の計画・評価のために当面の目標とする栄養の参照量について」、同「避難所における食事提供に係る適切な栄養管理の実施について」、同「避難生活で生じる健康問題を予防するための栄養・食生活について」、農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」、内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」

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